蛍 の 光 | ||
蛍の光窓の雪 書よむ月日かさねつつ いつしか年もすぎのとを あけてぞ今朝は別れ行く 今ぞ我らは共に学び共に遊びし弟等に送られて、幾度潜(クグ)りし校門を後に家路に向うのであった。三々五々思い思いに連れだって、去り行く校門を振り返りつつ此れからの事を語り合うのだった。 だが卒業の日というものは、何と嬉しく又、何と悲しく切ないものである事か。生あるものは如何に、必ず死す。 形あるものは如何に、必ず壊(コワ)れる。会えば必ず別れなければならぬ宇宙の大原則に支配されながら、我々人間初め万物は辛(カロウ)じて生存する事を許されているのだ。何と自然の偉大なる事よ又、何と我々の無力なる事よ。だが我らは自らの無力を悲観しては不可ない。無力なればなるほど、ベストを尽くして我が運命を開拓して行かねばならぬ。冷厳なる運命に屈せず、堅忍不抜(ケンニンフバツ)の精神を以って万難を排し敢然と進む者にのみ、勝利の月桂冠は頭上に輝くであろう。いざ進め、死を賭(ト)して進め、最後の勝利を収むる迄。 台湾の涯(ハテ)も樺太も 海山遠くへだつとも その真心はへだてなく ひとつに尽せ国の為 幾千、幾万里見は離れていても、お互いの真心は共に暖かいきずなに依って結ばれていなくてはならぬ。如何なる困苦が襲おう共、絶対に真心を捨ててはならぬ。それは人の為ではなくて、やがては自分の為であるからだ。真心を捨てた者は自ら絶望の深淵へ飛び込んだのと寸分も変わらない。一度しかない一生だ。皆がお互いに暖かい真心で、結び合いながら一生を以って国に尽そうではないか。それが永い年月片仮名すら満足に読めなかった我々を、此処まで教え導いて下さった先生方の尊い、努力に対する報恩の道でもあるのだ。
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