西 瓜 畠

良く晴れた午後の事、叔父が馬を引き出して荷車を着けている。仁が

「叔父さん何処へ行くの?」

叔父はにこにこ笑いながら

「畠へ西瓜取りに行くだ。お前たちを乗せていくから一緒にやべよ」

仁は嬉しくなって外を亮男を呼びに行った。亮男は台の広っぱでチビと一緒に駆けっこをしていた。

「兄ちゃん、おいでよ、早く早く」

と怒鳴ると亮男は向こうの方で振り返った。そして駆けてきた。チビは一足お先に仁のところへ飛んできて、じゃれついた。

 

「なあに」

「あのね、叔父さんが西瓜取りに行くんだってさ、馬に乗せてやるから一緒においでって」

「面白いや、行こう行こう」

叔父は用意をして待っていた。二人は荷車に乗った。叔父は庭から外へ馬を引き出しそして、手綱を持って車に乗った。馬はおとなしく砂ほこりの吹く道をポコポコと歩いて行く。道が悪いので車がガタガタと激しくゆれる。途中で正男がモチ竿を持って歩いて来るのに出会った。

「正ちゃん何処へ行くの?」

仁が車の上から聞いた。正男はアタリを見回した。

「こっちだよ、荷馬車の上だよ」

手を叩きながら亮男が言った。正男は気が付いて

「なあーんだ、そんなところにいたのけえ、此れから蝉取りに行くだよ。いっぺ取れたら、亮男さんにも仁ちゃんにもやるからなあー」

「うんお呉れね」

正男との距離は段々遠くなり、小石ほどになり胡麻(ゴマ)粒ほどになり、到々見えなくなって仕舞った。

馬は角を曲がって畠の細道を行く。暑いので二人は手拭を頭へかぶった。車が凹み溜りへ入って傾く度に二人は転がりそうになる。

「どうどうどうよ」

馬は停まった。

「さあ此処だ、二人とも下りな」

 

そう言いながら叔父は二人を抱いておろして呉れた。畠には叔母が先に来ていて西瓜を切っている。青々生繁った葉の陰から大きな西瓜が顔を出している。叔父も花鋏(ハナバサミ)を取り出して、大きな西瓜を手でポンポンと叩いた。そしてチョキンと音をさせながら切った。

「兄ちゃん、あれなんなの、どうして叩くの?」

仁は不思議そうな顔をして聞いた。

「あれはね、ああやって叩いた音で中が赤くなったかまだ白いかを調べるのだよ」

「面白いね、僕もやってみよう」「

仁はそばにあった青々として艶やかに光った、大きな西瓜をポンポンと叩いて首をひねった、向こうから叔父が笑いながら

「どうだい仁、もう赤くなったか」

と声を掛けた。

「わかんないや」

仁がこう答えたので皆大笑いした。

「さあ、この位でよかんべえ」

鋏をチョンチョン鳴らしながら叔父が腰を延ばし首の手拭でふいた。

叔父と叔母は西瓜を車へ積み出した。

「僕にも持たして」

仁は無性に持って見たくなったので言った。

「ほら落さねえように気を付けて」

 

仁は西瓜を胸にかかえて歩き出した。つるつる滑るので持ちにくい。うっかりすると落して終ふ。仁が三つ目の大きな西瓜を運んでいると、どうしたはずみか小石につまづいてよろけた。

「あっ」

と叫んだが時既に遅く、西瓜は手を離れポカッと音がして、その拍子に露が顔にはねた。西瓜は二つに割れて仕舞った。中は燃えるばかりの赤さだ。それが青い艶々とした皮と良く調和して何とも言えない美しさだ。

「落しちゃったのけえ」

叔父は笑っている。積み終ったら荷車に一杯になった。仁は焼け付く様な咽喉の干(カワ)きを覚えた。割れた西瓜をもう半分に割って皆して食べた。大きな西瓜を口まで待っていくと、ぷーんと良い香りが鼻をつく。仁は大きな口を開けてがぶっと噛んだ。とろけるような甘さが口一杯に広がって行く。思わず

「ああおいしい」

と大声をあげたので皆大笑いした。

長閑(ノドカ)な午後の陽が四人を照らしていた。

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