◇環境問題

地球の命と私たちの生き方 →ネットワーク『地球村』
環境保護・地球温暖化防止の第一歩は、不必要なものを買わない、無駄な消費をしないこと!
太陽エネルギー(最も安全で無尽蔵なエネルギー)を利用し資源エネルギー浪費を最小限に押さえる家 →太陽建築研究所<ソラキス>
政府広報「3R」ー地球にやさしい暮らし方ーから抜け落ちている第一のR:まず買わない使わない(Refuse)
その次に3R:「ごみを減らし(Reduce)、繰り返し使い(Reuse)、再利用する(Recycle)に、修理する(Repair)を加えて5R
[里海を浄化するカキ] 中国新聞「天風録」2010年1月21日
[「自然環境保護」ナメクジウオからの警告] 中国新聞コラム「天風録」2008年12月11日
[ティッシュペーパーは水溶性のものを!][富士山頂にバイオトイレ設置]
[澄んでも汚い海 諫早湾干拓「閉め切り」10年] 環境エコロジー 朝日新聞 2007年5月31日
[<諫早湾開門>見送りは官僚の独善だ] 朝日新聞社説 2003年12月28日
[農水省の勝手を許すな] 朝日新聞社説 2003年4月24日
[「諫早湾をなぜ救うのか」豊かな生態系取り戻せ] 中国新聞「中国論壇」2001年6月3日
[諫早湾水門開放を決定、有明海ノリ不作調査] 中国新聞 2001年3月28日
[水門開放 泡立つ海、諫早湾調査茶色の水] 朝日新聞 2001年3月23日
[水門を開ける決断を] 朝日新聞社説 2000年4月14日
[「諌早干拓」事業の妥当性問う好機、干潟消滅から3年] 朝日新聞 2000年4月14日
[諌早号泣、生活排水で汚濁進む] 朝日新聞 1999年7月6日
[「ゲートは開くか」検証・芦田川河口堰]

環境問題と民主主義

[吉野川可動堰と住民投票] 朝日新聞「天声人語」 2000年1月25日
[愛知万博と跡地利用計画] 朝日新聞「天声人語」 2000年1月24日

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[里海を浄化するカキ]
中国新聞「天風録」2010年1月21日

広島湾を空から見ると、カキいかだの周りだけ海水が澄んでいるのに気付く。カキが海のプランクトンをせっせと取り込んでいるからだ。1粒がろ過するのは1日約200リットル。なんとドラム缶1本分というから、カキのパワーに驚く▲江田島以北に浮かぶ5千台余りのいかだ。そのエリアの海水が2週間もあればろ過し尽くされる計算になる。陸から海に流れ出た栄養分を、水揚げを通じて再び陸へ戻す。排せつ物を差し引いても、カキのおかげで大阪湾ほど汚れずに済んだとみる研究者がいる▲いかだの間を縫うように網を引くのはナマコ漁だ。いかだの下は小魚の格好の隠れ家や餌場に。稚ナマコもくっついてすくすく育つ。100万を超す大都市のすぐ地先で今もいろんな漁ができる。豊かな海の秘密は実はカキいかだにあった▲東京都も目を付けた。お会場の浅瀬にカキいかだを据えると、周りの海水が澄んできた。都民にその浄化実験を公開する。「もっと海のことを知りたい」という声が出た。人を海に近づける力もあることに気付かされる▲「里海」という言葉がある。里山のように、人手を加えながら海の幸を持続的に活用しようとの考え方だ。プリプリのカキを含むと、口に広がる旬の味わい。里海の恵みがちょっぴり誇らしい。

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[「自然環境保護」ナメクジウオからの警告]
中国新聞コラム「天風録」2008年12月11日

