雪印食中毒事件考えるシンポジウム  (2000年10月7日)への報告

  なぜ、雪印の大規模食中毒事件は起こったのか

---自治体リストラと規制緩和の合作---保健所の機能拡充強化と食品衛生監視の充実強化が課題 

事件の概要

  2000年6月下旬、雪印乳業の大阪工場などで製造した低脂肪乳などを飲んだ14,849人(9月8日現在)が食中毒になるという事件が発生しました。「低脂肪乳」や「のむヨーグルト毎日骨太」「のむヨーグルトナチュレ」などを飲んだ人が食中毒を起こしています。原因は大阪工場で原料として使用した、同社大樹工場で製造した脱脂粉乳がエンテロトキシンに汚染されていたことと、大阪工場でのずさんな衛生管理によるものと推定されます。

黄色ブドウ球菌とは

  黄色ブドウ球菌は私たちの周りにごくありふれて存在しており、手指の傷やニキビなどを化膿させる菌でもあります。この菌が作り出す毒素のエンテロトキシンは加熱に強く、100℃30分でも分解されません。そのため、一度菌を増殖してエンテロトキシン作ってしまうと、その後加熱殺菌しても、菌は無くなりますが毒素が残り、食中毒を起こすことになります。20年程前までは、手指に傷のある人が作ったおにぎりや弁当などで多くの患者が出ていました。最近は、弁当やおにぎりを作る際にラップや合成樹脂製の手袋を使用するようになり、黄色ブドウ球菌の食中毒事件は激減しています。

食の安全を守る保健所と食品衛生監視員=地域保健法で保健所の大幅削減

 食品の安全を守るべき保健所・食品衛生監視員は、今どうなっているのでしょうか。1995年(平成7年)厚生省は、感染症(伝染病)などの社会防衛的な対応を取る必要がなくなった。保健所の業務であった母子保健などの事業を市町村に移管するので、保健所は統廃合して人口10万人に1ヶ所から30〜35万人に一ヶ所にするとして、保健所法を全面改正(改悪)して地域保健法を発足させました。ところが、翌96年には対応する必要がなくなったとされた感染症の一つであるO157が大発生したことは記憶に新しいところです。また、地域保健法は行革・リストラを断行しようとしていた全国の自治体にとっては格好の材料となり、機能強化はかけ声のみで保健所が次々の統廃合されました。特に政令指定都市では30万人に一ヶ所の基準はどこえやら、札幌市では人口90万人にもかかわらず9ヶ所あった保健所を一つにしたり、今度事件を起こした雪印大阪工場を管轄する大阪市では、人口260万人という大所帯に24ヶ所あった保健所をこの4月に保健所を一つにし、食品衛生監視員を12名削減したばかりでしたし、大樹工場のある北海道でも98年に45ヶ所あった保健所を26ヶ所に削減しています。

保健所の統廃合と規制緩和

 保健所が統廃合されるに伴い、厚生省は食品衛生関係でより一層の規制緩和を進めました。食品営業関係許可期限を従来は3年から5年であったものを5年から8年にしたり、新しい衛生管理方式として総合衛生管理製造過程の承認を受けると、食品衛生法の規制の一部を適用外にし、営業者の自主管理に任せるとしました。総合衛生管理製造過程はHACCP(ハセップ=危害分析重要点管理)方式とも言われ、より高度の衛生安全管理がなされていると言われているものですが、本当のねらいは規制緩和により企業の自主管理に任せるというものでした。その結果、今度の事件が起きた後も、市の衛生部局や保健所が十分把握できない面もあり、企業の対応が中心になりました。

東京都における牛乳等の安全管理は

  牛乳は乳幼児や高齢者などにとっては欠くことのできない食品です。病気や治療中の人たちにとっても重要な栄養源となっています。東京都では早くから都内の牛乳工場で作られる製品の安全を確保するために、牛乳工場に対する監視指導を強化してきました。1960年代までは、都内の主な牛乳工場には食品衛生監視員が分駐して監視検査に当たっていましたが、美濃部革新都政時代に業者との癒着のもととなるとして、分駐していた監視員を引き上げて、71年、新たに2ヶ所の牛乳検査室を設置して監視指導に当たってきました。牛乳検査室に所属する食品衛生監視員は工場内の複雑なパイプラインも熟知しており、都民の健康を守るために、安全な牛乳が提供されるよう監視指導を強化してきました。

 しかし、東京都も行革リストラを進めるなかで、90年、食品環境指導センターの設置と食品機動監視班の集約化に伴い、牛乳検査室も環境指導センター牛乳係として一ヶ所に集約され23区内4施設、多摩地区の7施設、島しょ地域に2施設(98年4月現在)の乳処理工場の監視指導を担当することになりました。さらにHACCPが導入されたのを受けて、ハセップ指導係となりました。都や担当保健所の監視員の努力によって都内では特に重大な事件は発生していませんが、全施設をくまなく監視し、工場の施設設備まで熟知するには困難になってきています。その上、東京都では、地域保健法施行により、全国に先駆けて保健所を削減してきましたが、アクションプランと称してさらに保健所を削減する計画を発表しています。

リストラ規制緩和でなく、必要な規制と職員の充実を

 95年に施行された地域保健法以降、阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件、和歌山の毒入りカレー事件など次々と保健所が対応すべき事件が起こりました。そこで厚生省は、地域保健法の基本指針を改正し、健康の危機管理に対応できる保健所にするよう各自治体に求めていますが、すでにリストラされた保健所を復元することや保健所が対応することは困難になっています。川越保健所のO157の検査問題や雪印事件は、そのことを端的に表していると考えられます。川越保健所や雪印の事件を受けて厚生省は緊急に対策会議や専門職を集めて危機管理の徹底を訴えていますが、一度決まった流れを戻すには保健所設置自治体の特別な努力が必要となっています。健康の危機管理に対応し、食の安全を守るためには、規制緩和とリストラという流れでなく、適切な規制、そして高度で専門的な食品監視のできる人員配置と、すべての食品衛生監視員の技術向上のために、国や地方自治体が積極的に取り組まなければなりません。それを実現させる大きな国民的な運動が求められています。

自治労連都職労公衆衛生部会長 笹井  勉(墨田区保健所・食品衛生監視員)

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