[抗癌剤のこと]

[経口抗癌剤では初めて効果があるとされている薬TS-1]
[時間帯選び副作用軽減、夢は夜ひらく]  がん治療の情報戦(23)平岩正樹
[薬でできること、不快な症状をまず改善] がん治療の情報戦(22)平岩正樹
[効かない薬に年間1000億円、ある患者の告発] がん治療の情報戦(10)平岩正樹
[抗がん剤やめます、私の人生だから] 広島県立保健福祉短大(医療倫理学)岡本珠代さん
[大腸癌で手術を受けたが飲む抗癌剤を飲むべきかどうか]

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[経口抗癌剤では初めて効果があるとされている薬TS-1]

TS-1は2年前に発売された経口抗癌剤で、経口抗癌剤では初めて効果があるとされている薬です。従来からあるテガフールという薬(体内で5-FUに変換されて抗腫瘍作用を発揮する)と5-FUの代謝(分解)を抑制する(代謝酵素の作用を拮抗阻害する)2年前に発売された経口抗癌剤で、経口抗癌剤では初めて効果があるとされている薬です。従来からあるテガフールという薬(体内で5-FUに変換されて抗腫瘍作用を発揮する)と5-FUの代謝(分解)を抑制する(代謝酵素の作用を拮抗阻害する)ギメラシルとオテラシルカリウムという2種類の薬を組み合わせて、血液中の5-FUの濃度を著しく高めて、抗癌剤としての効果を増強したものです。製薬会社(大鵬薬品)がつくっている薬の添付文書(説明書)によると、胃癌に対する奏効率は46.5%となっています。ちなみに今までのテガフール製剤の有効率は20%前後です。効果が強いだけに副作用も強いと思われます。主な副作用は、骨髄機能抑制、肝機能障害、消化管障害、腎機能障害、間質性肺炎などです。添付文書によると「頻回に臨床検査が実施でき、緊急時に充分な措置ができる医療施設及び癌化学療法に充分な経験を持つ医師のもとで、用法・用量を厳守して本剤の投与が適切と判断される症例についてのみ投与すること」となっています。

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[時間帯選び副作用軽減、夢は夜ひらく]
がん治療の情報戦(23)平岩正樹
中国新聞「くらし」欄 2000年6月11日

ある健康雑誌で、がん専門病院の抗癌(がん)剤治療の担当医が、「強い副作用があることは覚悟しなければならない」という趣旨のことを語っていた。悪名高い抗癌剤治療の「悪循環」をさらに加速する言葉だ。本来、治癒(がんが完全に治ること)を目指した一部のがん(自血病など)を別にすれば、通常の抗癌剤治療は「一日でも長く元気な日を」が、その目的である。ところが実際は研究が優先されている。

一、医者の頭は、治療研究の成績を出すことに精いっぱいで、副作用を抑えることまでなかなか配慮されない。
二、抗癌剤を受けた患者は、実際に強い副作用で苦しむ。
三、抗癌剤は副作用が強い、という評判が広がる。
四、「それでも治療を受けたい」という強い意志の患者だけが抗癌剤治療を希望する。
五、強い意志の患者に、いっそう副作用の強い抗癌剤治療が試される。

昨年ある医大で大腸癌の手術を受けた木村修三さん(41歳・仮名)は、肝臓にも多くの癌が転移していた。抗癌剤「5FU」を週に一度五百ミリグラム投与された。毎回、数日間は嘔吐(おうと)が続いた。木村さんの苦しみをみて、主治医は「もう治療法はない」とあきらめた。その後、木村さんが私のところにきた時、癌は肝臓の60%を占めていた。70%を超えれば肝不全の症状が出てくるだろう。このままでは木村さんは長くはもたない。

私は5FU千ミリグラムを五日間連続、それに続けて「イリノテカン」百ミリグラムを使うことを提案した。5FUだけでも五日間で合計五千ミリグラムになる。前の病院の10週間分の薬量だ。木村さんは病室に洗面器を持ち込んだ。私は笑ったが、本人は副作用のない治療に半信半疑だった。結果は、まったく吐かない。食欲も変わらない。治療中も、昼間は職場に出かけて周りの人を驚かせた。魔法ではない。

@食欲を増進させる「ヒスロンH」A食欲を増し嘔吐を防ぐ大量の「アセナリン」B嘔吐防止の「ドロレプタン」を一緒に使ったのである。しかも、抗癌剤治療は夜だ。夜中の点滴だと、副作用が少なく効果は高い。私は「夢は夜ひらくがん治療」と命名しているが、若い人にはこのしゃれが通じない。私の発明した治療法ではない。1997年9月、イギリスの医学誌ランセットに発表された方法である。