ナメクジウオとは、いかにものろそうな名前だ。ところがイメージと違って、砂の上ではピョンピョン跡びはねる。長さは四センチほど。細長く平べったい姿は、愛矯がある。背骨に進化する前の、筋肉でできた棒状の脊索を持つ▲きれいな砂地にしかすめない。瀬戸内海でも、ほとんど姿が見られなくなった。ところがこの小さな生き物が、思わぬ形で人を動かす力を発揮した。竹原市の賀茂川河口に広がる「ハチの干潟」。そこを開発工事から救ったのは、ナメクジウオだった▲今では地元の小学生たちから「干潟の人」と呼ばれる岡田和樹さん(22)。高校時代、この干潟で五匹のナメクジウオを見つけた。「生きた化石」に胸が高鳴った。「手つかずの海辺がまだある」。そこへ、しゅんせつ土投入による藻場造成計画が浮上したのは三年前▲居ても立ってもいられなかった。市民に呼びかけ、何度も自然観察会を開いた。参加した人たちの間から「残さなければ」との声が広がり、一万六千人の反対署名に。計画は取りやめになった。この経過は、韓国で先月まであったラムサール条約締結国会議でも報告した▲ヒトなど脊椎動物の祖先とされるナメクジウオ。五億年の時を経ても変わらぬ姿は、変わりすぎた私たちに警告を発している。

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[ティッシュペーパーは水溶性のものを!]

ティッシュペーパーとしての機能をもたせるため、通常、紙力増強剤などの使用により水に強い加工がされています。そのため、公共トイレなどで使用された場合には下水が詰まるなどの影響も考えられます。また、高山で使用され廃棄された場合などは解けずに残留してしまい美観を損ねる場合があります。現在は、水解性のティッシュペーパーが製品化されており、災害時の備蓄用として自治体などで購入する場合も増えています。野外環境や公共トイレなどで使用する機会が多いポケットティッシュなどは、環境への負荷を軽減するためにも水解性のティッシュペーパーの利用を推進することが求められます。水解性のティッシュペーパーは一般的なものよりも通常厚い紙を使用しているため、1枚あたりのパルプ使用量が多くなります。(坪量:水解性ティッシュ17g以上程度、一般的なティッシュ11〜12g程度)→ティッシュペーパーのガイドライン

[富士山頂にバイオトイレ設置]
→放送大学の面接授業「日本の河川と水」 長崎大学環境学部教授 石橋勝義 2008年8月19〜20日

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[<諫早湾開門>見送りは官僚の独善だ]
朝日新聞社説 2003年12月28日

有明海のノリ凶作の原因を調べるため諫早湾干拓の水門を開けるべきかどうか。その是非を論議してきた農水省の「中・長期開門調査検討会議」が、水門を開けても意味がない、との報告書をまとめた。委員7人全員が農水省や旧建設省などの官僚OBだ。予想された結論とはいえ、自分たちに都合のいい組織をつくってまで干拓推進になりふり構わぬ農水省の態度にはあきれるばかりだ。

3年前のノリ凶作に際して、農水省が専門家を集めてつくった第三者委員会は、諌早湾を閉め切った潮受け堤防の水門を中・長期にわたって開けて調査することを提言していた。にもかかわらず、農水省は開門が困難な理由を並べ立て、「行政判断のための論点整理の場」と称して、今年3月、官僚OBばかりの別組織を設けた。その検討会議は地元の学者・研究者らによる専門委員会にゲタを預け、そこでの賛否両論のうち、農水省に有利な否定論だけを検討会議の結論として取り込んだ。

開門否定論は、要するに「水門を開けても、完全には元通りの状態に戻らないのだから、原因究明に必要なデータは得られない」というものだ。こんな理屈が通用するなら、どんな乱暴な開発行為でも、やり得となってしまい、途中で引き返すことはできなくなる。開門調査の目的は、干拓の潮受け堤防をつくる前の状態のデータを得ることではない。そんなことが不可能なことは初めからわかっている。そうではなく、水門を開けることによって有明海の潮流や水質、干潟の生態系にどういう変化が表れるかを調べ、その変化が有明海の回復につながるかどうかを見極めることにある。
第三者委員会が中・長期の開門調査を求めたのはそういう趣旨だ。専門家の出した提言を、官僚OBが筋違いの論法でひっくり返すのは独善というほかない。農水省はまた検討会議の場で、開門調査をするには630億円かかるとの試算を示した。「だから水門を開けられない」と、つっかえ棒にしたかったのだろう。だが、有明海のノリ漁はずっと不安定な状態が続いている。昨季は3年前と同じ色落ち被害が広がったし、今季は秋口に大規模な赤腐れ病が発生した。

