乳幼児を持つ家庭での食中毒予防
(ひよっこクラブ2003年6月号に掲載原稿を要約、加筆訂正)



Q 家庭ではどんな食中毒が起きているのですか。どのようなことに気を付ければよいのでしょうか

A 家庭での食中毒は鶏卵などに付いてくる(鶏卵の中に)サルモネラによる食中毒と、生の魚に付いてくる腸炎ビブリオによるものや毒キノコや毒のある山菜、ふぐ毒などによるものが多く発生しています。最近は生かきなどの二枚貝についているノロウイルス(SRSV)による食中毒も発生しています。
厚生労働省の食中毒の年齢別統計によりますと、読者の皆さんのところのお子さん0歳児についてみますと、やはりサルモネラによるものがもっとも多く、次いで腸管出血性大腸菌O157でないいわゆる病原性大腸菌によるものと、カンピロバクターによるものなどで起きています。1歳以上4歳までに限ってもサルモネラが断トツに多く、次いでノロウイルス腸炎ビブリオ病原大腸菌、ぶどう球菌、カンピロバクターなどとなっています。

なぜサルモネラが多いのか、サルモネラは鶏卵や肉類、ミドリガメなどのペットに付着していることがあります。しかし、統計によると、直接卵や肉を食べて発症するよりも、サラダやサンドイッチなど、いろいろな食材を使った複合食品によるもので多く発生しています。

 ですから、卵やお肉を扱った後の器具類の洗浄殺菌や手洗いを徹底することはもちろんですが、調理の途中でも時々手を洗い、調理の終わった食品は汚染されないようラップをかけるようにし、出来上がったら早めに食べるようにしましょう。

また、ペットからの汚染もあるので、ペットを触った手は十分洗ってから調理にかかってください。

Q 食中毒を起こす代表的な細菌・微生物とその特徴を教えてください

A 食中毒統計で全ての年齢層を対象にしたものですと、2001年に全国で発生した食中毒は事件数では1位がカンピロバクター、2位がサルモネラ、3位が腸炎ビブリオとなっています。また、患者数ではノロウイルスが最も多く、2番目にサルモネラ、次いで腸炎ビブリオ、病原性大腸菌、カンピロバクターとなっています。

最近の食中毒の特徴は、ひとつに冬場に発生するノロウイルスによる食中毒が多発しているということです。ノロウイルスは生かきなどの二枚貝が持っていることが多く、これらを生や十分加熱しないで食べて発病することが多いのですが、弁当や集団給食などでは生かきが関係していない事件も多く発生しています。この場合は調理する人が保菌(感染)していて、手洗いなどが不十分で食品を汚染したのではないかと考えられています。症状はおう吐、下痢、腹痛が主で、乳幼児のロタウイルスなどによる感染性胃腸炎と同じような症状(違うのはロタは白い便が出ます)です。おう吐物などでも感染すると言われていますので、吐いたものの処理には注意してください。吐物をふき取ったものは密封して捨てるようにし、処理した後の手洗いは入念にするようにしてください。通常は2〜3日で回復しますが、脱水症にならないように水分を補給してください。

■ これから、夏場に集中して発生するのは腸炎ビブリオ

こちらは海水の温度が20℃を超える夏場の魚介類に付着してきます。夏場はどの菌も活発に増殖しますが、中でも腸炎ビブリオは最も増殖スピードが早く、菌のついたものを3,4時間常温に置いておくと食中毒を起こす菌数になります。刺身など、見た目は新鮮でも食中毒を起こす場合があります。発熱はほとんど無く、激しい下痢とおう吐、腹痛が特徴です。長期間症状が続くことはありませんが、脱水症にならないように十分水分を補給してください。生で食べる魚介類は短時間でも冷蔵するようにしましょう。刺身などは温度管理がしっかりしているお店で購入し、寄り道しないで早めに家庭の冷蔵庫に保管しましょう。

■ 乳幼児にとって、今、最も注意が必要な食中毒は腸管出血性大腸菌O157

2001年、O157を含む腸管出血性大腸菌の食中毒事件として厚生労働省に報告があったのは24件378人でしたが、国立感染症研究所、感染症情報センターの感染症発生動向調査によると腸管出血性大腸菌の感染者・患者は4319人となっています。特に、この年の8月には東京都と埼玉県で和風キムチによるO157の集団感染が発生しています。O157は牛の腸内に存在していることが判明していますが、牛肉や牛レバーなどのほかに和風キムチや和え物、白菜やきゅうりの浅漬け、貝割れ大根から検出されています。アメリカではアルファルファやレタス、未殺菌のジュースなどから検出されています。また、ハエが保菌していることもあり、牛の糞などによって環境が広く汚染されていることを示しています。