私は「日常生活ができなくなる抗癌剤治療は治療ではない」と断言する。本日(11日)のNHK『世紀を越えて』(午後9時放送予定)に登場する山下さんは、二年間私の抗癌剤治療を受けている。治療が理由で仕事を休んだ日は一度もない。山下さんが私のところに来る前、手術を受けた病院では「小腸癌による癌性腹膜炎で二、三カ月の命」と言われていた。(東京大医学部腫瘍〈しゅよう〉外科=広島市出身)

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[薬でできること、不快な症状をまず改善]
がん治療の情報戦(22)平岩正樹
中国新聞「くらし」欄 2000年6月4日

年間28万人ががんで死亡している。毎週5干4百人である。鈍感な人ががんで亡くなるのではない。非常に進行するまで、がんは自覚症状がない。「ちょっと右腹がはる」という人のおなかを超音波で診ると、すでに10センチの肝臓癌(がん)があったりする。「自分のからだは、自分が一番良く知っている」は、まったくがんを知らない人の言葉だ。自分でわかる早期のがんは、二百種類のうちでも乳癌くらいだろう。「がんになるはずがない」と思っている人は、日本人の二人に一人以上ががんになるという事実を知らない。がんは症状がない。非常に進行して、初めて症状が現れる。

弁護土の中田俊夫さん(仮名)63歳は、一年前にある医大で胃癌手術を受けた。手術の時にはすでに進行した癌で、胃以外にも広がり、肝臓や膵臓(すいぞう)の一部、それに脾臓(ひぞう)もとった。その後は順調だったが、今年になって食事が取リ難くなった。おなか中に癌が広がり、癌性腹膜炎の状態になったのである。中田さんが私を訪れたのは、抗癌剤治療を希望したのに、その大学病院に抗癌剤が十分に用意されてなかったからだ。中田さんを執刀した教授は、たまたま私の大学の先輩だった。「平岩先生、よろしく」はいいが、大学病院なら、そろそろきちんと抗癌剤治療を始めても良い時代ではないか。しかし、先輩に向かって気弱な私は「なぜ薬がないのですか」とは言えない。

治療が始まっても、すぐに抗癌剤治療はしない。非常に進行した癌では、まず不快な症状を改善する。中田さんは食事が満足にとれない。しかし、検査をすると腸閉塞(へいそく)ではない。癌性腹膜炎では、腸閉塞ではないのに食事が取れなくなることがある。そんな時は「ヒスロンH」や多量の「アセナリン」が効果的だ。飲み始めると、たいていその日から食欲が出る。第二の症状はけん怠感だった。一日中横になっていた。これも癌性腹膜炎ではよくある。これには「リタリン」を使う。一日のリズムをつくる薬で、朝と昼に飲めば、夕方まで元気が続く。その分、夕方からぐったりするので、その時に横になれば良い。中田さんに痛みはなかったが、もし痛みがあれば「MSコンチン」を使う。この薬は一日の適量が10ミリグラムから千ミリグラムと、百倍の広さがある。だから必要に応じて、思い切って使う。

これらの薬は「魔法の平岩療法」ではない。拙著『医者に聞けない抗癌剤の話』(海竜社)や『副作用のない抗癌剤治療』(二見書房)で、もとになった世界の論文を紹介している。こうして弁護土として働けるようになってから、私は中田さんの抗癌剤治療を開始した。抗癌剤治療の目的は、「一日でも長く元気な日常生活を」だからだ。これは、何もがんの患者に限ったことではない。(東京大医学部腫瘍〈しゅよう〉外科=広島市出身)

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効かない薬に年間1000億円、ある患者の告発
がん治療の情報戦(10) 平岩正樹
中国新聞「くらし」欄 2000年3月12日

週刊誌の連載でも書いたが、奇妙な薬が日本のがん医療の現場で大量に使われている。一年前、ある医学誌に日本人の投書が載った。その雑誌の名は「ランセット」、世界で最も多くの医者に読まれている医学誌の一つだ。投書を書いた人の名はアオキエイコさん、医者ではない。患者なのだ。医者以外の文章が掲載されることは異例だ。しかも日本人である。アオキさんは、UFTという日本産の「抗癌(がん)剤」が日本で大量に使われ続けていることを告発している。きっと、「ランセットに投書が載れば、日本人も目を覚ますだろう」と思ったからに違いない。