自然条件のちょっとした変化で大きな異変が生じるのは、有明梅に備わっていた自然の復元力が弱まっているからだ。その原因は一つだけではないとしても、広大な干潟を消滅させた諌早湾干拓が大きくかかわっていることは疑いようがない。最初から「調べても原因はつかめない」といって何もしないことは行政の怠慢だ。それがいかに犯罪的かは、これまでの数々の公害や薬害の歴史が示している。農水省は報告書にかかわらず、中・長期の開門調査を実施すべきだ。

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農水省の勝手を許すな
朝日新聞社説 2003年4月24日

スポーツの試合で、片方のチームから審判を出すと言ったら、不公平だと大騒ぎになるだろう。それと同じようなことを農水省がやろうとしている。有明海のノリ不作にからんで、諌早湾を閉め切った干拓堤防の水門を開けるべきかどうかを検討する「中・長期開門調査検討会議」が先月末、発足した。ところが、7人の委員は全員が官僚OBである。そのうち農水省出身が5人。しかも、干拓事業を推進してきた農村振興局(旧構造改善局)の局長と局次長の経験者も含まれている。「行政判断のための論点を整理する場だから、行政経験の豊かな人を選んだ」と農水省は言う。まるで「お上のやることはお上が決める」と言わんばかりである。

ノリ不作が大きな問題になったあと、農水省は原因究明にあたる第三者委員会を設けた。その第三者委は01年12月、不作の原因と疑われている諌早湾干拓事業の水門を開いて調査すべきだ、との提言を出した。農水省の主張する「短期開門」では不十分であり、「半年程度の中期開門」と「数年間にわたる長期開門」を行って、堤防内の浄化能力などがどう変化するか調べるよう求めるものだった。02年4月に短期開門に踏み切ったが、その際に農水省は「中・長期については新たな場で議論してもらう」と、せっかくの第三者委の提言を棚上げしてしまった。

今回の検討会議は「技術的、経済的な側面から様々な意見がある中で、幅広い観点から論点を取りまとめていただく場」とされている。技術的、経済的側面とは、第三者委に対して農水省が主張してきた「中・長期開門が困難な理由」のことだろう。干拓事業の完成が遅れる。地元が反対している。水門の強度が潮流に耐えられない。周辺に塩害が起きる。旧堤防の補強に莫大な費用がかかる……。

現役官僚は「だから開放できない」と言ってきた。発想を同じくする官僚OBが異なった判断を下すとは思えない。結局は、農水省の主張を追認するだけだろう。しかも農水省は、干拓地を囲む内部堤防の仕上げを急ピッチで進めている。残された前面部分が完成すれば、水門を開いて潮を入れても、干拓地は干潟には戻らない。提言を無視し、漁民をけ散らして、既成事実を作ろうというのだろうか。

第三者委を設ける際、当時の谷律義男農水相は「提言は最大限尊重する」と述べた。大臣の交代に乗じて官僚が巻き返し、提言は骨抜きにされようとしている。今、必要なのは、官僚の「言い訳」ではない。危機に直面している有明海を救うため、第三者委から出された意見を採用するかどうか、という政治決断である。こんな農水省の勝手を見過ごしては、小泉内閣の掲ばる改革の看板が泣く。

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[「諫早湾をなぜ救うのか」豊かな生態系取り戻せ]
佐藤正典*(鹿児島大理学部助教授)
中国新聞「中国論壇」2001年6月3日

*さとう・まさのり 56年広島市東区生まれ。東北大大学院理学研究科博士課程修了。93年現職。水生生物学。特にゴカイ類を研究。共著に「有明海の生きものたち」(海游舎)「滅びゆく鹿児島」(南方新社)など。5月から来年2月まで北海道大に内地研究員として滞在。

