[政治家と金]

[「政治資金公開」透明化への道はまだ続く] 朝日新聞 社説 2007年12月22日
[「前次官逮捕」防衛汚職の底知れぬ闇] 朝日新聞 社説 2007年11月29日
[防衛利権の闇を納税者の前にさらせ] 朝日新聞 「天声人語」 2007年11月29日
[政治とカネ「抜け穴」温存の法改正だ] 朝日新聞 社説 2007年6月14日
[あぜん「タダでもいいくらいだ」] 毎日新聞 オピニオン(投書欄) 2006年12月17日
[外交機密費] 判決を重く受け止めよ 朝日新聞 社説 2006年3月2日
[議員年金廃止法案 実態変わらず“優遇” 退職金制度導入の動きも] 産経新聞 2006年1月28日
[年金法案可決「国民を甘くみると…」] 中国新聞 社説 2004年4月30日
[政治家に騙され続けても何も言わないお人よしの国民] 中国新聞「天風録」2003年6月13日
[特権にあぐらは駄目「議員の年金」]
 朝日新聞「社説」2003年2月12日
[「議員給与」任期1日でも月137万円] 民主、改正案提出へ「日割り計算、国民の常識」 朝日新聞 2000年12月31

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「政治資金公開」透明化への道はまだ続く
朝日新聞 社説 2007年12月22日

政治資金の使途を透明にし、きちんと報告する。そんな「基本のキ」を実現するための改正政治資金規正法が、ようやく成立した。ちょうど1年前、当時の佐田玄一郎行革担当相が架空の事務所に巨額の経費を計上していた疑惑で辞任した。以来、国民は閣僚らの相次ぐ不正や疑惑の発覚でうんざりさせられてきた。参院選での与党惨敗を受けて、なんと。か今回の改正がまとまった。政党の側が示したけじめということだが、それにしてもなんと長い時間がかかったことか。政治資金の透明化に対する政治家の腰の説重さを、改めて思う。

これまで領収書の保存義務は5万円以上の支出に限られていたが、今後は1円からになる。「ナントカ還元水」とか、実態のない事務所に法外な家賃を払うといった不自然な経理は姿を消すだろう。透明度が大幅に増すのは間違いない。ただ、これですべての「穴」がふさがったわけではもちろんない。

ひとつは、年間300億円以上の税金が投入されている政党交付金について、領収書の保存義務が現行の5万円以上のまま据え置かれたことだ。政党交付金は税金そのものを使うのだから、より厳しいチェックを受けて当然なのに、一般の政治資金より規制が緩いという逆転現象になってしまった。与野党は政党助成法についても「1円から」への改正を急ぐべきだ。

もうひとつ、対象となる政治団体を限定したのも問題だ。国会議員や候補者が代表者である政治団体や、政党の選挙区支部などに絞ったために「抜け道」がいくつもできてしまった。たとえば、代表者に親族を据えた団体をつくれば「1円から」の網がかからないようにすることもできる。穴をふさぎ、透明度をさらに上げていくには、次のような改善が必要だ。ひとりの政治家がいくつもの政治団体を使い分けるのをやめる。複数の団体を持つ政治家は収支を連結して公開する。総務省と都道府県選管に分かれている収支報告書や領収書の提出先を、総務省に一元化する。情報公開制度を使わなくても、いつでも領収書を合めて閲覧できる仕組みにする。

その意味で、今回の改正は重要な一歩ではあるけれど、まだまだ先があることを忘れてはならない。この制度にあぐらをかいて「抜け道」や「隠れみの」を探すようでは、国民の信頼回復のための改正が、逆に不信を増幅させることになってしまう。資金の「入り」についても正すべき点は多い。たとえば多くの政治家が、公共事業を受注している企業から献金を受けている。これは禁止すべきだ。今回の改正で、総務省に100人以上の職員が必要になる。人件費など新たな経費は年間13億円にのぼる。政治家はその責任を重く受け止めるべきだ。