UFTは1984年3月に発売されてから16年間も使われ続けているが、効かない。こんな薬を使うのはもちろん日本だけだ(少数の国でロイコボリンと併用して使われている)。UFTの仲間にはフルツロン、ミフロールなどがある。なぜこんなことが行われているのか。NHKの「クローズアップ現代」に出て私も皆発したが状況は少しも変わらない。この奇妙な風習も実は、日本人の要望にこたえたものだ。

日本人は、本人に癌と気づかれないことを「命」よりも大切にする。それでも、何か「治療のふり」はしないといけない。効果はないが副作用もないUFTは「ごまかしの免罪符」として好都合なのである。UFTなら癌と気づかれる心配は少ない。その演技の薬代に日本人は年間一千億円を使っている。本人のいないところで医者は家族にそっと話す。「具合が悪くなったら病院に連れて来てください。それまでは本人の好きなようにさせてあげてください」「具合が悪い」とは死ぬ時のことだ。こんなホラーのようなヒソヒソ話が日本中の病院で行われている。

この世に治療法がないのなら、あきらめるしかない。しかし、治療法があるのに日本ではそれができない。名古屋の、すい臓癌の患者が米国テキサス大学のMDアンダーソン病院の外国人専用外来を受診しようと私のところに相談に来た。米国食品医薬品局(FDA)が承認したジェムシタビンという新しい抗癌剤を使ってほしいと希望していた。「その薬なら日本中のどこの病院にもありますよ」と私が言った時の、その人の驚きは大変なものだった。名古屋でも束京でも、どこの大病院でも「ない」と言われていたのだから。しかし、「それでも日本の医者はうそをついていない」と言えば読者はもっと混乱するだろう。日本のがん医療は知れば知るほど不可解なのだ。私はその種明かしをしなければならない。(東京夫医学部腫瘍(しゅよう)外科講師=広島市出身)

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[抗がん剤やめます、私の人生だから]
広島県立保健福祉短期大学教授(医療倫理学) 岡本珠代さん
1999年7月28日 朝日新聞

「副作用、病気より苦しい」 夫も「太く短くていい、と彼女自身が決めたこと」

広島県三原市にある同県立保健福祉短大教授(医療倫理学)の岡本珠代さん(60)は今年4月、直腸がんの摘出手術を受けた。その際、肝臓に小さなしこりが見つかり、切除して検査した結果、それもがんとわかり、抗がん剤の投与が始まった。すると、絶え間のない脱毛、食欲不振、下痢、吐き気などの症状と不安、不快感に見舞われるようになった。「こんな状態で仮に5年を生きても、人生を見つめ直し、心と身辺を整理するのはとうてい無理」と考え、抗がん剤拒否を選択した。(企画報道室・伊藤隆史)

珠代さんは1995年以来、三年制の同短大で、医療従事者と患者の関係、現代の医療倫理の原理の尊重、患者の人格の尊重、福祉の向上などについて講義を続けてきた。抗がん剤拒否も、副作用の強い薬剤で患者の日常に苦痛を強いることに疑問を持ち、病気との闘い方、人生の終わり方は自分で決める権利がある、との持論からだ。今年3月、ひどい便秘と下血から腸の異変を疑い、同市内の総合病院へ行き、S字結腸がんの診断を受けた。「80歳ぐらいまでは生きるだろう」という漠然とした前提が崩れた。勤務先の離れすぎから別居している夫、元日本平和学会会長で広島修道大学教授の岡本三夫さん(66)に、自分亡き後のことどもを書き連ねた電子メールを出した。うろたえ気味の遺書めいた内容だったが、最後に「留学させてくれてありがとう」と書き添えるのは忘れなかった。

二人は学生時代に東京で知り合い、ドイツ留学を終えた三夫さんが四国学院大学の新任教員になった68年春、香川県善通痔市で結婚生活に入った。珠代さんは、家事、三人の育児に没頭。子育てが楽になった13年目、大学時代に専攻し米国留学でも研究した哲学に心を残している妻に、夫は「長い間、君を縛り付けた。もう一度、留学して学び直したら」と言った。

82年秋、夫を四国に残して、米国ミシガン州立大学大学院へ三人の子連れで入学。修士号に次いで、90年9月、哲学博士号を取った。学位論文は「民主主義とインフォームド・コンセント」だった。テーマは留学前に決まっていた。体験から重ねていた医師不信。それに、がんを告知されず、心と身辺の整理、死に方の選択もできずに亡くなった善通寺時代の親しい女性のことが忘れられなかったからだ。

