東京都・23区食品衛生監視員協議会青年部での講演より(20018月)
*黒字がレジュメ、茶色・赤色が発言趣旨です。

2001830

新たな食品衛生情勢に対応するために、情報処理能力と監視技術のアップを!

笹井   勉(墨田区保健所生活衛生課)

■ 自己紹介

・何も知らずに飛び込んだ食品衛生監視の世界

別に先入観はなかったが、最初に感じたことは、「おい、こら」で監視はしたくないということでした。それで調べて見たら、そもそも食品衛生行政は「新しい憲法に基づき衛生行政警察権が警察機構から衛生機構へ移管され、これも転機となって食品衛生法が制定されたものである。」「取締に偏することなく指導啓蒙を主として、関係営業者の社会公共性の自覚と国民大衆の理解協力とにまち、強権出動は必要最小限とされたい。」「営業者の監視指導について、GHQは専門的知識を持った専門官に、専門知識と高潔さが必要、そういう教育をして欲しい。(食品衛生監視員制度の発足に当たって。)

・いきなり目覚めた?次席の時代(30代前半)

70年に入所以来3ヶ所目(7年目)の本所保健所の時代、年齢的に係長のすぐ下になり、本所保健所の食品衛生監視について全体を見渡せる立場になった。監視のあり方、目標、成果などをまとめる。特に、学校給食関係への支援については検査室に協力をあおぎ、生野菜の衛生について調査した。それと業種別食品衛生講習会に栄養士や保健婦を加えた。また、町会婦人会や児童館の午前中利用者子育ての会などに出前講習会の実施(77年から79年)

・成果の上がらない40

17年間本所保健所76年から93年まで前半の勢いはどこえやら、マンネリにならないように努めた。テニスを覚え、凝った時代でもあった。

・本を書くことになった50(※資料1)

  学生時代は鶏の腸内細叢の飼料による変動についてが研究テーマだった。サルモネラ食中毒の多発について関心を持っていた。出前講習の延長、消費者対象の講演会として、堺市O157事件がきっかけに消費者やその他の団体で話す機会が多くなり、その資料に500人以上の患者を出した事件の一覧を使っていたら、小さい出版社の社長から、こういう話を初めて聞いた、またなかなか一般の人が食中毒のことを聞く機会がない、ぜひ本にして欲しいとの要請があった。

  本を出版した後の反響は退職された保健所の医師や研究者から手紙や問い合わせがあった。その後、朝日新聞の9867月号家庭欄の「きほんのき」取材やTBSの森本哲郎の朝の番組で食中毒予防についての電話出演、その週にイクラのO157がありコメントを求められる。テレビ朝日のJチャンネルでも食中毒の特集で衛生研究所の柳川先生の出演した番組に出た。

出版や出演する際のスタンスは:いかに多くの人に食品衛生や保健所を知ってもらえるか、講習会で限られた人でなく桁違いの人に聞いてもらえる。食品関係業者だけでなく多くの消費者が聞いてくれる

・モットー、「名選手、名監督にあらず」「昨日と違う明日を」

学業はあまり優秀でないし、頭脳も明晰でないが、前向きに、やる気だけは持ち続けたい。そうした人にチャンスがくる。誰にでも可能性がある。いつか花咲くことがある。

高校野球で日大三高の小倉監督が言ったように「毎日毎日、毎年毎年同じ事の繰り返しでなく、すこしでも違う明日を、昨年と違う今年を、」仕事でも日常生活でもそうしていたい。最近は安易な繰り返しが心の安心になっている傾向がある。

  仕事の評価は:インプット(予算投入)→アウトプット(実績、監視・収去)→アウトカム(成果・衛生水準の向上)

【どんな食品衛生監視員を目指すのか】

今日はせっかくお呼びいただいたので、笹井しか話せないようなことを中心にします。

これが今日の主題かも?
「いろいろなタイプの監視員がいるが、どんな監視員を目指しているのか、あるいは食品衛生行政を展開しようとしているのかが問われている。」
資料食品衛生監視員のタイプ