健康な成人はO157に感染しても水様性の下痢程度で、症状の出ない場合もありますが、乳幼児や高齢者では、感染後2日から7日(平均4日)で、激しい腹痛、下痢を起こし、1日〜2日後に出血下痢(下血)になることがあります。さらに重症な場合は溶血性尿毒症症候群HUS)や脳障害を併発し死亡する場合があります。


 O157の予防方法
は肉やレバーの生食をしないこと。焼肉は十分に加熱してから食べるようにします。ひき肉は中まで十分火が通るように加熱します。生のまま加熱するより、一旦蒸してから焼くようにすると効果があります。家庭の台所では生肉からの汚染を広げないために、肉を扱ったまな板や包丁、容器などはしっかり洗浄して、熱湯殺菌しましょう。肉を扱った手は、十分洗浄してから他の作業に移ってください。O157は人から人の感染もありますが、この場合は患者や感染者の糞便から汚染が広がっています。トイレの後の手洗いを徹底して、お子さんに感染させないようにしてください。兄弟姉妹がいる場合は下痢をしているお子さんのオムツなどの処理が悪く感染を広げる場合があります。下痢をしている子のオムツを処理した後もしっかり手洗いしてください。通常の手洗いは石ケンで十分ですが、下痢便などを取扱った後はアルコールや塩素系の殺菌剤で消毒してください。下痢が続く場合はすぐにお医者さんで受診して下さい。市販の下痢止めを使用すると症状を悪化させることもあります。

堺市の学校給食によるO157の事件では、家庭の風呂や、ビニールプールなどで2次感染したことが判明しています。乳幼児を風呂に入れる場合、下痢をしている人は避けてください。また、何人かでビニールプールを使用する場合は、お尻をしっかり洗ってから入るようにします。もちろん下痢をしている乳幼児はビニールプールに人は入れないようにします。

■ 乳幼児が最も多く感染するサルモネラ菌

0歳児が食中毒で届けられる数は40人から90人程度で、死者はここ数年ありません。ただし、1歳から4歳になると一挙に増加して1000人から3千人ほどが食中毒にかかって、時々死者も出ています。原因菌としては、雪印乳業の加工乳によるぶどう球菌による食中毒が起きた、2000年を除いてはサルモネラによる食中毒が圧倒的に多くなっています。季節は夏から秋にかけて多く発生しています。

日本では10年ほど前からサルモネラによる食中毒が急激に増加しましたが、これはサルモネラ・エンテリティディスという型の菌が鶏卵の中に混入するようになったことが原因です。それまでのサルモネラの食中毒は肉類や鶏卵が原因になっていました。これは、肉や卵の表面がサルモネラに汚染されていることで感染を広げていたためです。予防は肉や卵の表面を殺菌することでしたが、卵の中に菌がある場合は表面の殺菌では菌を殺すことはできません。生の卵や、半熟程度の卵料理の多い日本では爆発的に感染が広がりました。

患者数では96年に16000人を超え、事件数では99年に825件がピークになっています。しかし、99年11月からは賞味期限や保存方法、使用方法などの表示が義務付けられるなどサルモネラ対策が進み、サルモネラによる食中毒は2000年、2001年と事件数、患者数とも急激に減少しています。

サルモネラの食中毒は、重症になる場合があり毎年のように死者を出しています。症状は8時間から48時間の潜伏期の後、腹痛、下痢、発熱(38℃から40℃)等の症状が出ます。高熱が出るのが特徴です。下痢を伴った夏風邪などと軽視すると手当てが遅れて重症化し、感染が広がる恐れがあります。

事故を起こす要因は、卵を割ってから食べるまで、又は調理を始めるまでの間しばらく室温に放置したことや加熱が不十分だったことなどがあります。割り置きした卵をニラ玉にして食べて発症した例があります。また、自家製マヨネーズを数日にわたって使い続けたために食中毒になったなどの例があります。

事故を起こした食品、自家製マヨネーズを使ったサラダやサンドイッチ、割置きした卵かけご飯、卵納豆、ティラミス、ババロア、ミルクセーキ、タルタルステーキ、親子丼、かつ丼などがあります。

卵による食中毒の予防には、@低温での流通、家庭では必ず冷蔵庫で保管することA割ったらすぐに食べること(調理する時も長時間割置きしない)B加熱をする場合は十分加熱するC生のまま使用する卵は傷のない新鮮なものを選び、割ったらすぐに食べるようにすることです。

離乳食に卵を使用する場合は鮮度の良いものを使用し、十分に加熱するようにしましょう。おかゆなどに入れる場合も最後に入れるのでなく、時間をかけて加熱できるように工夫しましょう。茹でた卵を裏ごしして使用するのも一案です。 

