夕 焼 け |
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お手々連(ツ)ないで 野道を行けば 皆んな可愛い 兎(ウサギ)になって はねて踊(オド)れば靴が鳴る 高いみ空に 靴が鳴る 静かな夕暮れの中に可愛い仁の歌声が溶け込んで行った。 楽しき又面白かりし夏休みも終ったので、いよいよ今日は恋しい父母の待つ我が家へ帰るのだ。早くお風呂に入って亮男と二人で手を連ぎながら、最後の散歩をしているのだ。競馬場の芝生を歩きながら 「もう小鳥ともお別れだ」 感慨深げに亮男がしんみりした調子で言った。 「あの綺麗な花壇のお花ともお別れだね」 仁も同じ気持か寂しげな顔をしている。 りんりんりんりん 後ろから鈴の音が飛んできた。 「兄ちゃんチビが来たよ」 仁はチビを抱き上げたチビはペロペロと仁の頬をなめた。 「やあー気持が悪い」 そう言いながらチビを下におろして 「兄ちゃん、チビも随分大きくなったね」 「うん、最初来た時は、こんなに小さかったんだけど」 亮男は大きさを両手で示しながら言った。 「さあ、もう帰ろう」 「うん、帰ろうね」 二人はもと来た道を引きかえした。太陽は西空に真赤になってかかっている。鳥が かあかあかあ と哀調を帯びた声で鳴きながら、ねぐらへ急ぐのであろう、森の方へと飛んで行った。 夕焼け小焼けで日が暮れて 山のお寺の鐘が鳴る。 お手々連いで皆帰ろ 鳥も一緒に帰りましょう。 仁が唱いだした。その後から亮男も合唱した。 皆んなが帰った後からは 丸い大きなお月様 小鳥が夢を見る頃は 空にはキラキラ銀の星 歌声は高く低く流れて行った。 家へ帰って荷物をまとめて、バスの来るのを待った。姉が一緒に家まで送って呉れるのだ。 ブウブウブウ ラッパの音をさしてバスは家の前の赤旗の所へ停まった。 「又お出で、体に気を付けて」 「又来ます、ではさようなら」 「さようなら」 「郁ちゃん、さようなら」 祖父や叔父叔母、それに郁子も立って見送って呉れる。 バスは煙を吐いて動き出した。二人は窓に顔を寄せて後ろを見た。何時までも立っている皆の顔が赤く輝いている。 空は、茜色に染まり真赤な陽は静かに、森の彼方へ沈んで行った。
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