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「前次官逮捕」防衛汚職の底知れぬ闇
朝日新聞 社説 2007年11月29日

「刑事罰に該当するということであれば、それを逃れる考えは全くない」。自らの疑惑について参院の証人喚問でこう述べた守屋武昌・前防衛事務次官が、収賄容疑で妻とともに逮捕された。前次官が軍需專門商杜「山田洋行」の元専務からゴルフ接待を受けていたことが明らかになってーカ月余り。底知れない様相を呈していた防衛利権疑惑は、防衛官僚トップの汚職事件に発展した。前次官は妻と共謀し、装備品納入などで元専務に便恒を図ったことへの謝礼として、12回で約400万円分のゴルフ接待を受けた。それが逮捕容疑である。

具体的な便宜として浮かんでいるのは次のような疑惑だ。元専務は山田洋行から分かれて日本ミライズをつくった。次期輸送機のエンジン調達で、前次官は日本ミライズと随意契約にするよう動いたのではないか。山田洋行は装備品代を水増し請求したのに、処分されなかった。この決着にも前次官がかかわっていたのではないか。装備品調達のほかにも、前次官は日本ミライズの資金集めを助けるため、経済人に口利きした疑惑がある。部下に投資目的で4500万円を預けた問題も発覚したが、真相はいまだに見えない。軍用機から制服まで、装備品に投じられる税金は年2兆円程度だ。機密の壁もあって、その実態は外から見えにくい。日本の安全保障に直結する装備品の調達が、業者との癒着によって、どのようにゆがめられていたのか。検察は長年の利権構造に切り込んでほしい。

山田洋行は巨額な裏金をプールしてきたといわれる。前次官のほかには、どこへ流れわのか。注目されるのは政界とのかかわりだ。前次官の証人喚問では、久間章生氏と額賀福志郎・財務相の2人の防衛庁長官経験者が「元専務との宴席に同席していた」と名指しされた。久間氏は「あり得るかもしれない」と述べた。額賀氏は強く否定しているが、その一方で山田洋行に計220万円のパーティー券を買ってもらったことは認めた。両氏や元専務が名を連ねたことがある社団法人「日米平和・文化交流協会」も家宅捜索を受けた。政界と軍需産業のパイプ役が事実上運営を担う団体だ。政治家と軍需業界との癒着はないのか。その解明こそ検察に期待したい。

それにしても、官僚トップの汚職が絶えないのはなぜか。リクルート事件では労働、文部両省、特別養護老人ホームヘの補助金をめぐる事件では、厚生省の元事務次官が摘発された。これらの事件は何の教訓にもなっていないようだ。官僚組織そのものに汚職を生む構造があると思わざるをえない。守屋前次官は4年間も事務次官を務め、軍需産業との癒着については知り尽くしているはずだ。その実態を明らかにし、防衛利権の闇を一掃する。それが国民に対する、せめてもの償いである。

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防衛利権の闇を納税者の前にさらせ
朝日新聞 「天声人語」 2007年11月29日

ゴルフのルールは自然を尊重する。例えば、モグラやウサギの巣穴に入ったボールは、拾い上げて近くに落とせる。これに対し、穴掘り動物ではない犬が遊びで掘った穴だと救済はない(日本ゴルフ協会)▼欲望の深穴に落ちた人間は、どんなルールでも救いようがなかったようだ。守屋武昌・前防衛事務次官が妻と共に逮捕された。軍需商杜の元専務らにゴルフ旅行の接待を受けた、収賄の疑いだ▼疑惑はしかし、ゴルフざんまいの役人夫婦にとどまらない。政治家がうごめく防衛利権の闇を、今度こそ納税者の前にさらしてもらいたい。接待費とはケタ違いの税金が食い物にされている図が、そこにある▼小銃から戦闘機まで、自衛隊が買い入れる装備品は欧米の軍隊より割高だと聞く。なにしろ、性能も価格も素人の手に余るハイテク工業品である。元手ほ税金だから節約する気もうせ、亮る側の言い値が通りやすい。そこに、巨利が生じる▼79年のダクラス・グラマン事件。後に検事総長となる伊藤栄樹は、国会で「捜査の要諦はすべからく、小さな悪をすくい取るだけでなく、巨悪を取り逃がさないことにある」と、政界中枢への波及を期待させた。だが、捜査は政治家に及ばず、防衛予算の森にモグラのように巣くう利権構造は温存された▼大食漢のモグラは、巣穴に迷い込むミミズや昆虫を端から食らう。穴それ自体が巨大な罠ともいえ、条件が良い巣穴は代々引き継がれるそうだ。検察がたたきつぶすべきは巨悪と、国庫の地下を縦横に走る病巣である。

