心臓手術4人死亡
医師の「技術不足」
東京医科大学調査報告 大学に管理責任
朝日新聞 2005年3月31日
→見出しページヘ

東京医科大学病院(東京都新宿区)の心臓外科医(45)による手術を受けた患者が相次いで死亡した問題について、外部の専門家でつくる調査委員会(委員長=古瀬彰・心臓血管外科学会前理事長)は30日、報告書をまとめ、大学側に提出した。心臓血管外科の専門医であるこの医師について「基本的な知識や技術力が不足していた」とした。病院側に対しては「トレーニングのために手術経験を積ませた」と不十分な安全管理を指摘した。患者にとって、医師を選ぶ手がかりになる専門医への信頼が揺らぐことになり、大学病院の管理体制もあわせ、今後、制度の見直しが急務となる。(田中光)

報告書では、一連の事故について病院の安全管理委員会に報告されなかった点についても言及。東京医大は一昨年に相次いだ医療事故を国に報告していなかったとして、高度で専門的な治療を行える「特定機能病院」の指定に対して、04年3月に「指導および再審議」の処分を受けている。今回の問題で指定が取り消される可能性が出てきた。調査対象は、02年10月から04年1月にかけて71歳女性、81歳女性、68歳女性、67歳男性に対して行われた手術。問題の医師は、3例を執刀、67歳男性の手術では第1助手を務めた。報告書は「高度な技術と豊かな経験を有する外科医が実施すべきであった」とし、この医師に技術面で多くの問題があったと指摘した。大学側に対しても、患者の安全確保よりもこの医師に経験を積ませることを重視したと、判断。「患者中心の医療という理念に根本的に反している」と断じた。

未熟な「専門医」に不信
看板倒れ、さらけ出す
「時時刻刻」

「心臓外科の平均値からみると、低い」 30日、調査委員会の会見で古瀬彰委員長は、執刀を担当した東京医大の外科医の技術について、言葉を選びながらもそう評価を下した。「大きい病院なので間違いないだろう。先生にまかせておけば大丈夫だろうと思っていた。ほかの病院との比較はしなかった」03年3月に、冠状動脈バイパス手術と僧帽弁置換手術を同時に受けた後、亡くなった母親(当時68)の遺族は、手術の病院を選んだ理由についてそう説明している。高度な医療を提供するとして厚生労働省から指定された特定機能病院。心臓外科の専門医と認定された執刀医。患者やその家族が命を預ける判断のよりどころとした、これらの看板の内実がいかに心もとないかを、調査結果はさらけ出した。極端な長時間手術、大量出血、手術に伴う合併症の多発……。調査委員会は「この医師の未熟な医療行為があり、それぞれの事例で基本的な知識や技術力が不足していた」と結論づけた。

この外科医が昨年12月までの4年間で心臓弁膜術をした20人のうち、3人が亡くなり死亡率が15%だった点を指摘。日本胸部外科学会の死亡率(4・2%)と比べても非常に高く、医師が03年3月以降、弁膜術を執刀していない理由について「手術の結果を重く受け止め、上司に申し出たためだ」とした。この患者の家族は、これまで、手術「失敗」の理由について病院側に再三、説明を求めてきた。調査結果では、同時にバイパスと弁の二つの合併手術は死亡率が高いのに、この外科医は未経験だったことが明らかになった。病院側は、「報告内容は厳粛に受け止め、病院として詳細に精査し、対応策の検討を進める」との談話を出した。今後、この報告書をもとに、家族に病院としての対応を説明するという。(林敦彦)

要件引き締め、質向上を

今回の調査結果は、専門医の養成システムの見直しが急務であることを浮き彫りにした。問題の医師は、胸部外科、心臓血管外科、血管外科の3学会がつくる専門医認定機構が認める「心臓血管外科専門医」だ。その医師に対し、学会を母体とする調査委員会が技量不足と断じざるを得なかったからだ。心臓血管外科専門医は機構が指定した414の研修病院でトレーニングを受け、「術者として20例以上、第1助手として40例以上」の手術を経験すれば申請資格を得られる。東京医大も基幹施設の一つだ。専門医資格は、患者が医師や病院を選ぶ目安になるようにと02年から広告できるようになった。しかし、学会が身内を評価するので、認定基準は甘い。技量の維持にはなるべく多くの手術をすることが望ましい。医師数が多いと1人当たりの手術数が少なくなる。研修病院を減らし、専門医の認定要件を厳しくして数を絞るしかない。心臓血管外科専門医は現在1452人。胸部外科学会の会員アンケートで、7割が「望ましい専門医数は千人以下」と答えている。研修病院がそれにふさわしい医療を行っているかどうかを第三者が常に監視し、指樽体制が不十分だったり、外科医としての適性に欠ける医師にまで漫然と治療を続けさせたりするような病院は研修施設から排除する仕組みが必要だ。(編集委員・山河雅彦)

→見出しページヘ