有明海奥部の長崎県・諌早湾では1997年4月、全長7キロの堤防による閉め切りによって、3550ヘクタールの干潟・浅海域が一度に失われた。その直後、干からびた干潟が一面、白く見えるほどおびただしい数のバイガイの死殻が現れ、私たちを驚かせた。

この二枚貝は私たちの祖先が稲作以前から食料としており、日本各地の縄文時代の貝塚から頻繁に見つかっている。近年まで東京湾や瀬戸内海でも記録がある。だが現在、国内での分布地はおそらく有明海奥部のみだろう。諌早湾はバイガイが高密度で生き残っていた奇跡的な場所だった。今は佐賀県沖などで細々と生き残っいるだけで、絶滅寸前である。

かつては日本各地に見られた生物が、開発によってどんどん生息地を奪われていった例は、バイガイだけではない。現在は有明海や瀬戸内海の一部にしか残っていないという生物が何種類もいる。その最後の生息地すら今つぶされようとしている。古来、日本の豊かな海の生態系を支えてきた生きものたちを見殺しにしていいのだろうか。

二枚貝は、海水を大量に濾過しながら、水中のプランクトンなどを取って食べる。ゴカイやカニは、干潟表面に堆積した有機物を食べるものが多い。干潟の泥の中に、こうした生物が数多くすんでいるおかげで、内湾の水が浄化されるとともに豊富な魚介類が生産される。

内湾に流入する栄養物質が生物生産に使われることによって吸収され、食物連鎖を通して最終的には鳥の捕食や人間の漁業によって、湾の外に運び去られるのである。この生態系の働き(浄化作用)があれば、栄養物質が湾内に過剰にたまることはなく植物プランクトンの異常増殖(赤潮)も起こりにくい。

諫早湾の締め切りによってできた調整池は淡水化に伴って、環境アセスメントの予測を越えて富栄養化が進行している。調整池の水位を一定に保つためにニカ所の水門は干潮時に開かれ、富栄養化した淡水を有明海に排出する。その淡水が海水表面に浮かんで拡散し、有明海奥部の表層部に局所的に高濃度の栄養塩が供給され、赤潮の発生を促進している可能性は高い。

有明海奥部では昨冬、ノリ生産が壊滅的な不作に見舞われた。その直接の原因は、冬期に珪藻プランクトンの赤潮が長期間にわたって発生し、水中の栄養塩を消費してしまったためと考えられている。

調整地からの排水に際しては、狭い水門の下部が開く構造になっているので、底にたまったヘドロも堤防外に出ていると思われる。底泥の堆積が、調整.池内よりも堤防外の方が大きいことを示すデータもある。

諌早湾干拓事業の悪影響については、魚介類の産卵保育の場が大規模に失われたことや、海域面積の縮小によって、潮汐が弱まり、干満差や潮流速度が減少したことなども挙げることができる。

諌早湾干拓事業はすぐに中止し、調整池内に海水を導入すべきである。たとえ何年かかるとしても、かつての豊かな干潟・浅海域生態系の回復をめざすべきである。それは絶滅の危機に瀕している生物の「最後の砦」を守ることであり、原発計画などによって貴重な自然が破壊されようとしている瀬戸内海をはじめ、各地の海にも共通した教訓となるだろう。

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[諫早湾水門開放を決定、有明海ノリ不作調査] 農相時期明示避ける、干拓再開のめど立たず
中国新聞 2001年3月28日

中国新聞(2001年3月28日)の第1面に載った解説図

ドクターちゃびんの解説:やっと理解できた「水門開放」ということの意味
水門閉鎖によって調整池(この中身も分からない)は汚れた水とヘドロが溜まって汚染が進むが、毎日のように干潮時の限られた時間だけ排水門を開いて調整池の汚い水を有明海に捨てている。