★公務員を取り巻く環境の変化

  →大先輩は臨時職員で日銭の仕事をしていた

私たちが青年の頃にいた保健所の先輩は、臨時職員で6ヶ月ごとの更新で仕事をしていた、(技師(今の主事)になれないかぎり許可書の起案ができなかった)昭和一桁代の大先輩

保健所の運転手の話では、当時独身の現業職員は公園のトイレの脇の小屋で生活していた者もいた

という話を聞かされた。都立の衛生研究所まで検体を運ぶのに運転してもらった運転手さんに数回その話を聞かされた。そのころは一人で生活するにも困難なような給料だった。69年のオイルショックの時に30%も給料が上がったこれで一挙に人並みの給料になった。民間は山あり谷ありだがその中間を行っている。長く続く不況の今は

今は給料面で区内のトップ企業

今年は、東京都や墨田区は他の区に比べて給料がカットされているが

 都民・区民の生活が見えていますか

ますます公務員も厳しい(普通の)目で見られるようになっている

★食品衛生監視員のタイプ、あなたはどちら(※資料8)

  →監視業務は家内製手工業的なところがある。(我々の頃は?)

  先輩からの受け継ぎ如何で監視員タイプが決まる場合がある!

先輩の青年の頃と時代がまったく違ってきている。良いところは受け継ぎながら、時代にマッチした監視員像を追求することが望まれる 

 別紙のように、色々な監視員タイプを考えてみました。貴方はどちらのタイプ、どちらになりたいか?

どんな監視員像を作り上げるのか、これまでの話では説教じいさんで終わってしまう。すこし、今の食品衛生行政を考えてみたい。
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■ 食品を取り巻く新たな情勢とは

食品の国際化・輸入食品の増加(※資料2)

発売中の「ファーストフーズが世界を食いつくす」を読んでいる皆さんにも薦めたい。食の裏側にあるものの一端が見える。雪印乳業事件にも通じるものがある

  →食糧自給率は40%で、6割は輸入食品(食糧)に頼っている

 さまざまな国からさまざまな食品が入ってくる

  食品のグローバリゼーション、市場化が進行している。監視する際にその食品の持っている背景を捕らえる。そこに迫る監視が必要。墨田には環境衛生監視員の村瀬さんという有名人がいますが、村瀬さんから20年前、松島湾のカキの汚染、加工したカキの廃棄物を海に流す。それが海泥にうず高く沈んでいた。という実態について知らされた。輸入食品の増加が食品衛生にどのように影響しているのか、それに対応する監視は、また、食のグローバリゼーションは食糧安保の問題としてはどうなのかなどなど(遺伝子組換え食品、環境ホルモン)

 消費者が不安に感じるのは、自分の判断のできないことに対する恐れ。厚生労働省の一方的な安全だという説明をするのでなく、反対意見も含めて説明し消費者に選択してもらうようにする。

★加工食品の増加・同一食品の大量流通

  →家庭でも、飲食店でも加工食品の増加

ちょっと古データですが、日本では食事の6割強が加工食品と言われている。「ファーストフーズが世界を食いつくす」によれば、アメリカでは現在90%が加工食品に頼り、食事の半分は外食、中でもファーストフードに頼っている

★一つの食品工場での汚染が広範囲に広がる

 これに対応する監視指導ができているか、HACCPの考え方、どうするのか?