■ 乳幼児ではサルモネラの次に多い病原性大腸菌

(ベロ毒素を出さないで病気を起こす大腸菌、「その他の病原大腸菌」)

大腸菌は人の腸内の常在菌で大多数の大腸菌は有害ではありませんが、一部の大腸菌は乳幼児に下痢を起こすことが判明しました。その後の研究で人に下痢を起こす大腸菌はO157などの腸管出血性大腸菌を含め6種類に分類されています。これらを総称して下痢原性大腸菌と呼んでいます。6種類の中でも腸管病原性大腸菌(いわゆるその他の大腸菌)はもともと乳幼児の下痢を起こす原因菌として知られています。この菌によって1950年代、欧米各国で乳幼児胃腸炎が多発しました。その後の衛生状態の改善で減少し、現在ではブラジル、メキシコ、チリなど中南米の乳幼児胃腸炎の原因菌となっています。下痢の原因であり、弁当や給食などで事故を起こしますが、特定の原因食品を突き止めるのは困難になっています。元となる汚染源も特定されていませんが、動物の腸管に存在して、畜産食品を経緯して感染が広がるものと考えられています。

家庭では、外から持ち込まれた汚れでキッチンやシンク、食器・器具類を汚染し、そこから感染が広がるものと考えられます。キッチンは常に清潔にし、食品を汚染しないようにする必要があります。この菌による症状は一般的な胃腸炎症状の下痢・腹痛・おう吐・発熱などで、あまり重症にはなりません。

■ 乳幼児の細菌性下痢症の原因菌で最も多いカンピロバクター

食中毒と確認された原因としては、サルモネラが圧倒的に多く、次いで病原大腸菌、カンピロバクターとなっています。カンピロバクターによる食中毒5月、6月にもっとも多く発生しますが、夏はもちろん年間を通して発生します。潜伏期間が2日から11日の長く、症状も頭痛、発熱が中心で下痢や腹痛が軽いこともあり、風邪やインフルエンザと誤解されることがあります。また、症状が回復しても長期間菌を排出することがあり、下痢便後のおむつ替えをしたら石鹸でよく手を洗いましょう。この菌は鶏や豚、牛などの腸管に普通にいる菌ですので、原因食品としては食肉があげられます。特に鶏肉の汚染率が高く、生食や加熱不十分の鶏肉を食べて多く食中毒事件が起きていますし、鶏肉を扱った手指や調理器具を介しての二次汚染による事件も発生しています。また、野鳥などの糞に汚染された井戸水や川の水を殺菌処理しないで飲んで感染した例もあります。(殺菌装置が故障した、殺菌剤がなくなった例もあります)

家庭での予防は、冷蔵庫等でサラダや調理済み食品など、そのまま食べる食品と生肉類を接触させないことです。カンピロバクターは少量の菌数で症状を起こすので、例えば、肉汁の1滴が野菜に付いただけで50人ほどの乳幼児を感染させる菌数となります。

■ 2000年雪印乳業の加工乳の事件では乳幼児も影響受けた黄色ブドウ球菌

家庭の食中毒と言えば黄色ブドウ球菌という時代もありましたが、現在は激減しています。この菌は手指の傷(特に化膿した傷)やおでこ、にきび、鼻の中、のど、髪の毛やほこりの中など身の回りにあります。この菌のついた手指によって食品を汚染すると、食品の中で増えます。このときにエンテロトキシンという毒素をつくり、これによっておう吐を主な症状とする食中毒を起こします。食後30分から6時間の潜伏時間の後、吐き気、おう吐、腹痛、下痢などの症状を起こします。一度造られたエンテロトキシンは再加熱しても活性が失われないため、再加熱によって菌は死んでも症状は起こる場合があります。雪印事件では加工乳の原料となる脱脂粉乳にエンテロトキシンが入っていたため、加工乳にする時に殺菌処理をしましたが、エンテロトキシンを不活性化できずに、これを飲んだ人に症状を起こしました。0歳児もこれを飲んで食中毒になりました。

黄色ブドウ球菌による0歳の食中毒は98年1人、99年0人、2000年は35人となっています。

原因となる食品は手指を使って作る食品、おにぎり、生菓子、ケーキなどです。

■ 一度加熱した食品で起こるウエルシュ菌の食中毒

ウエルシュ菌は酸素のあるところでは生きられず、芽胞という植物の種のような状態で土や水の中にいます。食肉や洗浄不良な野菜などを大鍋で煮込んだ場合に、底に近い酸素の少ないところで増殖して食中毒を起こします。原因となる食品は大鍋でたくさん作って室温に放置された食品(カレー、シチュー、グラタン、煮物など)、集団給食で多く発生するため、集団給食病と呼ばれています。症状は下痢、腹痛、吐き気、おう吐ですが重症にはなりません。

