「アレコレ言いたい!2000年の演劇界」えびす組座談会
Part3

◆串田和美の勝率◆
チ: 歌で腹が立ったのは、作品が違うんですけど、『VOYAGE』。
ヘ: 飛んだねぇ。(笑)
マ: 出たぁ。(笑)
ビ: それは、マーガレットが語ってくださる。
マ: 「私の1日の稼ぎを返せ」っていう感じですかね。(笑)
ビ: 切実なご意見。
マ: お客さんが買っちゃった券に対して、元取って見せてあげなきゃなっていうことで松たか子オン・ステージをやってみたけれど…なんかあんまり歌の意味もないし、あんなに松たか子1人でやらせることもないしっていう程度で。
ビ: 串田和美はムラがあるからね。
チ: 私の中では串田和美の演出っていうのは、1勝3敗か4敗かな。
ヘ: へへへっ。
コ: 率悪いっすね。
ヘ: いいんですよ。1勝が大きいから。
マ: それは言えてる。
ビ: 『セツアンの善人』はとってもいいと思いました。
チ: そう、それが1勝。
ビ: 『KUNISADA』はだめ?(笑)
チ: ああ、今思い出した。
コ: 私は一昨年のワースト。
ヘ: あの時、串田和美は、なんか仕事が…。
ビ: 『かもめ』の出演とダブっていて…。
マ: 『ゴドー』が延びたんですよね。
ヘ: そうそう。
チ: 全然関係ないですが、『KUNISADA』の市村正親は、なんであんなに舞台出ずっぱりなんでしょうか?
ビ: 歌舞伎役者に負けたくないとかって言ってたような気がする。毎月やっているでしょ、歌舞伎は。「打倒歌舞伎役者」って言って。
コ: 選んでほしいなって。
チ: 思いますよねぇ。昔ファンだった者としては。
コ: 『ニジンスキー』は見ました。
ビ: 2月のパルコ劇場。
コ: ちょっとあれもハズしたかなって。
チ: あれは首藤康之なしじゃ、ちょっと。
コ: 市村正親が出るまでもなかったんじゃないかな。
チ: 今までの市村正親の中で良かったのは『クリスマス・キャロル』の一人芝居ですね。

◆パンドラからカノンへ◆
ヘ: 去年の野田秀樹の2本はいかがですか?『カノン』も皆見てますよね。
コ: 『カノン』は、あんまり…。私は皆さんと意見が分かれるんですけど、鈴木京香がちょっと違うなと思って。誰からも求められる女性には見えなかった。唐沢寿明は今までの中で1番良かった気がするんだけれども。それに何を隠そう、あの、イメージがわからなかったんですよ。
ビ: 連合赤軍の…。
コ: 『パンドラの鐘』のときは、パッと見て原爆じゃんと思ったんですけど、『カノン』では、後でパンフレットを読んで、やっと浅間山荘事件だったんだなと。それが分かんなくてもいいとは言われたんだけど…。
チ: 着物の美しさっていうのはあったかな。鈴木京香だし。
コ: ビジュアル的にもこれはやっぱしオシャレな舞台でしたよね。
マ: 衣装はひびのこづえです。
ビ: 鈴木京香は、若村麻由美とは別の意味で非常に、見ていきたいと感じさせる女優ですね。彼女の舞台を見るのは初めてで、「因幡屋通信」にも取り上げましたけど、「見た」ってことしか書いていないです。論考するっていうか、それに必ず入れたいっていうものではないです。むしろこの人がもうちょっと舞台の勉強をして、チェーホフをやってくれないかなぁとか、岩松了の作品に出てくれないかなぁっていうことを望んでいますね。できるんじゃないかな。シェイクスピアは無理かもしれないけど、別にやらなくってもいいんで。(笑)やれることをやっていって欲しいなと。いい色を出せるんじゃないかって。
コ: マーガレットも見ましたよね。
マ: 見ました。『パンドラ』の後だったので、印象としては薄いんですけど。
ヘ: 野田秀樹の本としてはどうだったんでしょうね。
マ: 評判は良くなかったみたいですよね。
ビ: 『パンドラ』の方がすごく力入っていて…。
マ: 私は野田秀樹は好きでずーっと見ているので、『パンドラ』が戦争や原爆、すごく重いテーマをうまく盛り込んで作って、賞とかとったじゃないですか。
ビ: 天皇制も。
マ: その後でちょっと肩の力が抜けた感じで遊びの部分が多く、そういう見立ての面白さはすごくあったと思います。戯曲っていうことになると…。
ヘ: あとは、役者がちょっとついていってない感じがしましたけど…。
ビ: 須藤理彩とか岡田義徳とか、まだまだこれからっていう人をちゃんと鍛えきれないまま、のっけちゃったっていう。鈴木京香もその1人。
マ: メリハリがなかったですよね。
ビ: 『パンドラ』はよくあれだけ集めたな、満を持してっていう感じで、ちゃんと立体化できたんだけど。『カノン』はそれに比べると随分冷めちゃったっていう感じで。