これも逸話、O157の汚染は、82年のマクドナルドに始まり、92年のジャックインザボックス、97年のハドソンフーズでは16千トンの肉を廃棄した

96年ハサップが導入されて、食品の安全管理作業を従業員に任せることになった。(情報公開されることのない検査記録)そのため政府の食肉検査官が削減されてしまった。

have a Cup of coffee and prayコーヒーを飲んであとは祈るしかない程度のシステムだと言う人がいる。

★新たな感染症(食中毒起因物質)の出現

従来は腸炎ビブリオ、ブドウ球菌の対策が中心だった、腸炎ビブリオは最近O3K6で大ブレークして存在感を示しているが

  →感染症予防法、食品媒介感染症への対処

  157SRSV(ノロウイルス)、SE(サルモネラ・エンテリティディス)、カンピロバクターなどの少量感染物質への対応は

 ここが現在の食品衛生の微生物問題を考える上で最も重要なポイントになっている

  このことを業者に十分わかってもらえているか、監視員が興味を持ち学習しているか、学習する熱意が感じられるか

★IT情報化社会(電子政府)と食品衛生

  →雪印事件でのインターネットへの情報の集中(※資料3)

    インターネットの情報から保健所にアクセスする(食中毒の相談)

 食品衛生での説明責任は、情報公開は、成果を積極的に発表する、外部監査が言われている

 食品監視の全国ネットの構築(違反・収去検査結果などがどこの保健所からもアクセスできる等)

 業者は情報を本部に集中して保健所の立ち入りに備えている。

(どこの保健所がいつ何を収去したかすぐわかる)あるスーパーに刺身を収去に行ったら店長に言われた。
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■ 食品衛生監視の評価
例えば、特別区生活衛生課長会のメンバーが見た食品衛生監視員の評価はかなり厳しいようです

  BSE、雪印事件でまたまた食品衛生監視行政のあり方が問われている(昭和30年代の森永ヒ素ミルク事件、40年代のカネミ油症事件、食品公害問題以来(※資料4監視力の減退退

衆議院厚生委員会(平成1288)雪印乳業事件の集中審議での藤原邦達参考人の意見陳述(週間保健衛生ニュース参照※資料5)及び全国食品衛生監視員のつどい(平成13428日、29日、横浜市)で指摘された内容。
雪印乳業事件とは、その特徴(藤原氏の発言・資料より)

→●最高度の食品衛生管理の仕組みであるはずのHACCPの認定工場で最大級の被害者を出したこと。

     日常的な指導、監視にあたる食品衛生行政が正常に機能していたか。

ここが監視員として問われるところ、全国的な状況からは十分ではない

  ●消費者の安全にかかわる企業の社内的なモラルや運営のありかたが問われた。

  会社上層部は牛乳を飲んで下痢をすることなどいくらでもある程度に捕らえた、買い取り出動

     こうしたずさんな操業は果たして雪印の工場だけだったのか。

スタートだったのではないか、今年2月に北陸乳業消毒薬混入事件

☆企業側の問題点と課題(※資料6)

→●HACCPの形骸化と届出義務違反、(パイプラインがどんどん変わる、日本の工場に適すか)

   企業も認証を取るのが目的、取るまでの請け負い人がいる。残された者は良く分からない

    パイプラインがどんどん変わる

  ●食品衛生・品質管理の意識の欠如と危機管理体制の不在、

   明治乳業の争議団の人と集会で一緒した(630日保健所公衆衛生を考える全国研究交流集会東京) 

   明治乳業でもハセップ工場の従業員はどこがハセップのラインなのか知らない72%

     行政、保健所との連携不足、

    保健所も監視しきれない、業者も見せたくない。相談を受ける

  ●消費者優先姿勢の欠如  など

   雪印は40年前にも同様の事件を起こしている。40年前の反省はどこえやら、日常的に不良品の回収は表面化しないで処理していた

☆真の原因追求の必要性

       各報告書は真の原因を指摘していない

→輸入脱脂粉乳の検査、厳しい労働条件、人員は30%以上減

 脱脂粉乳かなりひどい状態で輸入される、(保健婦さんを首切り)

