【てけァし】
子供のころは、身の回りに処分するものがほとんどなかった。あったとしても、何度も何度も姿を変えて、用途を変えて使い、テッテ的に使って、もう使えない状態になったところでやっとお役御免だった。
私は水飲み百姓の
バッチこ (末っ子) だが、例えば、大百姓の厩(まや)の敷き藁は
コジゲ (肥塚?)という、家の裏にあるゴミ捨て場に積み上げ、さらに腐らせて畑や田圃の堆肥にする。そのゴミ捨て場に何でも捨てる。
当時は、まだビニール袋とか、ポリ袋とか、発泡スチロールなんてなかったから、木の切れ端のようなものを捨てない限り、やがてすべてが腐って有機肥料になる。
台所の流しを『
ミンジャ』(水屋)といったが、そこで使った水は、外に設えた『
ミジャノシリ』(水屋の尻)という大きな溜に流し、それを
コジゲにかける。それで藁や残飯などの腐食を促す。
糞尿は畑の肥料。トイレットペーパーは新聞紙や雑誌がほとんどだったので、時々、ナスや大根に新聞の一部がくっ付いていて、
ガッコについていることがあり、ドキリとしたし、葉菜類に回虫の卵が付着して、生で食べると体内に入り、育ち、口から出てくることもあったが、かまうものでなかった。
着物はやがて赤ちゃんのおしめ。次に
シタフギ(雑巾)。
燃料は春に集落の山の雑木が売られ、さらに杉の枯れ枝や
マツパ (松の落ち葉)木端などは当たり前。
おがくずストーブというのがあって、村の製材所にオガクズを貰いにいった。
100% 循環型の生活だった。
作業用の手袋なんかも、獲ってきたウサギの皮をなめして引っくり返して作った。
そこから、「引っくり返す」が変化して、『
てけァし』が生まれた、という説がある。
大体、親指の入る部分と残りの 4 本の指が入る部分の二股になっている。
【でだじ】
モンペ。大相撲の呼び出しが身に着けているもの。
『
でだじ』の本来の意味は、「出発」「旅立ち」。「朝、普段よりすこし早めに仕事に出掛けること」。そこから、「出発前の軽い食事」「旅支度」「旅立ちの装い」。
ま、そんなところだ。
【てぶりはじがん】
初めて会った人に、ほとんどの場合、
「昔、なにをなさっておられたのですか」
と訊かれる。
「ビジネスマンです」
と答えると、大抵ビックリする。
ほとんどの人が、ジャーナリストか、マーケティングリサーチの会社から独立したと思っている。学校の先生や銀行マンが前身と思っていた人もいる。
ビジネスマンといっても、一流商社などではなく、田舎の卸会社のセールスマン。
子供のころからジャーナリストか先生になりたかったが叶わず、卸会社に勤めて 30 数年。55 歳のときに、定年を 5 年残して会社を辞め、勝手に「フリージャーナリスト宣言」をした。
ほんの数年前まで定年が 55 歳だったので、5 年延びたときは、「しまった」とうろたえたが、軌道修正できなかった。
まさに「
てぶりはじがん」のスタートだった。
退職金で住宅ローンの残債を支払ったら、手元に残ったのはスズメの涙ほど。宣言してみたもののどこからも仕事の声がかからない。
今でも時々、その頃の夢を見てうなされたり、背中にどっぷりと汗をかいたりする。
「無一文」「裸一貫」。
「
てぶり」は、『手振り』、すなわち「手ぶら」。
「
はじがん」は『八貫』。「裸一貫」の八倍も酷いスカンピン。
【でらっと】
能代市の観光、物産振興策のキャッチコピーに、この言葉がよく使われているが、私はこの言葉があまり好きでない。
「すべて」「すっかり」「残らず」「全部」「一面」だけど、響きがよくないよ。
能代は好きだけど、ネエ。