◆野田作品はツボマッサージ?◆
ヘ: サイズが全然違うんだけど、『農業少女』。コンスタンツェが深津絵里の胸に1票ですって…。
コ: 1番印象に残ったのが…。それしか思い出せない。(笑)
マ: 見た人みんな口々に言ってましたよ。松尾スズキも出てましたよね。
ヘ: 割と印象が薄いですよねぇ。
マ: 薄かったですよねぇ。
ビ: この人が印象薄いってどんな…???
コ: 私は、野田秀樹が主役っぽいのは初めてでした。いつも大きな所だとそばで見てニヤッとしているっていう…。
ビ: そばで茶々入れているっていう…。
コ: おいしい所はもっていっても、主役っぽくないですよね。でも今回は割と主役で。番外公演はいつもそうなんですか?
ビ: だいたい…。
マ: そうですね。
ビ: 人数少ないから、ウエイトが。
コ: 彼は俳優としてもいいんだなと初めて思いました。内容的にも原爆とか大ネタでなくて、割とちっちゃいことだったけど、身近に感じられた部分がある。
マ: お米を作るという…。
コ: 「ブームを作る」こととか、それが忘れられるとかいうことに興味があったんで、割とのめって見たんですけど。向かい側の客席がすごく近かったんで、結構気が散っちゃいました。
ヘ: 確かに舞台の使い方もうまいですよね。『赤鬼』もそうだったし。イギリスに行ってああいうこと勉強してきたんだなって感じ。
マ: 手慣れた感じですよね。
コ: ちっちゃい空間がここまでくるんだ、スゴイなぁって思って。
マ: でも、衣装とか装置とか音響とか、メンバーがずっと一緒じゃないですか。あれが好きな人は好きなんでしょうけど…。ずっと見ている者にとっては、ちょっと飽きがくるなぁっていう。
ヘ: 遊眠社時代から一緒ってこと?
マ: だいたい音楽がカットアウトで始まるんですよ。つつぅーっと人が出てきてワーッと言うみたいな…。衣装もひびのこづえで、ゆめゆめしい、こう…。
ビ: ふわふわ系というか。
マ: そう!ふわふわ系ね。飽きがこないのかなぁ…。舞台のトーンや、見た時の印象がずーっと同じになってきますよね。
ビ: 演技もね。
コ: 同じ人が出ていたりすると余計にね。
ヘ: ツボを押さえられると気持ちいいっていうことなんじゃないかな。状況劇場と同じで。
コ: 毎回おんなじなんだけど、なんか行っちゃうみたいな。
ビ: それ考えると蜷川版の『パンドラ』見といて良かったかなって気がしますけど。野田じゃ、ああは作れない。

