[医療にかかわる人たちのこと]

[燃え尽き現象]「心の悩み外来」野村総一郎 中国新聞 2000年6月11日
[医学部で基礎医学を学んでいるが臨床医になるために役に立つか]
[カウンセラーはどこに?]

[早期胃癌:医師の心無い態度に不満、患者会について知りたい]
[一年目の看護婦]

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[燃え尽き現象] 評価されずやる気失う
「心の悩み外来」野村総一郎 中国新聞 2000年6月11日

働く人のメンタルヘルス(心の健康)を考えるとき、私が重要なポイントと考えているのが「燃え尽き現象」です。これは自殺の増加とも大きく関係しているのではないかと思います。では燃え尽きとは何か。「他の人や社会に貢献しようと大いに張り切って仕事をスタートしたが、特に対人的なストレスがひどく、いくら頑張っても自分の仕事の意義が評価されず、いつまでたってもその状況が改善される見込みもないので、ついに極度にやる気をなくして、投げやり、ウツ、疲労感、自暴自棄などの状態に陥ること」と定義されるでしよう。

これは、もともとは看護婦さんとか、福祉関係の人などにおいて発生しやすいといわれていた現象ですが、必ずしも奉仕的な仕事につく人だけではなく、一般の職場においても多発することが分かってきたのです。最悪、これが自殺に結びつくこともあるのではないかと思われます。

燃え尽きはどのような状況で起こるのか。これは定義を読めばほぼ見当がつくと思いますが、もっと具体的に整理してみます。まず燃え尽きる人に特定のタイプがあるか、ですが、「燃え尽き」というくらいですから、一度は燃えないと燃え尽きることもないことは確かです。つまり、やる気のある張り切り屋であることは前提ですが、そのほかに特定の性格とかがあるというわけではありません。逆に言えば、張り切る人であるだけに、燃え尽きたときに職場でのダメージも大きいのです。そして燃え尽きの起こる状況ですが「負担が大きく、役割があいまいで、社会的な意義と企業の営利との間に矛盾が出る」「自分に決定権がなく、自分のやっている仕事が会社全体の中でどういう意味をもっているのか分からない」「業務として人を傷つけざるをえない仕事が延々と続く」などの場合が指摘できます。このような仕事にはどのようなものがあるのか、すぐに思い当たるでしよう。たとえばリストラを言い渡す人事の担当者とか、製品の苦情受付係とか、公害をふりまきかねない工場の作業員などは分かりやすいでしょうが、もっと一般的な職場にも燃え尽き状況は起こりうることはお分かりでしょう。逆に言えば、ここにあげたような状況を改善することがメンタルヘルスの維持の大切なポイントと言えるのです。(防衛医大教授=広島市出身)

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[医学部で基礎医学を学んでいるが臨床医になるために役に立つか]

(質問)2000.4.29
大阪病棟・和歌山分院*(?)の中毒患者*の○○です。MLに書き込むのは2回目です。おじゃましまーす。私は今、和歌山県立医科大学の3年生です。数野先生の”生きる”、”岡山の空”、に続き、”岡山の風”シリーズを読ませてもらっています。臨床の現場で行われていること、今勉強していることとのつながりがわかって、とてもおもしろいです。マルセさん*のもと左の肝臓、がんばれー、ちゃんと再生して、エライエライ!

この場をお借りして、数野先生へ。ひとつ、質問したいのですが、よかったら教えて下さい。今、私が学校でやっている教科は、生化学、分子医学、薬理学、病理学、法医学、微生物学です。この中で、先生が厳しくて単位をとりにくい教科が分子医学で、「細胞生物学」と「遺伝子学」を英語の分厚い教科書を使ってやっています。単位をとりにくいだけに、他の教科を疎かにしてでもこの分子生物学に力を入れるクラスメートが多いです。私は研究することにはあまり興味が無く、さっさと臨床医になりたいのですが、臨床ではどれくらい分子レベルの知識が役に立つのでしょうか。私にはDNAについての細かい知識や細胞を構成するタンパク質・糖の分子式がそんなに大事なものには思えないのですが、分子医学に限らず色々な教科でそういうことが出てくるのはやはり、重要だからなのでしょうか。それだったら気合いを入れてやりますし、もしこれがただ単に研究材料として今の流行だから、ということだったら、授業は適当に聞き流しながら他のことを自分で勉強したいと思います。数野先生のように堂々とした医者になれればいいなぁ。まーだまだ先の話ですが。○○

*解説:全国にいるマルセ太郎中毒患者の会のML「さる」で、毎日情報交換をしています。各地に、それぞれの病棟があって皆入院患者です。もちろん患者は日本を代表するインテリばかりです。インテリとは、批判する目と怒る心と想像力のある人です。

