「さ〜て、今日の晩飯は何を作るかなぁ」

居候が、何人も居る我が家の食材の減りは早い。

いくら買い込んでいても、数日も経たないうちに、こうして買い物に出なくてはならなくなる。

「と、肉は多めに買わないとな。藤ねえが、肉、肉、うるさいし」

といつも御用達にしている肉屋へ赴く途中。

見慣れない。

しかし、すごく目立つ法衣服を着込んだ銀髪の少女がうろついているのが目に付いた。

ここは無視して過ぎ去るのが得策だろう。

肉屋で肉を買うのを諦め、スーパーへ向かう。

「ちょっと待ちなさい。困っている知人を無視ですか?」

聞こえない聞こえない。

「ふぅ。仕方ありませんね」

バシューン ビッ

突然目の前が真っ赤に染まり、

ずるずるずる

「あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・」

無抵抗に引きずられ、

ドサっ ごろごろごろ

転がされ、

ぴたっ

カレンの目の前で停止した。

「ごきげんよう、衛宮士郎」

「ごきげんようじゃねぇぇぇぇええええ!!!」

力の限り叫ぶ。

「こんなところであんなもの使うなんて、普通に見つかっちゃやばいもんだろ!」

ヒソヒソヒソ

ほら周りの人たちが怪しみだしたじゃないか。どうすんだよこれ。

「そこのところは、大丈夫そうですよ」

「は?何が大丈夫・・・」

 

 

「ほら奥さん。また衛宮さんのところですよ」

「あらやだ。また新しい女を捕まえて。何やってるんでしょうね〜」

「この頃何かあるといつも衛宮さんの所。本当少しは自粛してほしいものだわ」

「衛宮さん家の坊ちゃんは盛んだね〜」

「本当、親子って感じだよねぇ」

「なにあれ?○○?街中でありえない」

 

 

あはははは。誰も気にしてないでやんの。

・・・ありえねぇって!

普通、ただの布が、人に勝手に巻きつき、引っ張り上げたことに対して疑問を持つだろ!

この町の人々は、どんな神経をしてるんだよぉぉぉぉ!!!!

「ま、まあいい。そのことはひとまず置いとかないと話し進まないし、保留にしておいていてだな。

俺に、いったい、何のようだ?

ここまでやっておいて。いえ特に用事はありません、とか言わないよな?」

普通の神経をもっている奴になら、聞くまでもないはずのことなんだが、生憎こいつは、普通とは言いがたいからなぁ・・・。

「用件というほどのものでもないのですが・・・」

といい、口ごもるカレン。

「うそっ!あんたでも言いにくいことがあるのか!?」

と、正直な気持ちが口から飛び出していた。

正直、ちゃんと俺を止めた理由があったことよりも何も、カレンが口ごもったことが驚きだった。

「ふふふ、あなたは私をなんだと思っているのですか?」

カレンさんは、今にも、怒りが爆発しそうなご様子。

普段ならここで引くのだが・・・。

「え〜と、○○○○○?」

さっきあんな目にあったんだ。

少しくらい、言いたい事を、言っても罰は当たらないはずだ!

と言う思いが先行し、つい口走ってしまった。

「ここで自害しますか?」

間髪いれず、にっこり笑顔で、恐ろしいことを口にするカレン。

「すみませんでした」

土下座して謝りました。

普通なら自害しますか?って言われてもたいした問題じゃないだろうけど。

こいつの場合は、自害したくなるような状況にまで容易く追い詰めかねない。

「ふぅ。まあいいでしょう」

はぁ、とため息をつき。

「あなたに頼みたいことがあるのです」

頼みごと?

頼みごととか、言われると、弱いんだよなぁ俺・・・。

「なんだ?俺に出来ることなら何でもするけど」

もちろん。

お前の命をよこせ。とか、

生贄になってください。とか、

永遠と心の傷を抉らせて。とか、

言われてもOKとはいえないが・・・。

「この辺りに、麻婆豆腐が食べられる場所はないでしょうか?」

「うんうんマーボーね・・・・は?マーボー?」

マーボーというのはあのマーボーですか?

