食の安全と保健所
自治研究集会・公衆衛生分科会への報告2002年12月



外国の汚染が直ちに日本を汚染する(新たな汚染の広がり)

 サルモネラ・エンテリティディス
 (1988年イギリス)鶏卵のサルモネラ汚染
90年代以降日本でも鶏卵を介したサルモネラの食中毒が多発している。


 腸管出血性大腸菌O157
 (1982年にアメリカ)ハンバーガーで最初に食中毒
1996年に日本でも大発生し、12人の死者を出した。


 
BSE(牛海綿状脳症=狂牛病)
 (1986年イギリス)2001年には日本でもBSEの牛が確認された。ヨーロッパでのBSE牛の確認頭数は2000年から急増している。

多発する食の安全や安心を脅かす事件

  
1996年(平成8年)、O157が関西方面を中心に全国で大発生 
 O157による食中毒は、その後も数都道府県に渡って発生する「広域散発患者の集団発生=diffuse outbreak」となって継続して発生している。98年6月、回転寿司で提供された「いくら」による集団感染。 2000年9月にレストランチェーン店「一口ステーキ」。 2001年3月に同じくレストランチェーン店での「サイコロステーキ(角切りステーキ)」。 2001年3月にはスーパー、コンビニチェーン店での牛タタキでの感染。 2001年8月の下旬、東京都や埼玉県で「和風キムチ」による集団感染。    

 2001年O157感染者年間で4,319人
 157は牛が腸内に保菌していることが判明しており、厚生科学研究事業(98年〜99年)によると、と畜場に搬入される牛の6.5%がO157を保菌していることが明らかになっている。96年の調査では保菌率が1.4%だったので、大幅に増えている。その結果、牛肉や牛の内臓、あるいは牛の糞が付着した野菜に付いて調理場に持ち込まれる可能性が高くなっている。ただし、2000年4月以降はと場の衛生管理が徹底したので、と場での汚染は減少傾向であり、かわりに輸入牛肉による感染が増えている。

   1999年には乾燥イカ「バリバリいか」で食中毒
 サルモネラ・オラニエンブルグによって47都道府県で患者発生1,505人を超える


   2000年には雪印乳業の低脂肪加工乳で黄色ブドウ球菌
 黄色ブドウ球菌が産生するエンテロトキシンで1万3千人を超える患者発生

   2001年日本で始めてのBSE(狂牛病)
 それまでの経緯や発表後の対応の悪さ等で、食品行政や業界へ不信高まる。これまでに5頭のBSE牛が確認されている。英国では18万頭以上(現在04.3は11頭)」


   偽装表示
 雪印食品で輸入牛肉を国産と偽装表示、鶏肉や豚肉などでも発覚し、その後、日本ハムなど大手の食品業者のところでも発覚。
@雪印食品が「牛肉在庫緊急保管対策事業」を悪用して、輸入牛肉を国産と偽り、対象外の肉を国に買い取らせようとした事件  Aスターゼン(旧ゼンチク)は佐賀パックセンターでの黒豚に白いSPF豚を混入させたり、銘柄牛に安い国産肉を混ぜて包装していた。B全農チキンフーズによる鶏肉の偽装表示

 保健所の対応
 
東京都は、JAS法(原産地表示はJAS法の規定)の管轄である生活文化局と合同で、2月20日より調査した。

 中国産冷凍ゆでほうれん草からクロルピリホス
 
2002年3月、中国産輸入ほうれん草(ゆで冷凍)からクロルピリホスを検出、8月に法律改正があり包括的輸入禁止の第1号となった。

 保健所の対応
 中国産冷凍ほうれん草の収去検査


 
その他の事件
 韓国産生カキによる赤痢、中国産大アサリによるA型肝炎・SRSVの複合汚染。


 SRSV(現在はノロウイルス)多発
 
1997年5月よりSRSVが食中毒原因物質として指定された。99年から01年、SRSVによる食中毒事件は件数で116件、245件、269件、患者数で5217人、8080人、7358人となっている