「単なる締め切り堤防や河口堰の開放は新たな環境破壊を招く」
2002年4月
それにしても、今もラジオのニュースで諫早湾のことを言っていますが、一旦閉じてしまって、汚染が進んだ調整池内部の浄化をせずに、そのまま解放すれば海の汚染を招くだけです。福山には毎年汚染度中四国No.1という悪名高い芦田川がありますが、ここでも同じような議論をしています。締めきりの河口堰を開けば、永年溜まったヘドロや汚染物質が海に流されて、確かに川はきれいになりますが海は汚れます。諫早湾にしても芦田川にしても、まず溜まったヘドロや汚染物質をきれいにしてからという前提がありません。素人や子供が考えても分かると思いますが、偉い人達にはなぜこんなことが分からないのでしょうか。環境を守ったり、市民の命を守ったりするような肝腎なことにはお金をかけないようで、福山市は潰れたそごうの建物を30億円以上かけて買い取るといっています。つい先日、市にはお金がないからと、広島大学の福山分校跡地の一角を民間に売り払ったばかりです。これも貴重な公共の場所が減ってしまうという市民は理解に苦しんだ判断でした。裏でお金が動いていることは明かのようです。市民が声をあげなければ、何をされるか分からないようなことが一杯あります。

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[水門開放 泡立つ海、諫早湾調査茶色の水] 朝日新聞 2001年3月23日

有明海の養殖ノリ不作の一因と指摘されている長崎県・諌早湾の国営干拓事業で、農水省は二十二日、水門を開けて調整地からの排水拡散状況調査を実施した。同省が設置したノリ不作を検討する第三者委員会が要請した緊急調査の一つで、結果は二十七日に開かれる同委に報告される。午後二時に北部排水門が開くと、水門の外側が泡立ち、調整池と同じ茶色の水が青い海にジワジワと広がった=写真、本社ヘリから。約十分で沖合約五百メートルにあるオレンジ色の防止フェンスに達し、その外側まで茶色く染まった。同省は小型船五隻で、排水の様子を目視した。長崎県諌早湾干拓堤防管理事務所によると、排水は午後三時まで約一時間行われた。調整池の水位は約二センチ下がり、約四十万トンが排水されたという。調整池は一カ月に約二十回の割合で水門を開けて、海へ排水している。

ドクターちゃびんの解説:今までこんな調査もしていなかったとは全く驚きました。物事は「計画して調査して決定して実行したら、結果を調べて次の計画に生かす」このくり返しです。もしも失敗なら、ただちに対策を立てなければいけないはずです。「無責任」としか言い様がありません。先進国での公共工事の絶対的なルールは「環境に影響を与えない」ということです。

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[水門を開ける決断を]
朝日新聞 社説 2000年4月14日

長崎県の諌早湾が国営干拓事業のために閉め切られて三年がたつ。東京・山手線の内側の半分以上もの広さがあった豊かな海から、ムツゴロウやシオマネキの姿が消えただけではない。干潟の消滅は、有明海全体に深刻な影響を及ぼし始めた。

先月下旬には、閉め切り堤防の外側を漁場とする佐賀県の漁民が、堤防の両端にある水門を開けるよう求めて海上デモをした。閉め切り面積の半分を占める調整池に海水を入れて干潟を再生せよ、との主張である。漁民によれば、貝柱をすしのネタに使うタイラギなどの貝類は壊滅状態となり、シャコ、シバエビ、ワタリガニなども激減した。地元でガンバと呼ぶフグは入ってこなくなった。潮位や潮流が変わり、漁に際しての過去の経験は役に立たない。赤潮も頻発するようになった。長崎大学、水生生物学研究室の調査によれば堤防のすぐ外では底生生物が六割減ったという。

有明海のような閉鎖海域では富栄養化が進み、水質が悪化しがちだ。それが避けられたのは、広大な干潟があったためである。潮の干満にさらされる泥の海で、無数の生物が食物連鎖を通して海水を浄化していた。プランクトンに満ちた海は、稚魚のゆりかごでもあった。漁民たちは、干潟を「有明海の子宮」と呼んでいたものだ。干潟の破壊は、そうした生命の循環を断ち切った。調整池の汚れた水を、干潮時に外側に排出していることも見逃せない。閉め切りによって、調整池に流れ込む生活排水が浄化されなくなった。大量死した生物の分解も進む。その水を、干潮時に水門を開けて排出している。調整池の水位を干拓地よりも低く保たねはならないからである。