◆映像作品とのリンク◆
ビ: 皆さん、テレビや映画はご覧になりますか?それなりに?
コ: それなりに。
へ: こんだけ芝居行ったら映画行けないでしょう。ふつうに仕事していて。映画館にも行くって大変じゃないですか?
コ: 平日のふっと時間の空いた日とか。
ビ: 夜の、1000円の日だとか…。
コ: そうそう。芝居は気合い入れないと行けないけど。映画はいつでもやっているから。
へ: 逆にいつでもやっていると思うと、いつの間にか終わっていたりする。
マ: 行けない、行けない。
へ: 芝居はチケット必ず買うじゃないですか、前売りで。その日行こうと思って予定入れるから絶対行くんですよ。
チ: 去年結構飛行機に乗る機会があって、1人に1個テレビがついているから、だいたい新しい映画を見たんですけど、面白いとかつまらないとか日本語の吹き替えで判断しちゃうから。それがねぇ。
ビ: 私、今自分で気がついたんですけど、芝居のベスト5を選びながら、ドラマだとか映画とかの印象が絶対そこに入っていて、それも確実に自分の中にあって、舞台の俳優を見ているなって…流れっていうかパターンっていうか。
へ: 映像でも見ていてってことですか?
ビ: 若村真由美もそうだし、鈴木京香もそうだし。映像でアレって思ったところを持って舞台を見ると、また感じが変わるっていうような。
チ: 椎名桔平に対して、私がそうでした。
へ: 椎名桔平ってタイプなんですか?
チ: いえ全然。
ヘ: 椎名桔平って、き、きらい、すごく。
ビ: 私も。
コ: 好きな人は好きですよ、椎名桔平って、かなり。
チ: 別にファンじゃないですよ。テレビでは変な使われ方しているのかな、何か気の毒だなあって。
マ: 舞台は全然いいんだぞって?
へ: 弟役の伊藤高之は、どうだったんですか?
チ: 本当は俳優なんだろうけど、私が見ると素人に見えて…。
へ: 本当は役者じゃないんじゃないですか。まだまだ素人なんじゃないですか。
チ: 一応劇団員なんですよね。
コ: 劇団に入っているんですか。
へ: 今もなんか伊藤高之の顔が出ているちらし配ってる。
チ: 役柄が、ちょっと知能が足りないオドオドした男の子だから、あんまり染まってない人がやっていますって感じで。
ビ: イメージがあんまりない…。
チ: そうですね。だから伊藤高之が良かったのか、そういう雰囲気の人がやっていれば良かったのか…。
コ: 私はあんまりテレビはリンクしないですね。篠井英介なんかをリンクしちゃったら、あんまり見られないし。