(答え)2000.4.29
福山の数野です。メイル有難うございます。良い臨床医になるための一つのハードルです。あなたは今はまだ種から芽が出たばかりの苗木です。これからしっかり根をはって、幹を延ばして、枝をつけ、花を咲かせて、実をつけるための最初の一歩です。すぐには役に立たなくても、医師として常に最新の知識を身に付け、幅広いものの見方ができることが必要です。医師としてのあなたの能力を試されているのです。現代の医学生の三種の神器は、英語とパソコンとDNAです。

臨床医は、人の命をあずかる重大な責任がありますし、人と人との付き合いと信頼関係ができなければいけません。幅広い知識と教養と人間性が求められます。自分自身の人格形成だと思ってください。一つ一つのハードルを越えるたびに、人間的な成長ができることでしょう。急がず、あわてず、しかし休まずに前進してください。では健闘を祈ります。

(返礼)2000.4.29
はい、わかりました。いつか私と周りの人を幸せにできる力を持つために、今の生活も大事にゆっくり過ごそうと思います。ありがとうございました。

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[カウンセラーはどこに?]

(相談)1998.10.19
こんにちは。義父が膀胱がんにかかりました。いま入院中です。日に日に容態が悪くなっているような気がします。もう治療する方法がないと医者に宣告されていました(骨まで転移したそうです。いまは肺までも、、、)。現在家族は当番を決め、付き添っています。病院は完全看護ですので、家族の人は特に何かをしなければいけないということでもありません。様子から見ますと、義父は自分が何故このような病気にかかり、、、に関してとても納得していない様子です。早くうちに帰りたい、帰りたいと口癖になっています。義父は自分ががんに掛かっていることに関して知っています。ここでご相談したいことがあります。病院(順天堂病院)では癌患者に対して、特にカウンセリングというようなシステムがないようです。セラピー(?)とか、カウンセラーを探したいのですが、どこに問い合わせばよろしいでしょうか?

(答え)1998.10.20
お答えします。日本の病院にはカウンセラーなどは、ほとんどいません。緩和ケア病棟のある病院か、ホスピスでしか、そのようなサービスは受けられません。近くにそのような施設があるかどうか調べてみてください。ではまたいつでもメイルください。

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[早期胃癌:医師の心無い態度に不満、患者会について知りたい]

(相談)京都1998.7.4
数野博先生、ホームページを拝見しさせていただきました。実は母が去年の秋に早期胃がんの手術をしたのですが、現在は海外旅行に行けるくらいにまで回復しました。手術をしていただいた先生方には、もちろん感謝はしていますが、母に対するその心ない対応には何度もつらいおもいとさせられました。ひとりひとりの患者にゆっくりと時間をかけることは難しいだろうことはわかりますが、本当につらかったです。自分自身の病気を知るために本で調べたり、ドクターに聞くなどして学習するのはあたりまえだと思うのですが、そういう母をやっかいな患者だと思っているらしくて、病院は無知な患者のほうが扱いやすいのだろうと思わざるを得ませんでした。一生懸命生きる希望をもって手術にのぞもうとおもっている患者にとってはドクターの思いやりのあることばが家族の支えよりも大きな力になることをもうすこし考えてほしかったです。でも先生方には感謝しています。

今日はホームページを拝見して患者の心を考えてくださるドクターが いらっしゃるんだととても嬉しくなりました。そこで 先生にお伺いしたいのですが、福山あすなろ会のような患者会は関西にもあるのでしょか?母は闘病経験をもつ友人がほしいらしく入院していた病院にも問い合わせていたのですが、まったく聞いたことがないそうです。もしご存知でいらっしゃるのであればおしえていただければ嬉しいです。今日は突然のメイルで 失礼いたしました。先生のますますのご活躍をお祈りしております。

(答え)1998.7.4
ホームページを見ていただき有難うございました。最近は三人に一人が癌になり、亡くなる人の四人に一人の死因が癌という時代です。こんなに多くて治りにくい病気にもかかわらず、なぜか国や県の指定する難病の中に癌は含まれません。そして癌の予防・診断・治療から緩和医療(末期医療)のための癌専門病院(がんセンターやホスピス)は、まだまだ少ない現状です。中国地方にがんセンターはありません。ホスピスは最近岡山に二つできたばかりです。京都の方はどんな状況でしょうか。