これほど悪影響が出ていながら、農水省と長崎県は「周辺海域に及ぼす影響は許容の範囲内」という、かつての環境アセスメントの結果を盾に事業を進める構えだ。「被害は干拓工事による一時的なもの」ともいう。しかし、今日の事態は明らかに許容の範囲を越えている。漁民の要求通り、水門を開けて被害の推移を見守るべきである。水門を開ければ調整池に海水が入り、農業用水として使うことはできなくなる。だが、現在のような劣悪な水質では、どのみち使えない。すでに干拓が完了した七百ヘクタール程度なら、川からの取水で間に合うはずだ。水門を開けても、堤防が無駄になるわけではない。海抜マイナス1メートルに保たれている調整池の水位より高くならないよう、潮位を水門で調節すれば、干拓地は水没を免れる。湾外からの高潮を防ぐ機能もあろう。

農水省は今年度、閉め切り前に実施したアセスメントの再点検を行うという。ならばなおのこと、早急に堤防の水門を開けて、閉め切りと被害との因果関係を見極めるべきだ。メンツにこだわってはなるまい。

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[「諌早干拓」事業の妥当性問う好機、干潟消滅から3年]
村田泰夫(編集委員)西田 哲(諌早通信局)朝日新聞 2000年4月14日

諌早湾の干潟が国の干拓事業で失われて、14日で3年になる。かつて水鳥がえさをついばみ、ムツゴロウがはねていた干潟には、雑草が生い茂り、造成工事のダンプカーが疾走する。干潟は消えたが、「諌早」はまだ終わっていない。むしろ問題はこれから広がりそうだ。潮受け堤防で仕切られた調整池の水質が悪化、それが原因だとする漁業被害を漁民が訴えている。造成工事の完成も6年ずれ込み、干拓業そのものの妥当性が問われることになる。諌早干拓のその後を二回にわたって検証する。

「毒水」で漁獲激減

「海と環境と暮らしを守れ」。3月25日、諌早湾の潮受け堤防の北部排水門の目の前に、漁船15雙が集まり、拡声機を手にした漁民が叫んだ。堤防で閉め切られた干潟で、潮が満ちてくるのを待ちわびて死んでいったムツゴロウや貝類、カニを追悼するため、花束も海に投げられた。この漁船は、佐賀県太良町の大浦漁協所属だ。彼らは、佐賀県沖の有明海で、高級食材になる二枚貝タイラギで大きな収益をあげてきた。それが、諌早湾が閉め切られてから漁獲量が激減し、1999年度は皆無に近くなった。排水門に近い長崎県小長井町などでのタイラギ漁は、もっと深刻だ。昨年度まで7年連続の休漁を余儀なくされている。湾内でタイラギ漁をしている新泉水海潜水器組合の松永秀則組合長は「海砂の採取による海の汚染や、排水門から流される汚染水が原因だ」と怒る。調整池から排出される水を、漁民たちは「毒水」と呼ぶ。諌早市内を貫く本明川などから、雨水だけでなく、生活排水や工場排水、農業排水など汚れた水が調整池に流れ込むからだ。諌早は「複式干拓」といわれる工法を採用した。湾を仕切る大きな潮受け堤防を築いて、内側にできる調整池の水位を堤防外の海水面より約一メートル下げる。干上がった干潟を内部堤防で仕切り、農地として使う。問題は調整池の水質である。数日に一回、満潮時に排水門を閉め、干潮時に聞けて水位を下げるが、川から流れる汚水がたまる調整池の水質は悪くなる。