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[政治とカネ「抜け穴」温存の法改正だ]
朝日新聞 社説 2007年6月14日

政治資金規正法の改正で、与党案が無修正のまま衆院を通過する見通しになった。だが、これで与党に胸を張られてはたまらない。資金の使途を透明化するとは名ばかりで、むしろ不透明さを温存するためとしか思えない中身だからだ。与党案の「売り」は、収支報告書に領収書をつけなくてよかった光熱水費などの経常経費について、5万円以上のものには領収書を義務づけたところだ。一見すると透明になるように思えるが、巨大な「抜け穴」が開いている。5万円未満に支出を小分けすれば、領収書をつける必要がない。さらに、対象が資金管理団体だけに限られているため、政治家がいくつか持っている後援会などの政治団体に振り分ければ、これも抜け落ちてしまう。

民主党は1万円を超える支出について、すべての政治団体を対象に領収書を義務づける対案を出していた。こちらの方が納得できる内容だが、民主党はそれを引っ込めて与党案を土台にした修正案を出し直した。与野党協議を通じて少しでもましな改正に手直しするのが目的だった。少数党として当然である。だが、与党側は一切の妥協を拒み、「抜け床」案のまま突き進んだ。会期末を迎える来週、参院で可決、成立させる構えだ。与党は、何がなんでも領収書を義務づける対象を広げたくないようである。国会審議では「約7万もあるすべての政治団体に煩雑な手間をかけさせるわけにはいかない」といった主張を繰り返した。これは妙な理屈だ。交際費などの政治活動費ではすでに領収書が義務づけられているが、すべての政治団体が対象になっている。経常経費はもともと、事務所の家賃や電気代など決まり切った支出だけのはずだ。それほど過大な手間になるとは思えない。
すべての政治団体がいやだというなら「政党、政治家に関係する政治団体」のみに限定してもいい。民主党がそんな妥協案を示すと、今度は「政治団体の線引きが難しい」と言い出した。どの団体がだれにかかわるものなのか、政治家にきちんと申告させれば済む話ではないか。そもそも規正法が政治家に資金管理団体を一つずつ指定するよう定めた目的は何だったか。与党は思い出すべきだ。

税金から年間300億円を超える政党交付金が投入されることになった94年、それとあわせて「政治家のカネの流れをできるだけ一本化し、国民の前に透明にする」ことが狙いだった。しかし実際には、いまも多くの政治家が資金管理団体のほかに後援会や政党支部など複数の政治団体を持ち、資金を行ったり来たりさせている。ここに網をかけずして、どこが透明化なのか。一連の「政治とカネ」疑惑では、松岡前農水相の自殺という痛ましい事件まで起きた。こんな「抜け穴」改正ではけじめをつけたことにはならない。

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[あぜん「タダでもいいくらいだ」](ドクターちゃびん:こんな政治家を選んではいけない!)
自由業 奥○泰○(倉敷市)
毎日新聞 オピニオン(投書欄) 2006年12月17日

東京のど真ん中、港区赤坂で衆議院議員用宿舎の工事が進んでいる。来春には入居できるらしいが、その豪華さと家賃の安さに驚かされるばかり。国の借金が何百兆円とか、多くの地方自治体が破たん寸前と言われる中で、どこからこんな資金が生まれたのか聞きたいものである。

