びんご・生と死を考える会市民公開講座 1999年1月31日
「人生の危機への挑戦」
アルフォンス・デーケン(上智大学文学部教授)

びんご・生と死を考える会市民公開講座 レジメ
びんご・生と死を考える会市民公開講座 感想文
デーケン先生の宿題

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びんご・生と死を考える会市民公開講座 レジメ
「人生の危機への挑戦」
アルフォンス・デーケン(上智大学文学部教授)

(1)生きがいの探求

A. 自分自身の課題に挑戦する〜潜在的能力(human Potentia1)の開発
オブティミストとペシミスト
★「もし一人の人間によって、少しでも多くの愛と平和、光と真実が世にもたらされたなら、その一生には意味があったのである」…37歳でナチスによって処刑されたアルフレッド・デルブ神父の言葉

B. 役割意識の改革〜人生の見直しと再評価(英・1ife review therapy)
人生の総決算(独・Lebensbi1anz)

C.  思いわずらいからの解放
◆「……あすのことを思いわずらうな。あすのことは、あす自身が思いわずらうであろう。一日の苦労は、その一日だけで十分である」(マタイ6章34章)

(2)出会いと別れの意義を深くみつめる

A.「死への準備教育(death education)」の意義
(1)「死への準備教育」の4つのレベル
@知識のレベルA価値観のレベルB感情のレベルC技術のレベル
(2)死の4つの側面
@心理的な死(psycho1ogica1 death)A社会的な死(socia1 death)B文化的な死(cu1tura1 death)C肉体的な死(bio1ogica1 death)
(3)クォリテイ・オブ・ライフ(qua1ity of 1ife=生命や生活の質)を高める
音楽療法(music therapy)・読書療法(bib1iotherapy)・芸術療法(art therapy)・作業療法(work therapy)・アロマセラピー(aroma therapy)・ペット療法(Pet therapy)などの効用について

B.「悲嘆教育(grief education)」の重要な役割
★《悲嘆のブロセスの12段階》
@精神的打撃と麻痺状態A否認BパニックC怒リと不当感D敵意とルサンティマン(うらみ)E罪意識F空想形成、幻想G孤独感と抑鬱H精神的混乱とアパシー(無関心)Iあきらめ→受容I新しい希望→ユーモアと笑いの再発見K立直リの段階→新しいアイデンティティの誕生
◆Getei1te Freude ist doppe1te Freude,getei1tes Leid ist ha1bes Leid.(共に喜ぶのは2倍の喜び、共に悲しむのは半分の悲しみ)…ドイツの古い諺

C.「配偶者の死に備える教育(pre-widowhood education)」の必要性
◆「大きな苦しみを受けた人は、うらむようになるか、やさしくなるかのどちらかである」…アメリカの著述家ウィル・デューラントの言葉

(3)心の絆を結ぶユーモア

A. 発想の転換〜内面への道
なにを「持つ」かよりも、いかに「ある」か…ガブリエル・マルセルの説

B. 苦しみの中での希望〜苦しみの意義『ヨブ記』
★希望への祈リ〜神よ、私に変えられないことは、そのまま受け入れる平静さと変えられることは、すぐにそれを行う勇気と、そしてそれらを見分けるための智恵を、どうぞ、お与えください。

C. ユーモアの役割
@ユーモアの概念
Aユーモアと健康
Bユーモアは愛と思いやリのあらわれ
Cユーモアと笑いによるコミュニケーション
D自已風刺のユーモアの大切さ
◆Humor ist,wenn man trotzdem lacht.(ユーモアとは「にもかかわらず」笑うことである)…ドイツの有名な定義

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びんご・生と死を考える会市民公開講座 感想文
「人生の危機への挑戦」
びんご・生と死を考える会名誉会長 アルフォンス・デーケン氏
(生と死を考える会全国協議会会長、上智大学教授)

1月31日、いよいよデーケン先生の講演会の日を迎えました。期待と不安の入り交じったスタッフは午後2時からの講演に備えて、朝10時に会場の福山グランドホテルに集合しました。会場は300人収容の予定でしたが、大幅にオーバーしそうなので急遽400人体制としました。デーケン先生のレジメや会報などの資料を参加者に渡すために手分けをして袋に入れたり、ホテルの係り員と協力して受付や会場の設営をしましたが、会場の椅子の数はなんとか380席余りまで増やすことができました。会場設営前に現場に行っていて本当に良かったとスタッフ一同胸を撫で下ろしました。

デーケン先生は前日宿泊の広島から昼前に新幹線で福山に着かれました。ホームまで出迎えに行き、元気な先生はホテルまで歩いて、チェックインされました。昼食もそこそこに、先生は講演会場入り口のテーブルに着いてサイン会を始められました。先に広島から来ていた女子パウロ会の人たちが、先生の著書の販売をしており、先生は本を買ってくれた一人一人に笑顔でサインと握手をしていました。開演間近になって、会場入り口は大混雑となり、当日券の人は前売り券の人がすむまで入場を待っていただきました。会場ではスタッフが入場者の誘導・整理をして、前の席から順次着席していただき満席となったので20人余りの人には立ち見席となることを了承していただきました。