その「毒水」が、干潮時にどっと諌早湾に排出されるから、魚や貝がとれなくなり、漁業被害が有明海に広がっているーというの、が漁民たちのいい分だ。それを裏付ける調査結果が2月、長崎大学の東幹夫教授(水生生物学)の研究室から明らかにされた。諌早湾と有明海の海底を調べたところ、堤防閉め切り後2年間で、貝類やエビなどの底生生物が6割も減った。潮流の変化や、海砂の採取でくぼんだ海底に酸素の少ない「低酸素水塊」ができたことなど、干拓事業が原因と見ている。

完成遅れ費用も1.8倍に

「もどかしさを痛感する」。佐藤正典・鹿児島大学助教授(底生生物学)は、干潟の価値が過小評価されていると悔しがる。泥や砂だらけの干潟や浅海域は、何の役にも立たないむだな土地のように見える。ところがそれは違う。水質浄化機能が高い。川から流れ込むチッソやリンなどの栄養分を貝類などの底生生物が吸収する。湾内の富栄養化を防いでいる。広い干潟のあった諌早の場合、30万人分の下水処理能力に相当する機能があったとする試算もある。また干潟や浅海域は、魚が卵を産み、稚魚が育つかけがえのない場でもある。まさに、漁民たちのいう「干潟は豊かな海の子宮」なのだ。「諌早湾の干潟を失うことは、有明海にとどまらず、東シナ海の漁業資源にまで影響する」と佐藤さんは警告する。干潟の価値を十分知らない時代に、農政当局は諌早干拓事業に着手した。

幸か不幸か、2000年度に完成するはずだった事業は、2006年度に6年もずれ込む。「内部堤防をつくる地盤が予想以上に軟弱なため」と農水省は説明する。総事業費も当初計画の1.8倍、2490億円に膨らむ。ずいぶん、ずさんな計画といわざるを得ない。しかし、干拓事業の妥当性を問い直す絶好の機会とすることができる。農水省は、環境アセスの予測に沿った形で事業が実施されているかどうか、地盤沈下、生物、水質などを点検するレビューを今年度中に実施する。環境保全の目標に達していないことがはっきりしているのが調整池内の水質である。毎週公表している数値によると、汚濁度合いを示す化学的酸素要求量(COD)、富栄養化の指標となるチッソ、リンとも目標値をオーバーしている。「工事中という特殊事情だ」と農水省は弁明する。

排水門を開けて海水を入れ干潟の水質浄化機能を取り戻さない限り、改善されないと見る研究者もいる。2001年度には、5年ごとに事業を再評価する「時のアセス」の対象になる。それには、再評価する第三者委員会をきちんと機能させなければならない。「形式だけに終わらせれば、事業の続行に免罪符を与える」(山下弘文・諌早干潟緊急救済本部代表)ことになる。漁民の抗議行動や、環境破壊を示す研究者のデータは、農水省にとって「うっとうしい」ことだろう。しかし、疑問の声を無視するのではなく、情報を公開して、きちんと説明する義務が農水省にはある。環境アセスのレビューや、「時のアセス」を、従来の延長線上で実施するのでは不十分である。干潟の価値について、新たにわかった知見に基づいて、事業の妥当性を全面的に見直す時期を迎えている。

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諌早号泣
生活排水で汚濁進む
朝日新聞 1999年7月6日

国の干拓事業で閉め切られた長崎県諌早湾奥部の水質悪化が問題になっている。雨の多いこの時期は、洪水に備えて調整池の水位を一定に保つため、しばしば潮受け堤防の排水門から有明海(写真の左側)へ水を放流する。湾の周辺は下水道が普及していない地域も多く、処理されない生活排水が堤防内側の調整池に流れ込む。

冬場の味覚タイラギの休漁などで、大きな打撃を受けている地元の漁民らは、「漁獲量の激減は、干拓事業の影響で環境が変わったのが原因としか考えられない」と主張。一方、九州農政局諌早湾干拓事務所は「調査の数値では漁場海域の水質悪化は認められない」としている。金沢大学経済学部の碇山洋・助教授(地域開発論)は「このまま汚染が進めば伝染病の原因になる可能性もある。排水門を開放し干潟を復活させれば、浄化機能を取り戻せる」と話してしる。