母上は早期胃癌とのこと、運がよかったですね。おっしゃるとおり患者本位の医者や病院は少ないと思います。原因は色々あります。はっきりとした考えや動機もないまま偏差値が少し良いというだけの理由やお金儲けのために医学部へ進学する人が多く、医学部へ入っても病気のことは教えられても「人間を診る」ことや「医の心」「医の倫理」などは教えません。信じられないことです。また、現在の日本の医療制度は、安いお金で(国にとって)、沢山の医療サービスができるようになっていていますが、その分やはり質は低くなります。日本の医療や福祉の水準は、富士登山にたとえれば、やっと五合目に達するかどうかというレベルで、先進国に比べれば20年から30年遅れています。このような状況にもかかわらず、ただ単に財政難というだけの理由で医療費を抑制しています。行政改革と同じで、まず税金の無駄遣いをやめて、指導的立場の人たちが手本を示すということができず、結局「火だるまになる」のは国民です。21世紀は「情報公開」と「市民参加」の時代です。一人一人が考え、学び、行動しなければなりません。

さて、色々な患者会が全国各地にあります。「○○病友の会」などという名称で、難病の患者さんの権利を守るためのものが多いようです。私が知っているものでは、 関西を中心とした患者の権利を守る「ささえあい医療人権センターCOML」という組織があります。また、三重県の津市には「金つなぎの会」という癌患者さんの会があります。「金つなぎの会」は、患者さん同志が「同病相楽しむ会」です。全国的な会で定期的に旅行や会合をしています。探せば以外と身近にあるものです。入院していた病院にないようでしたら、これから作られたらどうでしょう。医療を良くするのは患者さん(国民)一人一人の力です。政治を良くするのも同じことです。また、ご意見をお寄せください。今日はこれから市内の中学校へ「死への準備教育」という講演をしにいきます。では、また。

(返礼)1998.7.11
数野 博先生、大変蒸し暑い今日このごろですが いかが お過ごしでしょうか。昨日 金つなぎの会の会誌を受け取らせていただきました。こころのこもったE-mailの御返事に感激していたうえにさらに会誌まで郵送していただき、先生の あたたかいお心づかい 本当に ありがとうございました。母もとてもよろこんでさっそく会誌を拝読しまた数野先生は京都では 講演なされないのだろうかと申しておりました。先生に教えていただいた「ささえあい医療人権センターCOML」のホームページにはさっそくアクセスさせていただき、その詳細を母に伝えましたが母はまだ 連絡していないようです。また金つなぎの会にもまだ連絡をとっていないようです。母は55歳で、胃がんは縦横5.6センチ以上の大きなものだったのですが幸い1層までしか進行しておらず 、抗がん剤も使用していません。もともとバイタリティーのある人なので、「長生きはできないかもしれない」といいながらもがんばっているようです。母は自分よりも 重い症状の人より同じような症状の人といろいろとささえあいたいと思っているようで、私は 先生に教えていただいたところに連絡してみたら言うと、「どのくらいの症状の人たちの会か わからないので もうちょっと考えてから」と言っていました。病気のことを考えるとそのことばかりに集中してしまうので こまごました 仕事を かたづけてから( 母は学習塾をしています)連絡をとることなどをはじめたいそうです。また 母は自分が ガンになったことを家族以外には決して他言したくないそうなので (ガンになったというだけで周りの人たちの目がかわり、また罰が あたったというようなことを言う人もいるそうです)、先生にすすめていただいたように自ら患者会をつくるのはしないと思います。母が連絡等をはじめましたら、先生に報告させていただきます。このたびは本当にありがとうございました。

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[一年目の看護婦]

(相談)1997.9.20
私は某大学病院で働く一年目の看護婦です。いろんな病気と戦う患者と、そしてそれを支える家族を見て、いま私たちに出来ることはなんなのか考えさせられます。仕事は辛いしんどいけど、患者の1日1日を大切にしたいとがんばっています。

(答え)1997.9.27
返事が大変遅くなりました。咋日までドイツヘ行っていて留守にしていました。ドイツのホスピスを10箇所見学しました。どの施設でも看護婦さん達が明るく生き生きと仕事をしているのが印象的でした。30人近くの団体で出かけました。コーディネーターは上智大学のアルフォンス・アーケン教授で、参加者の半数は看護婦さんでした。我々、医療にかかわる職業の者は、人の命をあずかる、人間相手の仕事で一番やりがいのある仕事だと思います。それだけに責任も重く、つらいことが多いと思いますが、一人でも喜んで頂ける患者様がいてくれれば、このうえない幸せにひたれることでしょう。とにかく色々と勉強して、色々と体験して、分からないことは何でも聴いて、明るく、心暖かな、優しい看護婦さんになってください。患者様を、人間を思いやる心が大切です。常に笑顔を絶やさないでください。そしてユーモアを心掛けてください。今回の旅行でデーケン先生に教えて頂いたことをホームページに追加しますので見てください。できれば「生と死を考える会」に参加されることをおすすめします。ではまた、お元気で。

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