 その他注目すべき感染症

リステリア・モノサイトゲネス>

日本では未だ食品を原因とするリステリア症は確認されていない。通常ウシ、ブタ、ヒツジ、ニワトリなどが保菌しており、健康な成人では、無症状のまま経過することが多いが、乳幼児、高齢者、妊婦などでは発症することがある。急性胃腸炎症状は起こさず、発熱、頭痛、おう吐などのインフルエンザ様症状を起こす。重症になると、新生児及び40歳以上の成人の髄膜炎、流産におけるインフルエンザ様敗血症、早産児の敗血症などを起こすことがある。外国では生乳、アイスクリーム、ナチュラルチーズや食肉製品、生野菜等からの感染例がある。

<カンピロバクターとギランバレー症候群>

カンピロバクターは微好気性(5〜15%の酸素で発育)で検査法がなかなか確立されず発見が遅れた。検査法の確立とともに広く分布していることが判明し、小児下痢症の20%ほどはカンピロバクターとの報告もある。症状は下痢・腹痛などの胃腸炎で終わるが、カンピロバクターに感染した後、四肢麻痺を起こすギランバレー症候群を起こす場合があり注目されている。GM1ガングリオシドと似た構造がカンピロバクターの細胞膜にあり、感染後血液中にできる抗体(免疫グロブリンG)が自分の手足の神経を攻撃する自己免疫疾患。数百個から数千個程度の少量で感染する。
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 食の安全を脅かす要因

 加工食品の大量生産と広域流通と複雑化高度化集約化する食品製造業

 セブンイレブンでは毎日、米飯関係414万食、サラダや煮物などの惣菜と合わせて700万食を84社で製造したものを販売している。

 協和香料化学の許可外食品添加物を含む香料を製造販売していた事件では、この香料を使用している食品が多種にわたり、日本中で大量に販売されていた。同様に数多くの加工食品が大量生産され、広域に流通している。従って、違反添加物を使用した食品や微生物に汚染された食品があると多くの消費者に影響を及ぼすとともに、違反が判明した場合は、全国で膨大な量の食品が廃棄される。

 食品衛生と規制緩和

93年10月第3次行革審の最終報告で「規制緩和」が盛り込まれてから、次々と食品衛生関係でも規制緩和が行われた。95年、食品等の製造年月日表示から期限表示(消費期限、品質保持期限=賞味期限)への改正にはじまり、食品衛生法が改正され@天然添加物の指定制度の導入A残留農薬基準の策定見直しB総合衛生管理製造過程(HACCP)の承認制度の導入C食品の輸入手続きの迅速化(コンピューター端末での手続き)D飲食店営業等の許可年限の延長などが行われた。

 保健所の統廃合

地域保健法が95年に施行され、97年より保健所の統廃合(設置基準の見直し)が進められ、その結果96年4月現在、全国に845ヶ所あった保健所は、2002年4月に582ヶ所となり、263の保健所が廃止された。保健所は集約化し、機能強化を、といわれたが、各自治体のリストラ推進と相まって、食品衛生監視員は集約化された保健所に集中化され、一部では監視員が削減されている

 輸入食品の急増と食料自給率の低下

 1985年以降、輸入食品の届出件数が急増している。飼料となるトウモロコシや大豆、小麦などの穀物類の輸入も増加しており、最近では野菜類、それも加工済みの野菜類の増加が著しい。農林水産省の資料によると、日本の食糧自給率はカロリーベース(供給熱量自給率)で87年に初めて50%を切り、93年の米の大不作で37%まで落ちた後にややぶり返したが、99年2000年と40%の自給率となっている。穀物の自給率も1961年の76%から99年には27%まで減少している。

食の安全を確保するために

 食品の安全に対しては規制緩和でなく、高度な監視のできる監視員の配置を  

  食の安全を守る食品衛生監視員は、2000年4月現在、港や空港などの検疫所に264人、保健所を設置する都道府県、特別区、市の本庁及び保健所、保健所支所などに7,799人配置されているが、保健所の統廃合再編とともに集中化されている。これらの改革で、法定監視回数実施率は96年の17.5%から2000年は13.5%まで落ちている。

  2000年6月、加工乳で1万3千人以上の患者を出した雪印大阪工場を管轄する大阪市は、人口260万人という大所帯で24ヶ所あった保健所を、2000年4月に1ヵ所にするとともに、食品衛生監視員を12名削減された。また、原料の脱脂粉乳を製造した大樹工場のある北海道では、98年4月に45ヵ所あった保健所を半分近くの26ヵ所に統合した。