【てんこらふぐ】
大沢在昌が好きなのは、『新宿鮫』シリーズの、直木賞を受賞した「無限人形」を読んだのがキッカケ。このシリーズは、古書店探しで、先日、第 1 号を探し当て、全巻揃った。
決定的にしたのは『北の狩人』。この主人公はマタギ出身の新宿デカ。
逢坂剛は、『カデスの赤い星』。これはスペインが舞台。スペインモノか西部劇しか読まないが、スペインのスパイ物の中で、名脇役を演じるのが、我等が須磨弥吉郎。
最近、佐々木譲と今野敏に夢中。
ところが、何がキッカケなのか分からない。
流行とかブームには大抵背中を向けているし、秋田県が出てくるわけでも、関わる登場人物がいるわけでもない。
その話とは全く関係ないけど、「
てんこらふぐ」は、『空とぼける』『意識的に無関心を装う』。
うきうきして、注意力が散漫になることも、そういうらしい。
【でんしけ】
テンプラにして美味。おひたしも絶好調。えもいわれぬスッパミと若干のネバネバ。
「
でんしけ」「
でんぽ」「
ねんぼ」。
あ、間違えた。これらは「さしどり」、和名「イタドリ」のことだ。子供のころ、野原や川の土手で、皮をむいて味噌や塩をつけて食べたなあ。「
どがら」ともいう。茎の中がガランドウだからだね。
てんぷらににしてもおひたしにしても絶品なのはその子供。
「
さしぼ」という。たぶん、「さしどりの坊主」。
【とかふかする】
俺のことを言われているようで
えごちゃわり (居心地が悪い)
じゃ。
これは「そそっかしい」「そわそわする」。
「落ち着かないあわてもの」のこともそういう。
【どぎゃまぎゃする】
うろたえる。語源は「ドギマギ」だね、きっと。
【どしめぐ】
うろたえる。慌てる。
騒ぎまわったり、騒がしい音を出したりすることもそういうが、秋田衆のことかな。
どうでもいいことを騒ぎ立て、反応が強いとうろたえたり、慌てふためく。
あるいは、知らぬ振りをきめこむ。
中身の薄い人にこういうのが多い。
オレのことかなあ。
【どーだりこーだり】
これもまた秋田衆的。
しまいには何がなんだか分からない。
「
どーだりこーだりさべっても、オラ、へば、なにしたってよ」
【とっくりげァる】
引っくり返ったり、裏返しになること。
【となし】
カボチャ。唐ナス? 冬ナス? 冬瓜?
【となし】
こっちはトマト。唐茄子?
【とっぽげァりする】
ビックリする。驚く。
「
どでんまぐる」とも言う。
【どぶでエ】
これも秋田衆気質。
大体、小心者が表面的にそうした態度を取るが、すぐ化けの皮が剥がれてる。すると今度は開き直る。
従い、手に負えない。
【へちゃ】
オシャベリ。単に口数が多いだけでなく、内緒話まで触れ歩く奴。勝手な憶測で噂を触れ歩く迷惑千万な奴。
「放送局」ともいう。放送局にとってはそれこそ迷惑千万なことだろうが、最近のワイド番組の政治への口の挟み方、国民をミスリードして、政治家を思い上らせたり、国民の判断を狂わせたりするのは、悪しき
へちゃ。
そういうことをすることを【
へちゃまげる】という。
のりを越える奴を【
へちゃむぐれ】という。高じて「無能力者」。「バカモン!」と怒鳴る時、「
へちゃむぐれ!」と叫ぶこともある。
語源は、「ペチャクチャ」だろう。
以上、これは、映画『
踊る大捜査線 3』を鑑賞してギバチャンの最後のほうで言った秋田弁の意味が分からなかった方と、これから見に行く方の参考のために。
もっと詳しく?知りたい方は、拙著『
秋田弁なるほど大戯典』(
イズミヤ出版)を、近くの図書館で、なかったら買ってもらって見るか、思い切って買い求めるか。