そんな折、テレビ番組で、国会議員がこの宿舎についての質問に答えていたのを見てあぜんとした。一人の議員が「我々は国政をあずかっているのだから当然であり、タダでもいいくらいだ。入りたければ議員になればいいんだ」と息巻いていたのには、がく然として言葉もなかった。

こんな人たちに国政を任せているのだから、議員年金の「廃止」は名ばかり、郵政造反議員の復党もなし崩し。国民の生活状況には目をつむり、結局は何でもありということなのだろう。平和だから国民も良識を持っているが、国民が「税金不払い」など、政治家に反旗を翻したら、政治家は少しは反省するのだろうかと、ふと思った。

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[外交機密費] 判決を重く受け止めよ
朝日新聞 社説 2006年3月2日

使い道の不明朗さが指摘されてきた外務省の報償費(外交機密費)について、東京地裁が市民団体の主張を認め、ほぼ全面的な情報開示を命じる判決を言い渡した。「外交上の支障」という一般論を隠れみのに、外務省は長く公開を拒んできた。しかし、行政の説明責任が問われる時代の流れの中で、いつまでもそんな姿勢が許されるはずもない。外務省は判決を正面から受け止め、会計のあり方を抜本的に改めるべきだ。

外務省や内閣官房の機密費が問題になったのは5年前のことだ。外務省の元要人外国訪問支援室長が機密費から約5億円をだまし取り、競走馬やマンション、ゴルフ会員権の購入、女性との交際などに使っていた。この事件をきっかけに、実態を明かすことなく使われてきた機密費に不信の目が集まった。内部告発や報道、捜査で明るみに出てきた実態は驚くべきものだった。米国のデンバー総領事は、機密費など約1千万円を私物の購入などに流用したことが明るみに出て、懲戒免職になった。「大なり小なり他の在外公館でも行われている」という外務省の会計担当職員の証言も報じられた。

01年には、世論の怒りに押されて、会計検査院もようやく機密費の一部に物言いをつけた。それが発端となって、外務省は、それまで機密費扱いだった「大規模レセプション経費」「酒類購入経費」「文化啓発用の日本画等購入経費」などを一部開示した。年間55億円ほどあった外交機密費は、大幅に削減された。さらに一部が他の費目に移されたため、現在は30億円だ。だが、内訳は相変わらずブラックボックスになっている。

内閣官房の官房機密費に外務省の外交機密費の一部を「上納」していた疑いも浮上したが、未解決のままだ。政府側は追及から逃げ続けている。「報償費は、国の事務や事業を円滑で効果的に遂行するために使う経費。外務省においては外交交渉、外交関係を有利に展開するための経費」。具体的な使途についての質問に、そんな決まり文句を繰り返し、「外交上の支障」を振りかざして機密費の使途を隠してきた。

判決は、明らかになった日本画購入費などは、もともと隠す理由がなく、他の支出にも隠す必要のないものが相当数あることが推認できる、と判断した。その上で、開示できない理由があることを個別に立証する努力が尽くされていないと述べた。外交を円滑にすすめるためには明らかにできない支出もあるだろう。だが、いまのようにすべてを機密のベールで覆ったのでは国民の納得は得られない。機密費は最小限にとどめ、必要な経費は堂々と求めることだ。でなければ、いつまでも外交経費や外務省への国民の不信は消えない。

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[議員年金廃止法案 実態変わらず“優遇” 退職金制度導入の動きも]
産経新聞 2006年1月28日2時52分更新
<参考>[年金法案可決「国民を甘くみると…」] 中国新聞 社説 2004年4月30日
[特権にあぐらは駄目「議員の年金」]
 朝日新聞「社説」2003年2月12日