「え〜と、普通のマーボーだよね?まさか、超激からとか言わないよね?」

ちょっと、動揺してるかな俺。

「はい。とびっきりの辛さを誇る麻婆豆腐がいいのです」

おいおい。これじゃあまるで、言峰じゃないですか。

「悪いことは言わない。この町で、マーボーを求めるのは止めろ。

あれは人外のものだ」

あれは人間の食べるものじゃない。

そう、きっとあれは、混沌で出来ている。

「そういうわけにはいきません」

断固として拒否するカレン。

諦めてくれなさそうだなぁ・・・。

こうなったら、仕方がない。

「分かった。俺が作ってやるから、この商店街でマーボーを食べようなんて考えは捨てろ」

このままじゃ、あの店に入りかねないし。

「え!?良いのですか?」

「ああ、このままあの店に行かせるのは忍びないからな」

「?」

ということで、今晩のおかずは麻婆豆腐に決まった。

 

 

 

家に帰ると置手紙があった。

内容は、

 

 

士郎へ 私と・・・えぇいめんどくさい。

ぶっちゃけ、この家でいつもご飯を食べている人たちで、

遊びに行ってきます。

夕飯はいらないから、作らないでいいわ。

ということで行ってきまぁ〜す。   凛

 

と言うものだった。

正直、都合よく行きすぎだと、思わなくもないが、とりあえず今は、料理を作ろう。

こんなことに、疑問なんて持ってても仕方がないし。

頭を調理モードに切り替え、エプロンをつけたその時、

ぴーんぽーん

「ん?なんだ?」

来客を知らせるインターホンがなった。

「ちょっと待っててくれカレン」

そう言いうと、俺は、頭を日常モードに切り替えると、エプロンを外しながら玄関へ向かった。

 

 

「よう坊主。突然で悪いが飯を食わせてくれ」

「飯などどうでもいい。セイバーに会わせろセイバーに!」

となぜか玄関には青と金のコンビ。

「この坊主の作る飯は絶品らしいぜ」

「む、そうなのか。ならば我が食さぬわけにはいかぬな」

「だろ?じゃ、そういうわけで上がらせてもらうな」

了承を得ぬままどかどかと上がりこむ二人。

了承くらい得ろよな、と思いつつ、

頭が急展開について行けず、そのまま、二人のあとに続く。

そして、居間へ足を踏み入れた瞬間。

「我は、突然用事を思い出した。帰らせてもらう」

「俺も俺も、今からバイトがあったんだった。それじゃあな坊主」

シュタッと逃げようとする二人。

しかし、

バシュー ずるずるずる

「「あああぁぁぁぁぁぁ」」

「ふふふふ。私が見えたら逃げるのですか。良い根性ですねこの豚ども」

あえなく捕まる二人。

了承も得ずに、どかどかと、他人の家に上がりこんだ天罰だろうよ。

これに懲りたら今度からもう少し自粛しような。

と、心の中で二人を戒めつつ、俺はエプロンをつけ、台所に向かう。

後ろからは、永遠と放送禁止用語が流れているが気にせず、料理に取り掛かる。

「とりあえず、この分だとあの二人は帰れないだろうし、材料は4人分だな」

そう独り言を呟きながら、俺は、改めて調理に取り掛かりはじめた。

 

 

 

夕食時

「げ!マーボーじゃねぇか!」

「雑種!我に毒を盛る気か!」

瞬時に、二人から反応が返る。

ああ、そういえばこの二人はもともと言峰のサーヴァントだったな。

きっと、と言うか確実に、あのマーボーを食べさせられていたのだろう。

だったら、この反応も頷ける。

しかし、それなら、なおさらこれを食べて、真実を知ってもらわなければならない。

「いいから食べてみろよ。きっと想像とは違うから」

「無理無理、絶対無理」

「我を殺す気か!!!」

よっぽどトラウマなのだろう。

二人は難色を示し続ける。

ここで負けてなるものか!