◆見ることと、書くことと…◆
チ: 去年、私はあんまり数を見られなかったので、メジャーに徹する他ないかな、みたいな。
コ: 私はミーハーに徹するしかないかな、みたいな。
へ: メジャーとミーハーっていうのは、あんまり批評の対象とはならないじゃないですか。「娯楽でしょ?」のひと言でかたづけられてしまう。
ビ: 「タレントでしょ?」とかね。
へ: それをなんか、もうちょっとていねいに追っていけば…。
ビ: そうそうそう。検証できると思うんですよ。
へ: そんなに難しい芝居ばっかり、見に行きゃあしないですよ、ねぇ。
ビ: ベケットばっかり。
へ: そうそうそう。
コ: でも、愛は目を曇らせますからねぇ。
ビ: でも、自分の目がいかに曇っているかっていうのを、て〜いねいに書けば、作品として成立すると思います。それがなければ、やっぱり舞台に行くっていうエネルギーにならないと思います。
マ: 私は愛がないとダメかなぁ。
へ: だから、普通の観客は自分で稼いだ金でチケット買って、こうやって行ってるんだっていうのを思い知らせてやりたいっていう気がするんだけど。
ビ: 演劇評論家に?
へ: 演劇評論家だけじゃなくって。
コ: 世にあまねく業界の人々に。
チ: 私たちは目的をもって劇場へ行きますよね。あれが見たいとか、この作品が見てみたいとか。劇作家は仕事だから行くっていう…。
へ: 評論家だってそうですよ。
チ: 大きな違いが…。
へ: でも、その中でも芝居が好きな人だっているだろうし。書くことが好きな人だっているだろうし。
マ: 書くのと見るのとはかなり距離がありますよね。
コ: 書くことを前提で見ると、やっぱりちょっと素直に楽しめない部分があるので、これが毎回毎回なんだと思うと、評論家もそれはそれで大変だなぁとは思うけど。
へ: 辛いでしょう。
ビ: でも、思いもよらないもので書けてしまうことが、あるじゃないですか。
コ: あっ、それは楽しい。
ビ: そう。それはとても喜びだと思います。「えびす組劇場見聞録」に載せた『釣堀にて』はまさにそうだったんです。全然書こうと思ってなかったんだけど、あれが1番早く書けたんで。
チ: 思い出すと書きたくなっちゃう?
ビ: 書けていたっていう。なのに、『萩家の三姉妹』は書けないっていうのが、とても悔しい。
へ: 『萩家の三姉妹』は、だから、評として狙っていくと面白いんじゃないですか?「娯楽でしょ」のひと言で片づけられる方に入るのか、小劇場演劇として生まれてきたので、新劇との対比とかで…。
ビ: 全然違うものを…。
へ: 全然違うものを混ぜているのか…丁度いい教材って感じ。
チ: あのレクチャーに行っていて最初に思ったのは、見ていて面白いなって思っていただけじゃダメなんだって。なんか角度を変えて掘り下げて、裏を見なきゃいけないような、そんな気になったのね。
へ: 批評っていうことになると、やっぱりそういうことを考えなきゃだめなんだろうけど、お金払ってお客さんとして行ってれば、それでいい、充分っていう話もあるんで。書くこと考えたら、それだけじゃ足りないのかもしれないけど。
コ: つまらない芝居を見るとお金損したと思うけど、つまらない芝居を見て書けちゃったら、評論家はお金になるんですものね。ずるいなとか思って。
へ: つまらない芝居を書かなくちゃいけないのは、大変っていうこともあるかもしれない。
コ: やや感情的になってバーンと書いても、お金になるのはいいなぁって。ちょっと思ってます。少なくても損はしてないかなと。私達は絶対的に損をしてるのにみたいな。
へ: ただで取材にいくと、ただより高いものはないかな、ってなりますよ。出られないし。
コ: 出られないし、寝られないし。
へ: 寝られますけど。
チ: えっ、寝ている間のことどう書くんですか?
へ: いや、書かないですけど…。

◆無理矢理総括?◆
へ: 2000年っていう年は演劇的に言うとどうだったんですかね?
ビ: あんまりそういうこと考えていないんで、わからないんですけど。
へ: でも去年と一昨年って、なんか面白い、ここ何年の中で結構いい年だったんでは?
ビ: そうですね。ただ、こういうった会をもってるから、こちらの意識が変わったってことが大きいと思うんです。
へ: それはそうですかね。
コ: 昔は、いちいち振り返らずに進んできたっていう感じがあって。去年ぐらいから、あんまり振り返らないのもいけないのかなと思って…。そろそろ時間なんですけど、あんまりまとまらないですね。
へ: なんか、「これがえびす組の視点」っていうのが、生まれてくるといいんですけど。
一同: う〜ん。
マ: 短いですね。やっぱり3時間位しゃべらないとダメなのかな。
一同: そうですねぇ…。


◆編集後記◆
以上、座談会は時間切れで終了。約1時間半のテープを起こし、かなりカットしても、これだけのボリュームになりました。もし3時間位しゃベっていたら、この2倍!考えると恐ろしい…。ここまで読んで下さった方、ありがとうございます。とりとめのない座談会になってしまい、申し訳ありません。でも、私達の言葉のひとつひとつが、2000年の演劇界の一面を映し出す記録になれば嬉しいな、と思っています。ご意見・ご感想など、お待ちしています。(コ)

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