日本だけではなく、患者のおびえを思いやってのことかもしれないが、医師と近い親族が患者本人に正確な病状と治療法を告知しない例が多いようだ。それはすべての人に適当だろうか。加えて、存命中の快適さを阻害する抗がん剤などの使用が、どんな意味を持つのかー。

珠代さんは5月末、三夫さんや知人の専門医とも相談し、担当医に対して丁重なファクスを送った。「脱毛、不安、食欲不振が続いています。私は特異体質かもしれませんが、非人間的な生活を強いるように思える抗がん剤の服用は一切、やめたいと思います。それによって医学的に望ましくない結果が起きても全責任は私にあります」医師は納得しなかった。しかし、三夫さんの「太く短くていい、と彼女自身で決めたことに、私も反対しない」との口添えに、医師も受け入れた。

「後で、ばかな選択をして命を締めた、といわれても後悔しません。抗がん剤の不快さは病気の苦しさをはるかに超えますから」。耐え難い苦痛がきたら、緩和ケアに頼るつもりだ。珠代さんは今年10月、広島大学で開かれる「医学哲学・倫理学会」で「体験的インフォームド・コンセント論」を発表する予定だ。

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[大腸癌で手術を受けたが飲む抗癌剤を飲むべきかどうか]

(相談)1999.8.31
抗ガン治療についてお聞きしたいと思います。私の父は今年の7月、S状けっちょうにガンがあって手術をしました。膀胱にも一部とりついていて、膀胱の一部も切りました。幸い、血行性および、リンパへの転移は、1程度、あまり心配しなくてもよいと言われました。ただ、腹膜はんしゅ?(ガンの芽が飛んでいる可能性はある)ので、(特に膀胱内に)予防のため、飲む抗ガン剤治療をするかどうか、決めてほしいと言われました。ただ、いろいろ本を読んでみると、飲む抗ガン剤は効かなくて、かえって体に負担があると書いてあるものもあり、不安です。やはり、抗ガン剤の治療はやった方がいいのでしょうか?今のところ、父は元気で、検査の数値もいいようです。ちなみに父は73歳です。とりとめもない質問で申し訳ないのですが、予防でも薬を飲んだほうがいいのか、先生は副作用はないとおっしゃってますが、やはり強い薬はどうなのか・・・・ちょっと考え込んでしまっています。よろしくお願いします。

(答え)1999.8.31
お答えします。癌の治療は病院での治療(手術)が成功して、元気で退院する日がスタートラインです。手術だけで治る人もいれば治らない人もいます。治るかどうかは、これからの養生次第で、癌も風邪と同じように自分で治す病気です。癌を治す方法は、自然治癒力(自己治癒力)を最大限に発揮するような生活をする以外にありません。身体に良くないことはやめて、身体に良いことをなるべくすることです。私も抗癌剤で癌が治るとは思いませんし、身体の免疫力を低下させることは明かです。もし本当に効くものなら「するかどうか、決めてほしい」とは言わないと思います。担当医は本人に下駄をあずけたわけですし、自分の命ですので最終的には、ご本人の意志で決めてもらってください。父上の今の元気を維持してもらうことが大切だと思います。自分で治す、必ず治るという気持ちが大切です。明るく、前向きに生きてもらってください。ではまたいつでもメイルをください。

(返礼)1999.9.1
さっそく返信ありがとうございました。父の大腸ガンのことで質問させていただいたものです。確かに、担当の先生も、絶対に抗ガン治療をしたほうがいいとはおっしゃらず、「では、どうしたらいいのでしょうか?」と重ねてお聞きしたところ、「自分の親なら薬を飲ませますけどね」と言われて、ちょっと呆然としていました。当の父は「僕は難しいことはよくわからないから、みんなが飲んだ方がいいというなら飲むよ」とちょっと呑気なことを言っていました。ともかく、数野先生のメールを読ませていただいて、とりあえず、おいしいものを食べたり、できるだけ健康的にすごすよう気をつけて、薬を飲むのはみあわせようという気になりました。本当にありがとうございました。こんなにすぐに返事をいただいて、感激しています。ホームページも読ませてもらっていろいろ参考にしています。でも、正直にいうと再発の可能性を考えるととても怖い気持ちです。でも、今はできるだけ前向きにがんばっていこうと思います。本当にありがとうございました。またメールをさしあげることがあるかもしれません。よろしくお願いします。

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