「よく見てみろよ。お前らが知っているマーボーと色も臭いも違うだろ?」

「く、そうだけどよぉ。マーボーはマーボーだぜ?」

「そうだ。マーボーはマーボーだ!その事実は変わらん!」

二人のトラウマは、相当根深いみたいだな。

無理強いはいけないよな、無理強いは。

早くも諦め始める俺。

「文句を言わずに、さっさと食えや」

体の芯まで凍えるような、凍てつくカレンの声。

この一言により、流れが変わった。

二人はびくぅっと体を震わせた。

この二人が震えるとは、カレンのサーヴァント教育は、ほぼ完成していると言っても過言ではないだろう。

まあそれはいいとして、カレン。食事中にあんまり汚い言葉は言わないように。

「く、くそ〜!こうなりゃ自棄だ食ってやるよ!」

「雑種。セイバーに伝えてくれ。我は最後まで勇敢であったと」

そう言うと、二人はサジをつけ、マーボーを口に運んだ。

パクっ ゴクン

マーボーを口へ含んだ瞬間、

同時に二人の表情が変わった。

後光が、彼らを包んだような気さえした。

「なんだこれ!?本当にマーボーなのか!?舌がしびれないぞ!?」

「ありえぬ。これではまったくの別物ではないか!」

驚愕の表情を浮かべ、がつがつとすごい勢いで食べ始める二人。

それもそうだろう。

二人が今まで食べてきたのはマーボーであってマーボーではない代物だ。

それに比べれば天と地の差があってもおかしくはない。

「どうだ?気に入ったのならどんどん食べてくれ。おかわりはいくらでもあるからな」

4人前で作ったつもりだったが、いつものセイバー勘定で作っていたので、

常人で言う10人前は作っちゃったからな。

習慣って怖いな。

「こんなにうまいのならいくらでも食べられるぜ」

「雑種ごときに、言われなくともそうしている」

二人はしゃべる間も惜しいというほどの勢いで食べ続けてた。

「それでは私も頂きます」

そう言うと、今まで二人の反応を眺めていたカレンも、マーボーをすくい口へ運んだ。

二人の反応は上々と言うかもう最上と言えるものだった。

カレンもあの二人ほどとは言わないが、良い反応をしてくれるはずだ。

ぱく ゴクン

「どんな感じだ?」

少々自身ありげに聞く。

「確かにおいしいです」

「そうか。安心した」

そう言われると作ったかいがあるというものだ。

それに、今日はカレンを招待したのだ。

彼女が満足しなければ意味がない。

「しかし、あえて言えば、少々辛味が足らないようですね」

「あ、なら少し赤唐辛子があったはずだからもってくるよ」

ちょっと、辛めに作ったつもりだったけど足りなかったかな?

「いえ、大丈夫です。持参の品がありますから」

そう言って懐から取り出したのは、なぞの粉が詰まった、人の頭ほどのでかさの大瓶。

いったい、どこに仕舞ってたんだ?

そんな疑問が浮かぶ。

疑問をよそにカレンはビンの蓋を開ける。

その瞬間、恐ろしいほどの刺激臭と共に目が開けられなくなった。

「ちょ、ちょっと待て何だそれ!!!」

恐ろしいほどの辛味臭が鼻につく。

横の二人も気配からして、同じような反応をしているみたいだ。

「香辛料ですが何か?」

イヤイヤイヤ

そんなものは香辛料とは言わない。

人はそれを毒って言うんだ!

と叫びたかったが、口をあけると辛味が口へ進入してくるので開けない。

そうこうしているうちに、

どばばばばああああぁぁぁぁ・・・

・・・・聞いてはいけない音を聞いたような気がした。

恐る恐る目を開けてみるとそこには、一つの混沌が生まれていた。

周りに刺激を飛ばし続ける、赤を通りこしてすでにどす黒いマーボー。

それはもう食べ物ではない。

悪意の塊だ。

しかし、それを食す生き物がこの世には居る。

一人は言わずと知れた言峰綺礼。

そしてもう一人は・・・・。

「これぐらいの辛さがちょうど良いですね」

そんなことを口にしながらもくもくと口にするカレン。

正直その光景を見ていると食欲がうせた。

他の二人もそうなのか、さっきまでがつがつとすごい勢いで食べていたのに、

今はもう手を出すことをせず、彼女の食べっぷりを眺めているだけである。

俺も、ただただ黙々と混沌を食し続けるカレンを眺める。

ぱくぱくぱくぱく ぱくっ?

突如カレンは、混沌を食べるのを止め、こちらを振り向き、

「食べます?」

進めてきた。

 

俺は・・・、

1、もろん拒否した。

 

2、少しの好奇心により食すことにした。

 

3、皿を持ち上げ金ぴかにぶつけるとにした。