「人生の危機への挑戦」と題したデーケン先生の講演は、レジメに従って理路整然とした、そして何よりユーモアに溢れたお話しでした。内容は三つのテーマからなっていました。

(1)生きがいの探求

癌告知や夫の死などの人生の危機に遭遇したとき、絶望して悲観的になる人もいれば、楽観的に積極的態度を取る人もいます。ほとんどの人は潜在的能力の5%くらいしか使っていませんが、人生の危機への挑戦は潜在的能力の開発のきっかけとなります。人はただ生きるだけでなく、創造的に生きて、人間として成長して、意義のある人生を過ごしたいものです。生きがいの探求への挑戦が大切です。

人生の見直しと再評価も、人生の危機への挑戦の一つです。毎日精一杯生きるために、どうにもならないことを思いわずらわないようにしたいものです。また、真面目すぎると人間関係がうまくできません。思いわずらいからの解放とユーモア感覚の開発が大切です。

(2)出会いと別れの意義を深くみつめる

いかに最期まで人間らしく生きるかというために、死への準備教育が大切です。死への準備教育には四つのレベルがあります。第一は、しっかりした知識を身に付けるという知識のレベル、第二は、臓器移植とか延命についてとかという価値観のレベル、第三は、死に対する恐怖や不安という感情のレベル、第四は、患者のニーズに応えるという技術のレベルです。また死には、肉体的な死、社会的な死、心理的な死、文化的な死の四つの側面があります。私たちは肉体的にただ長生きするのではなく、社会的生命の延命、心理的生命の延命、文化的生命の延命をふくむ総体的生命の延命への努力が大切です。クオリティ・オブ・ライフを高めるために、芸術療法、読書療法、音楽療法などが役立ちます。一方、死ぬ前にしておくべき五つの課題があります。第一に、執着から自由になるための手放す態度(何を持つかということより、いかにあるべきかということが大切)、第二に、自分自身をより豊かにできる許し、第三に、感謝すること、第四に、さようならを告げること、第五に、自分自身の葬儀の準備をしておくことです。

(3)心の絆を結ぶユーモア

ユーモアは皆が持っている潜在的能力の一つで、心と心のふれあいであり、相手に対する思いやりがユーモアの原点です。これに対してジョークは、頭のレベルの技術であり、きついジョークは相手を傷つけます。ユーモアは健康にもよく、人間だけが持つ潜在的能力です。自分自身の失敗談を話すことがユーモアとして役立ちます。ユーモアとは「にもかかわらず笑うこと」です。

最後に会場からの質問に答えて、「死に直面した人をいかに暖かく見守るかということは、社会全体、文化全体を評価する大切な尺度です。どのような21世紀の備後の社会と文化を造るかということが、びんご・生と死を考える会の使命です。」と結ばれました。

笑いと感動に包まれた2時間はあっというまに過ぎてしまいました。余韻を残しながら会場を去っていく人たちのために、先生は出口でまたサイン会をされました。引き続き別室で、会員、協力者、希望者など30人余りが参加して懇親会を行いました。備後音楽療法研究会の協力で、キーボードとハーモニカの演奏で皆で歌を歌ってちょっとした音楽療法の気分も味わい、デーケン先生はめったにされない比較文化論の出し物を二つもされました。ここでも笑いがあふれ、最後にデーケン先生の会では恒例になっているユーアーマイサンシャインを参加者全員で輪になって手をつないで歌いました。

その後は、有志20人ほどでデーケン先生を囲む夕食会をホテルから歩いて10分ほどのところにあるプロージット(ドイツ語で乾杯の意味)という店でしました。先生は参加者の多彩な顔ぶれに感心して、自己紹介をかねた一人一人のスピーチに聞き入り、ビールのジョッキを傾けながら適切なコメントをくださいました。参加者の席を回って親しく話しをされ、笑顔で写真に収まってくださり、最後に私たちに激励と課題を与えてくださいました。先生は何度も「楽しかったですね」と繰り返され、名残は尽きませんでしたが10時過ぎにお開きとしました。びんご・生と死を考える会の名誉会長就任を承諾してくださり、今後も福山に来てくださることを約束してデーケン先生は元気に東京へと帰っていかれました。

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デーケン先生の宿題

1)パイオニアとしての使命:孤独の道を歩む勇気を持つこと、お互い同士励まし合うこと
2)個性的であることを尊重:多様なバックグラウンドはランキングでなく、兄弟姉妹として互いを励まし協力する
3)宗教との関係を大切にする:宗教的エネルギーを活かす
4)ボランティアの役割が重要:純粋な、より暖かい日本の社会をつくる

21世紀の新しい福山の社会をつくるという大きいビジョンと大きい使命を自覚しよう
手放すことによって新しいことが残る

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