国会議員互助年金(議員年金)廃止に向け、納付金の返還と年金受給が選べる「選択制」を盛り込んだ与党の議員年金廃止法案が二十七日、衆院議院運営委員会で採決され、賛成多数で可決された。三十日の衆院本会議で可決、来月中に成立する見通しだ。国民からの批判が強かった議員年金制度が見直されることになったが、財産権の問題も絡み、「廃止」とは呼べない内容となった。 

与党案は在職十年未満の議員から制度を廃止するものの、在職十年以上の現職は「返還」を選ばなければ、年金は支給される。現職議員全員が廃止対象になっていた民主党案に比べ生ぬるい。与党案では、肝心の歳出削減幅、つまり、従来の議員年金に比べてどれだけ税金投入が節約できるかは、議員個人の在職年数や選択の仕方が多岐にわたるため、「算出不可能」(自民党政調関係者)という。しかも、議員からの納付金がなくなれば、年金はすべて国税から支給されることになる。

さらに、自民党内では、在職十年未満で、年金廃止対象となる議員の声に配慮して、共済年金や厚生年金への加入のほか、退職金制度の創設を求める動きが活発化している。自民党の久間章生総務会長も二十七日の会見で、党として退職金制度の創設を検討する考えを示した。退職金制度が導入されれば、かなりの割合を税金で賄う可能性が高く、「議員年金を廃止しても実態は変わらない」(民主党若手)ことになる。

一方、議員年金見直しをリードしてきた民主党にも「頭の痛い問題」(党国対関係者)が浮上する。完全廃止を主張してきた手前、法案が成立してもすんなり年金受給を選択するわけにはいかず、党方針と個人の“懐事情”のはざまで難しい選択を迫られるためだ。民主党執行部も、「悪法も法なりというのが良いのか分からないが、制度に基づいて判断する」(松本剛明政調会長)と、「返還」強制に及び腰だ。在職十年の議員が「返還」を選べば約一千万円が戻るが、年金受給を選べば、年約三百五十万円受け取ることができ、「引退後三年ほどで元がとれる」(関係者)からだ。ベテラン議員の一部は早くも「政治的判断も含めどちらが得か、ソロバン勘定を始めている」(同党関係者)という。

【与党提出の議員年金廃止法案】・在職10年未満の現職は納付金8割返還、・在職10年以上の現職は(1)15%減額して年金受給(2)在職中の納付金8割返還を選択、・年金を受給しているOB議員は、原則4−10%削減して給付を継続

【用語解説】議員年金:現行は、10年間勤めて引退した議員の場合、65歳以降毎年412万円の年金が給付されている。国民年金(基礎年金)は、40年間保険料を納付した場合、年79万4500円にすぎない。国庫負担率も議員年金が約7割に上るのに対し、国民年金は3分の1と格差がある。

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[年金法案可決「国民を甘くみると…」]
中国新聞 社説 2004年4月30日
<参考>[議員年金廃止法案 実態変わらず“優遇” 退職金制度導入の動きも] 産経新聞 2006年1月28日
[特権にあぐらは駄目「議員の年金」]
 朝日新聞「社説」2003年2月12日

これほど腹立たしいドタバタ劇もないのではないか。年金制度改革関連法案をめぐる国民不在の国会の動きである。国民には国民年金保険料の未納は厳しく徴収すると言いながら、過去に年金保険料の未納期間があった閣僚が福田康夫官房長官ら新たに四人も判明した。しかも与党は新たな四閣僚を公表する前に、衆院厚生労働委員会で野党が退席したまま採決を強行した。国民の批判が高まる前に可決してしまおうという姑息な振る舞いと言わざるを得ない。与党は民主党の菅直人代表も年金保険料の未納期間があったのをとらえ、「お互いさま」と言いたいのだろうが、だからといって強行採決をするのは筋違いであろう。そこには、国民への「説明責任」という視点が欠落している。「個人情報」を盾に未納の事実を隠し続けた福田長官らの態度は、「国民」より「国会戦術」を優先させたとのそしりは免れまい。国民の年金不信だけでなく政治不信を増幅させた責任は重い。小泉純一郎首相も人ごとのような発言を繰り返していていいのか。「この程度のこと」と甘く見ているとしっぺ返しを食おう。菅代表の言い訳もすんなり受け止められそうにない。