潮受け堤防の排水門から放流される調整池の濁った水(長崎県・諌早湾)
*調整池は1カ月に約20回の割合で水門を開けて、海へ腐った水を排水している
下水を処理せずに直接垂れ流すのと同じです

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[吉野川可動堰と住民投票] 朝日新聞「天声人語」 2000年1月25日

吉野川可動堰をめぐる住民投票の取材を終えて帰京したら、栃木県に住む少年から手紙が届いていた。「僕の父も庭師をしています。ですが、父の仕事は早いです」とある▼先日、ゆっくり時間をかけて仕事をする植木屋さんの話を紹介した。しばらくチョンチョンやると、ひと休みして遠くから庭全体を見渡す。でき具合を吟味してから、また仕事にかかる。「木を見て森を見ず」の弊に陥らぬように、と自らを戒めているのだ▼一方、少年の父親の仕事は手早いという。「それは、切り始めた時すでに、切り終わった状態が頭にあるからです。さらにいうと、切り終わった時の状態は、完成した形ではありません。木がある程度伸びた状態を想定して切っているのですから」▼「ですから、初めて父に仕事を依頼した客は、たまに『切り過ぎじゃないんですか?』と聞いてきます。ですが、次の年になれば必ず、また父に仕事を依頼してきます。これが職人です」。少年の名は「大地」君。手紙の文面と名前に、父への信頼、子どもへの愛情を感じる▼どちらの植木職が上か、ということではないだろう。大局観をもっている点で、ともに優れた腕前なのである。大地君の父親も、ひと休み派の老人も、さまざまな条件を加味し、今後の道筋をきちんと見定めつつ、いまの状況を的確に判断していく。角を矯めて牛を殺すような結果は招くまい▼住民投票の結果を見て、徳島市長は計画賛成がら反対へと、方針を変えた。「市民の意思は無視できない」という理由だ。しかし、徳島県知事も建設相も、そして小渕首相も既定路線を変えようとはしない。ここで譲れば、各地で住民投票の堰がつぎつぎに切れてしまう、と恐れているかのようだ▼「あの人たちにとっては、議員を選ぶ投票だけが民主主義なんでしょうか」。現地で聞いたことばが耳に残る。

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[愛知万博と跡地利用計画] 朝日新聞「天声人語」 2000年1月24日

長文の会議録だが、一気に読める。誤解を恐れずに言えば、実に面白い。一方の側の発言は筋が通っていて、納得させられる。しかし、もう一方の側の反応は残念であり、寂しくなる▼二十二日付朝刊に要旨が掲載された「愛知万博」についての、博覧会国際事務局(BIE)幹部と、わが通産省幹部の質疑応答である。こんな具合だ。B「万博の後には、山を切り崩して土地開発をし、団地を建てるのではないか、違うのか?」。通「YESだ。しかしながら、それは跡地利用計画のことで、国際博覧会計画ではない」▼国内でなら、このすり替えで押し切れるのかもしれない。しかし、BIE側は引き下がらない。B「その跡地利用は環境破壊になるのではないか?」。通「そうなる」。B「そうだろう。私たちは、それを言わんとしている」。通産省側は手続き論を述べる。その反応。B「手続き上のことは関知しないが、簡単に聞かせてもらおう。この不動産開発はよいことか。一悪いことか」▼BIEは、国際博覧会の質を高めようと設けられた機関(本部・パリ)だ。万博を催すには、全体計画をBIEに提出し、総会で「登録」されなければならない。その幹部が繰り返し警告を発するのである。「人々はばかではない。提示するプランがだんだん姿を変えていき、理想的な姿から変質していくことをよく知っている」▼「土建国家・日本」の自画像を見せつけられる思いだ。そして、きつい一撃。「あなた方は地雷の上に乗っていることをよく自覚すべきだ。たとえ登録ができても、二、三年後には爆発するぞ」。では、どうするべきか▼彼らは答えも言い残した。「博覧会後は自然公園になる。自然を破壊しないための立法措置をしたというような、世界が納得する説明をしてほしい」。問題は「土建国家」にそれができるかどうかである。

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