食の安全・安心のための新しい枠組みと、その下での墨田区の取組み

―第5回公衆衛生全国交流集会への報告(04.3.6〜7)
参加しての感想です。第5回公衆衛生全国交流集会に参加して


昨年(03年)5月、食品安全基本法の制定と食品衛生法等の一部を改正する法律及び健康増進法の一部を改正する法律が公布され、食の安全と安心の新たな枠組みが作られました。これを受けていかに食の安全と安心を保障して行くのか、保健所などの食品衛生行政の強化が求められています。新しい枠組みと現場の取組みについて報告します。

 食の安全に関する新しい法律=食品安全基本法

食品安全基本法は基本理念で「国民の健康の保護が最も重要であるという基本的認識の下に、食品の安全性の確保のために必要な措置が講じられること」、「このために必要な措置が農水産物の生産から食品の販売に至る一連の食品供給の行程の各段階で適切に講じられること」、「内外の動向及び国民の意見に考慮しつつ科学的知見に基づいて国民への悪影響が未然に防止されるようにする」としています。また、国、地方公共団体、食品関連事業者等の関係者への責務と、消費者の役割について規定されました。

さらに、施策の策定においては、食品の健康への影響評価(リスク評価)、政策の選択、行政による規制(リスク管理)と専門家・行政・食品営業者・消費者が介しての情報交換(リスクコミュニケーション)という新たな手法が取り入れられました。

 国民の健康の保護を目的とした食品衛生法の改正

 食品衛生法の改正は55年ぶりの大改正となり、新たに「国民の健康の保護を図る」ことが法律の目的に謳われ、国や都道府県等(保健所設置市、特別区など)の責務、食品等事業者の責務が盛り込まれました。

国・都道府県等は教育活動及び広報活動を通じ食品衛生に関する知識の普及や情報収集、食品衛生の研究、検査能力の向上、人材の育成を図らなければならないとされました。また、都道府県等に食品衛生監視指導計画の策定が義務付けられました。計画策定においては、国民や地域住民とのいわゆるリスクコミュニケーションを実施すること、実施結果についても公表することが義務付けられました。さらに、雪印乳業事件で問題となったHACCPの承認については更新制度が入り、3年程度で更新することになります。輸入食品についても国が輸入食品監視指導計画を策定し、その実施状況を公表することが義務付けられるなどの積極的な施策の展開ができるものとなっています。


 改正の問題点

 しかし、一方では全国一律に監視指導の評価ができた法定監視回数制度が廃止され、それぞれの自治体での計画とそれに基づく監視指導の実施となり、国は指針をつくるものの、具体的な監視指導は、自治体の取組みに任されることになります。指定検査機関制度は民間法人が参入できる登録検査機関制度となり、これまで保健所や衛生検査所、衛生研究所などで行なってきましたが、行政検査も委託できることとなり、財政難の自治体では民間委託がさらに進むおそれがあります。食品衛生の第一線で活躍している食品衛生監視員は輸入食品を監視する国の監視員は03年で283名(04年度は13名増の296名)となり徐々に増加していますが、都道府県や特別区などの保健所に配置されている監視員は保健所の統廃合とともに多くの自治体で削減されています。各自治体の厳しい財政状況のもとでは保健所の予算も削減されており、法律改正に見合った体制になっていません。


 健康食品の被害を防止できるか健康増進法の一部改正

 健康増進法の一部改正では、いわゆる「健康食品」の虚偽・誇大広告の禁止規定が入り違反者には6ヶ月以下の懲役又は100万円以下の罰金が科せられるようになりました。しかし、これによる規制は違反した場合はまず勧告、それに従わない時は(改善するよう)措置命令、それでも従わないときにようやく罰則の適用となります。食品衛生法による違反すなわち即販売禁止処分とはなりません。「健康食品」は、健康増進法で錠剤やカプセルなどの食品?を正式に認めたことにより、大小の製薬会社も参入しての一大市場となりつつあります。医薬品と異なり十分な説明もなく利用されている実態があり、健康食品による被害を防ぐには、一段と厳しい規制が求められます。


 新しい枠組みに対する墨田区の取組み

食品安全基本法の制定と食品衛生法の一部改正という新たな枠組みが作られる中で、行政の適切な対応が求められています。特に、BSE問題を契機に、透明性のある行政を推進するとして、消費者、営業者、専門家、行政などの関係者の意見交換の仕組み「リスクコミュニケーション」が盛り込まれ、このことをどうのように実現していくが試されています。リスクコミュニケーションは国レベルの施策の展開にはもちろんのこと、各都道府県や政令市・特別区などの食品衛生行政の計画策定に当たって、その趣旨、内容等を公表し、広く住民の意見を求めることや、その実施結果についても公表し、住民の意見を仰ぎ、次年度の施策に反映することとなりました。

墨田区でも法の規定に従って、04年度の食品衛生監視指導計画素案を策定し、区のお知らせや、ホームページに掲載し、区民から5通16件のご意見(パブリックコメント)を頂いた。これらのご意見を参考に計画案を策定しています。

また、墨田区では、計画案などに提言いただく食品衛生推進員15名の内訳が、消費者が3名、集団給食施設栄養士等が3名、食品衛生協会員が9名だったものを、消費者、栄養士をそれぞれ1名ずつ増やし、よりバランスの取れた食品衛生推進会議にする予定にしています。

これまでの、営業者のみを対象とした食品衛生行政から「国民の健康保護」を最優先させる行政に転換しなくてはなりません。墨田区でも、消費者・区民、事業者の皆様の意見が行政施策反映され、計画にそって監視指導を進める体制を強化することによって、食の安全確保がより推進されるものと期待しています。

 

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