そもそも、政府の年金制度改革案には疑問や不透明な点が多く「抜本改革」にはほど遠い。超党派で審議し修正すべき内容を含んでいるにもかかわらず、政争の具になった。政府案は保険料を段階的に引き上げ、給付水準は厚生年金のモデル世帯で「現役世代の平均収入の50%」としている。だが前提となる出生率や賃金、物価上昇率などの見通しが甘い。モデル世帯にしても共働きやパート、単身世帯が増加するなかで「夫が会社務めを四十年間、妻は専業主婦を四十年間」の条件を満たす世帯がどれくらいあるのか。誰もが50%の給付を受けられるかのような説明は目くらましだ。若者の負担が増え給付水準は下がる世代間格差の拡大についても、対応策は示されず、年金問題の根幹にある「少子化」対策も手付かずだ。未納問題は制度の「分かりにくさ」と「欠陥」を浮き彫りにしたが、法案はそののままである。国民に比べて優遇されている国会議員の年金見直しなども先送りされた。

政府案は「百年はもつ制度」との触れ込みだったが、負担と給付の数字合わせをした「砂上の楼閣」ではないのか。国民の不信、不安にこたえるべき与野党の論議はかみ合わないまま。坂口力厚労相が嘆いたように法案を通す、通さないの七月の参院選をにらんだ国会戦術が前面に出て本筋の議論は深まらなかった。にもかかわらず政府、与党は公明党への配慮もあってか、今国会での法案成立を優先。単独採決に踏み切った。これでは改革案へ幅広い支持は得られまい。国民に「ほかにも未納の国会議員がいるのでは」との疑念が広がっている。与野党とも全国会議員の調査をして公表すべきだ。そのうえで、国民が納得できる抜本改革にむけて超党派の徹底的な議論を望みたい。国民の信頼なくしては「国家百年の大計」は成らない。

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[政治家に騙され続けても何も言わないお人よしの国民]
中国新聞「天風録」2003年6月13日

「なんでだろう、なんでだろう」と叫びたくもなる。与党三党が基本合意した企業・団体からなどの政治献金の見直し案だ。献金者の公開基準を年間五万円超から二十四万円超に緩和する、というのである。出す側も、もらう側も知られたくないとは、うさんくさい▲この五万円超は、一連の政治改革が実現した一九九四年に、それまでの百万円超から引き下げられた数字。見直しというなら、さらに引き下げるのが本来だろう。与党のいう「改革」とは、政治資金の透明性を後退させることらしい▲今回の見直し論議は、鈴木宗男衆院議員らの「政治とカネ」をめぐる反省から始まったはずである。その後も松浪健四郎衆院議員が、暴力団関連企業から秘書給与の.肩代わりを受けていたのが明るみにでるなど、スキャンダルは後を絶たない▲「政治には金がかかる」というので、巨額の税金が政党助成金につぎ込まれている。二〇〇二年分は約三百十七億円。単純に議員の数で割ると一人当たリ四千万円ほどにもなる▲この政党助成金は、政治家への企業献金を廃止する代わりにスタートした。ところが、政党支部を通して政治家に献金が渡る流れは変わっていない。これでは「二重取りしではないか▲松浪議員に対する議員辞職勧告決議案は、与党の反対で廃案になりそうだ。松波間題はまさに「政治とカネ」の問題である。それにしても国民はお人よしだ。「政党助成金をやめてしまえ」の声が出てこないのだから。

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[特権にあぐらは駄目「議員の年金」]
朝日新聞「社説」2003年2月12日
<参考>[議員年金廃止法案 実態変わらず“優遇” 退職金制度導入の動きも] 産経新聞 2006年1月28日
[年金法案可決「国民を甘くみると…」] 中国新聞 社説 2004年4月30日