その他、蜂蜜による乳児ボツリヌス症、0歳児には蜂蜜を与えないで下さい。

Q 食中毒予防のポイントについて

A 家庭での注意点

    まな板は、肉・魚・野菜・調理済み食品用に用意できれば万全です。

    肉を切る時にまな板の上に牛乳パックや台所用紙ナプキンなどを敷くとまな板を汚さずに作業ができます。ただし、牛乳パックはよく洗って、乾燥させたものを使用してください。

    プラスチックのまな板は傷目が浅いため汚れが深く染み込まないので、洗浄・殺菌が容易にできます。ただし、しっかり洗浄しないと木でもプラスチックでも同じになります。

    タオルやふきんは洗剤で洗濯し、煮沸するか、漂白剤で漂白した後、十分乾燥させてください。タオルは個人用にして、ふきんは十分な枚数を用意してください。スポンジは使用後洗浄してから熱湯に漬け、乾燥させます。

    すり鉢や茶こしの洗浄は新しい歯ブラシを専用ブラシとして使用すると良いでしょう。洗浄後、煮沸消毒して格納してください。包丁刃の部分だけでなく柄の部分も十分洗浄してください。

    調理終了後は、流し(シンク)の壁面も十分に洗浄して、熱湯をかけて乾燥させておくこと。

    解凍時に、内部まで解凍する間に表面細菌の増殖可能な温度に達する場合があり、夏場の自然解凍は止めましょう。冷蔵庫内か包装したまま水道水にさらすなどして解凍するか、電子レンジで解凍するのが良いでしょう。

    手洗いは市販の石鹸で十分です。ただ、ハンバーグを素手で作るよう場合は、石鹸で十分汚れを落としてから薬用石鹸やアルコールを噴霧すればより効果的です。

    食器を洗った後はよく水切りかごなどで乾燥させてから保管するようにします。ただし、水切りかごも汚れますので定期的に洗浄殺菌してください。急いで再使用する場合は1枚のふきんでは食器5〜6枚程度にして、新しいふきんに替えてください。

    冷蔵庫は汚れが付いたらすぐにふき取るようにします。定期的には2週間とか1ヶ月とかに決めておいて、賞味期限の確認も兼ねてすべての食品を点検し、清掃します。台所洗剤で汚れを落とし、その後で漂白剤を浸したふきんなどでふき取ると良いでしょう。

Q 食中毒はどんな症状を起こすのですか

A 食中毒は原因となる菌によってそれぞれ症状に特徴があります。逆に症状から原因菌を割り出す場合もあります

    乳幼児や高齢者は通常の成人に比べて発症しやすくなっています。157では大人は下痢程度で済む場合がほとんどですが、乳幼児が感染すると、HUSなどになって死亡する場合があります。その他の菌では大人よりやや早く症状が出たり、重くなったりします。食中毒にかかわらず、胃腸炎を起こした場合、できるだけ早く医療機関を受診するようにしてください。全般的にいえるのは、水分補給をしかりすることです。下痢の場合は安易に下痢止め使用しないようにしてください。

    医療機関を受診する場合は何を食べたかをしっかり伝えてください。その際、直近の食事内容だけでなく、4日前までの食事が思い出せると判断だしやすくなります。O157では原因になる食品を食べてから発病するまでに、平均4日と言われていますし、カンピロバクターでは2日から7日となっています。ペットから感染する場合があるので、犬や猫、小鳥、亀などを飼っている場合はそのことを伝えて下さい。食事を思い出すのは大変ですが、家族の行事(どこかに食べにいった、誕生日を祝ったなど)と一緒に思い出すと良いでしょう。最も確実なのは買い物のレシートをしっかり保管してあると、食事の用意に購入したものがはっきりします。

    2次感染で注意をするのはおむつなどの糞便の処理です。それと、最近多くなっているノロウイルスの感染は、はおう吐物からの飛沫感染やおう吐物が乾燥して空気中に舞い上がったものでも感染するのではないかと言われています。おう吐物は不要になった衣類などでしっかりふき取り、密封して廃棄します。汚れた床は家庭用漂白剤が使用できればそれを振りかけて置きます。O157などの細菌の場合はアルコールを噴霧することも効果的です。汚れものに触れた後はしっかり手洗いをしてください。笹井勉(墨田区保健所・食品衛生監視員)
(03.5、04.6訂正・加筆)

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