  協和香料化学(株)の工場を管轄する茨城県では、99年4月に保健所の統廃合(14ヶ所を12ヶ所に)が行われており、食品添加物製造業に対する食品衛生監視員の法定監視回数は年間6回と定められているが、十分な監視ができていない。大量生産、広域流通のうえ、食品製造現場は複雑化・高度化しており、これらを適切に監視指導する食品衛生監視員の配置が求められている。

 輸入食品に対する監視の強化を

 食糧の6割を輸入食品が占める現在、日本国民の食生活は、輸入食品抜きには考えることができない。食品の安全性確保、食中毒や感染症などの対策は、汚染された食品や違反食品の輸入を防ぐことが最重要課題になっている。輸入食品を監視する食品衛生監視員は全国の港や空港の検疫所などに264人しか配置されておらず、膨大な量の輸入食品に対して十分な監視はできていない。中国産冷凍ほうれん草の事件では、全国農民連の分析センターでの検査結果を受けて、検疫所でも急きょモニタリング検査をおこなった結果、基準を超える残留農薬を検出し、ようやく行政措置をとることができた。

 消費者運動の高揚

  行政としての監視や適切な規制とともに、消費者の食の安全に対する運動の高揚が求められている。一昨年、生活協同組合が食品衛生法の抜本的改正を求める署名運動を繰り広げ1300万筆を超える署名を集めた。BSEの問題もあり昨年国会で請願採択され、食品衛生法が改正されることになった。

また、アメリカのアリス・テッパー・マーリーンという消費者問題の活動家は、企業の良心を測る7つの姿勢を示し、各分野の会社の格付けを行っている。そして評価の結果をもとに、「あなたの買い物がよりよい世界をつくる」という小冊子を発行し、消費者が良心的な企業を選ぶ手助けをしている。7つの姿勢とは@情報公開A環境や自然への配慮B女性の処遇・昇進C慈善・寄付D労働環境への配慮E従業員家族への福利厚生F少数民族の処遇・昇進で、これらにABCDの4段階に格付するものとなっている。

 食糧自給率の向上

  表示の偽装や不当表示などの原因のひとつに、消費者の望む国産品が十分に供給できない事情もある。銘柄品を好む消費者の要求も実態を無視したものもあり、日本の生産現場の理解を欠いている。その生産現場が「食の安全で安心」という消費者の要求に応えられるためは、日本の食糧自給率が40%まで落ちている現実を消費者が理解し、自給食の安全確保や環境保全、食糧安保の面からも国民全体で自給率の向上を考え、具体的な対応をとる必要がある。「産直」、「地産地消」など地場の農業を支援することから始める。

 農場から家庭まで(from Farm to Table)の衛生管理

 これまでの食品の衛生管理は、保健所の食品衛生監視員を中心とした、食品関係営業者に対する規制行政(厚生労働行政)が主に担ってきた。しかし、最近のBSE問題でのBSE汚染の可能性がある肉骨粉飼料の管理問題、中国産冷凍ほうれん草の残留農薬問題等輸入食品に関するもの、牧場・農場・養鶏場でのO157やサルモネラ汚染、海洋汚染による「かき」など二枚貝のSRSV汚染の蔓延など、輸出国を含めた生産地、と畜場や市場での衛生管理の重要性が増している。これまでは、生産地の管理は農林水産省の管轄にあり、主に産業育成の立場での関与をしてきた。これからは「食の安全確保」という共通の目的に向かって、生産、製造、流通から最終の消費者のところまでの衛生管理農場から家庭まで(from Farm to Table)の衛生管理を徹底していくことが必要になっている。

 リスクアナリシス(リスク分析)

 最近、国際的な食品衛生対策として農場から家庭まで(from Farm to Table)至る全過程を対象とし、人の健康への危険度を低減させるためのリスクアナリシスの手法(リスクアセスメント・リスクコミュニケーション)が注目されている。これは「安全」対「危険」という単純な構造でなく、科学的な根拠に立脚し、得られた情報の共有化と合意形成を図ることをねらいとしている。ただし、このことがリスクを消費者に納得させるための手段として使われないようにしなければならない。消費者のするどい指摘が、なかなか(市場経済下では無理なのか)法を守る事や国民消費者の健康を第一に考えるのではなく、何事も儲ける手段としてしか考えていなような企業を体質に歯止めをかけ、食の安全に気を使わせてきたことの役割は終わってはいない。トップページへもどる