もし在職30年の小泉首相がいま引退すると年に577万円、半世紀を超えた中曽根康弘元首相なら741万円だ。衆院であれ参院であれ、国会に議席を得た期間が計10年を超えれば、最低でも412万円の支給が保証される。国会議員の年金の話である。一方、普通の人はどうか。例えば自営業者が国民年金に40年間加入しても、もらえる年金は年約80万円にしかならない。政治家として立派だったかどうかはともかく、国会議員にも老後の保証があってしかるべきである。退職金がないから年金にはそれに代わる意味合いもある。一般の市民が国会議員を志しやすい環境を整えるためにも、年金は必要だろう。しかし、現状は恵まれすぎてはいないか。そんな見直しの動きが民主党などから出始めた。

公的年金の改革が来年に迫り、給付水準の引き下げが検討されている。国民に痛みを強いる前に、みずからの特権を削るべく、各党間で調整を急ぐべきだと思う。議員たちは「国会議員互助年金」に対して月に10万円余りの納付金を払っている。だから給付額が多いのは当然のように見える。だが、この高額の給付を維持するために、実は税金がつぎ込まれている。高齢化で受給者は増える一方だが、議員定数削減の影響もあって現職の納付金では賄いきれない。穴を埋めるのが税金だ。そめ規模は年間の支給総額28億8千万円のうち19億6千万円。約3分の2に及ぶ。これに対して、全国民共通の基礎年金の国庫負担は3分の1。引き上げが予定されるが、それでも2分の1だ。議員年金のお手盛りぶりは隠しようがない。

公的年金にも同時に加入できるうまみもある。官僚OBだったら共済年金、会社員出身なら厚生年金といった具合だ。県議や市町村議をある期間務めれば、地方議員の互助年金も受け取れる。この10年ほど、議員年金の給付額は据え置かれている。他に高額の所得がある議員OBへの支給を一部制限する仕組みもある。とはいえ、給付額を全体として減らそうという論議はほとんどなかった。国会には二世議員や会社役員、官僚OBも多い。そんな現状を見るにつけ、高額の年金を一律に支給するシステムには首をかしげざるをえない。「あと1期で年金がつくから」と、引退時期を延ばす議員さえいる。

いま必要なのは、給付と負担の関係を含め、聖域となってきた議員年金のあり方を根本から議論することではないか。国庫負担をせめて2分の1に減らす。他の年金との併給を制限する。給付の上限を下げる。やり方はいろいろある。特権にあぐらをかいた国会議員に、国民の老後を左右する政策決定を託す気にはなれない。今国会は見直しの好機だ。

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[「議員給与」任期1日でも月137万円]
民主、改正案提出へ「日割り計算、国民の常識」
朝日新聞2000年12月31

民主党は、国会議員に月単位で支払われている歳費(給与)を日割り計算で支給するよう改める国会議員歳費法などの改正案を1月召集の通常国会に提出する方針を固めた。6月25日の総選挙で初当選した新人議員の一部が「数日しか仕事をしていない」として6月分の歳費返還を提案したのがきっかけ。議員資格があっても病気や刑事事件の公判などで長期間登院しない議員に対する歳費の支払い停止も検討したが、歳費受給権が憲法で認められているなどの理由で盛り込まれなかった。現行法は1ヵ月間に任期が1日でもあれば、その月の歳費(137万5000円)を全額もらえることになっている。改正案では支給期間を「任期の開始日」から「任期満了や辞職、退職、除名」によって議員資格を失うまでとする。任期が1ヵ月に満たない月の歳費は、その日数分だけが支払われる仕組み。また、公設秘書の給与についても月単位で支給されているが、これも関連法を改正して「採用から退職まで」と改める。「国民の常識に近づけよう」との狙いで、同党の若手議員らでつくる党「議員特権見直しワーキングチーム」が法案をまとめた。ただ、この改正案でも「審議拒否」をしても歳費は満額支払われるようだ。

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