 40℃を超えるところで作業、チェック項目多くて時間内にできない

行政側の問題点と課題

→日本の現行HACCPの問題点

  このシステムで事故が起きたのは「監査」体制が欠けているという指摘がある。

    厚生省は「食品衛生行政自体が監査の役割をしている」としているが、その「監査」役の保健所が大阪市では一昨年に24ヶ所から1ヶ所になった。

    保健所の統合再編が進んでいるが、監視に支障を来していないか、(墨田区は大幅に監視件数が減った)

  →地域保健法に基づく保健所の統廃合とそれに連動した監視員の削減・集中化で、指導・

   監視能力が「減退」し、地域格差が広がっている。

  →法定監視回数基準の「無視」、達成率は全国では14.5%で、さらに低下してきている。

  専任の監視員(食品衛生監視員)がゼロのところが14県もある。こうした事実を住

  民は知らされていない。(※資料7)

  →食品衛生法の限界、この法律は戦争直後の背景をもとに作られ、法の骨子は半世紀以  

    上続いていおり、「つぎはぎだらけの法律」になっており、もう「限界」にきている。

           抜本的な改正が必要。現行の法体系で食品被害を防止することができるか

以上藤原氏の指摘項目

 

■ 消費者側の対応の問題点

→食をめぐる情勢の変化への自覚、「権利」主張の強化、消費者運動の活性化(※資料8企業判断

暮らしの手帳の記事より「あなたの買い物がより良い世界を作る」アリス・テッパー・マリーンの闘いより、企業の良心を測る7つの姿勢(abcd)、世界的な企業のナイキが東南アジアで就学以前の年少者を働かせたと指摘されて、一挙に売れ行きが落ちた

  消費者の視点を新聞記事01331日朝日社説、

食品衛生監視員と消費者の関係は、監視員の責務は「食品の危害防止と公衆衛生の向上、増進に寄与」という食品衛生法で「営業者の監視・指導と支援」、しかし、地域保健法第63号で保健所の職員は食品衛生の指導として業者に限らず消費者についても対象にすることが示されている。

■ 監視技術の向上(食品保健行政の改善に関する調査研究を参照)

★的確な監視指導がなされているか

→的外れの監視指導をしていないか

   いつまでもスタンプスプレッドでの検査と、お決まりの講習会でよいか

   どんな業者のどこを監視指導するのか

    支援と監視指導、監視は自主管理の行き届かないところを重点に、

    自主管理ができるように如何に支援できるか、例えば焼肉屋をどうするか?

    From Farm to Tableでそれぞれの役割

★監視指導の結果を評価しているか

 →毎年、毎年同じ事を繰り返していないか

   目標に対しての成果を確認し、公表しているか

     年度を変えるだけの計画になっていないか、年間監視計画を豊かにする。

     仕事の評価はやった、やらないでなく、成果があったか、業者が理解し、行動変容する

★食品産業の新しい技術に監視が伴っているか

 →食品産業の技術発展はすさまじいものがある、これに対応できているか

   毎日のように工場に通わなければならないが、今の人員ではその時間が取れない。

   業者の自主管理に任せることになる(※資料9)、これでよいか?
  (専門監視、一般監視、)(地域分担、業務分担)23区でも機動班ができるか

     学校給食担当、保育園給食、社会福祉施設等々はかなり分担している 

HACCPをどうみるのか

 →規制緩和の面と高度な衛生管理の面がある。

   衛生管理向上のスローガンとしてのHACCP
  厚生省はと畜場や魚市場などの重要な施設の衛生管理向上の手段として利用した

   from Farm to Table、食環境全体を改善していく必要がある。

    HACCPの考え方を取り入れられるところはどしどし支援する(think global act local)、その後のフォローをしっかり行う。

以上、言いたい事を言わせてもらいましたが、東京都も23区も食品衛生監視員は削減される方向にあります。食品衛生監視の必要性を訴え、都民区民が安心して食生活が送れるよう、若い東京都・23区の食品衛生監視員の活躍を期待します。

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