阿 部 先 生

 

 仁が一年二年と教わった先生は今だに忘れる事の出来ない阿部先生だ。阿部先生は若い女の先生だ。円いお顔、綺麗に澄んだ瞳、花びらのようなお口から、にっこり笑う度に見える真白な歯、優しいお声で唱歌を教えて下さったあのお姿が今もありありと目に浮かぶ。

 仁は阿部先生が大好きだ。何だかお姉さまのような気もするし、お母様のような気もする。どう言う訳だが仁には解らない。何時も学校で

「仁ちゃん仁ちゃん」

と可愛がって戴いた故かも知れない。

 先生は仁が三年になった時、他の学校へ御転任になった。仁は吃驚(ビックリ)した。先生と一緒にその学校へ行きたいな、とまで思ったほどだった。

 お正月に、夏休みにお手紙を上げれば必ずご丁寧な御返事を下さった。

 先生が御転任になってからは仁は、勉強するのに張合いが抜けてしまった。だがこんな事ではきっと、先生はお悲しみになるだろうと思って、気を持ち直して勉強したが、心の隅に残る空虚な、感じをどうする事も出来なかった。

 ああ今頃は、どうして居らっしゃるかしら?

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