世界遺産登録の基準

 世界遺産条約においては、どのような記念工作物、建造物群、遺跡が文化遺産であり、どのような物理的・生物学的構成物、動植物の生息地・自生地、自然の景観が自然遺産であるかを定義した、いくつかの基準が設けられています。

〈文化遺産〉

01

人間の創造的才能を表す傑作であること

02

ある期間、あるいは世界のある文化圏において、建築物、技術、記念碑、都市計画、景観設計の発展に大きな影響を 与えた人間的価値の交流を示していること

03

現存する、あるいはすでに消滅してしまった文化的伝統や文明に関する独特な、あるいは稀な証拠を示していること

04

人類の歴史の重要な段階を物語る建築様式、あるいは建築的または技術的な集合体、あるいは景観に関するすぐれた見本であること

05

ある文化(または複数の文化)を特徴づけるような人類の伝統的集落や土地利用の一例であること。特に抗しきれない歴史の流れによってその存続が危うくなっている場合

06

顕著で普遍的な価値をもつ出来事、生きた伝統、思想、信仰、芸術的作品、あるいは文学的作品と直接または実質的関連があること

〈自然遺産〉

01

生命進化の記録、地形形成における重要な進行しつつある地質学的過程、あるいは重要な地形学的、あるいは自然地理学的特徴を含む、地球の歴史の主要な段階を代表する顕著な例であること

02

陸上・淡水域・沿岸・海洋生態系、動・植物群集の進化や発展において、重要な進行しつつある生態学的・生物学的課程を代表する顕著な例であること

03

ひときわすぐれた自然美および美的要素をもった自然現象、あるいは地域を含むこと

04

学術上、あるいは保全上の観点から見て、顕著で普遍的な価値をもつ、絶滅のおそれのある種を含む、野生状態における生物の多様性の保全にとって、最も重要な自然の生息・生育地を含むこと

 「日光の社寺」の場合、上記の基準のうち、〈文化遺産〉の01、04、06に該当すると判断されて世界遺産への登録が決まりました。

01 「人間の創造的才能を表す傑作であること」

 「日光の社寺」の建造物の多くは、17世紀の日本を代表する芸術家や職人や技術者が、自らの力の全てを懸けて取り組んだ綜合的な芸術作品です。左甚五郎については、未だに謎が多く、よく分かってはいませんが、狩野探幽や甲良豊後守宗広らは、それぞれ画家と大工の棟梁として、数多くの優れた業績で知られる、当時の代表的な天才芸術家でした。

04 「人類の歴史の重要な段階を物語る建築様式、あるいは建築的または技術的な集合体、あるいは景観に関するすぐれた見本であること」

 東照宮と輪王寺の大猷院に見られる、本殿と拝殿を石(相)の間でつなぐという建築の様式は、「権現造」と呼ばれ、現在でも日本の代表的な宗教建築の様式として知られています。また、全体としての建造物群は、その絢爛たる建築装飾が周辺の杉の大木の緑と見事な対比効果を示しており、「わび・さび」の世界とは異なる、日本人のもう一つの芸術感性の側面を明らかにする事例といえます。

06 「顕著で普遍的な価値をもつ出来事、生きた伝統、思想、信仰、芸術的作品、あるいは文学的作品と直接または実質的関連があること」

 「日光の社寺」は、徳川幕府の初代将軍・徳川家康が眠る霊廟として、代々の将軍の社参や朝廷からの例幣使の派遣、朝鮮通信使の参詣などが行われ、当時の政治体制を考える上でも重要な歴史的役割を果たした場所です。
 また、これらを取り巻く自然環境は、山や森を神格化した独自の神道思想と密接に関係するもので、やはり、日本古来の伝統に基づく文化の典型を、現代に伝えているといえるでしょう。