[意 見]

[ゆっくり生きよう] 広島県保険医新聞 新春メッセージ 2010年1月10日 第405号
[国の基本方針は日本国憲法にある] 広島県保険医新聞 新春メッセージ 2009年1月10日 第394号
[政治家も国民もスウェーデンに学ぼう] 広島県保険医新聞 新春メッセージ 2008年1月10日 第382号
[誰のためか?何のためか?騙されてはいけない!] 広島県保険医新聞 新春メッセージ 2007年1月10日 第370号
[世界に冠たる国民皆保険制度を守るために互いに協力を] 広島保険医新聞2004年11月10日(第344号)
[医療・社会保障制度改革の背景と対抗の構想] 保団連夏期学習会記念講演(1997年7月12日・東京)
[健保連の意見広告についていいたいこと] 広島県保険医新聞1997年2月10日(249号)

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[ゆっくり生きよう]
広島県保険医新聞 新春メッセージ 2010年1月10日 第405号

橋本成一監督の『バオバブの記憶』という映画に、「いつから人間だけが地球の時間を追い越してしまったのか?」という言葉が出てきます。科学の進歩を背景に、人々はより快適でより便利な生活を追求し続けてきました。美しい自然を破壊してコンクリートで固め、大量生産・大量消費の道を突き進んできました。新しい道をつけ、新しい鉄道をひいて、一分一秒でも早く着けるようにしてきました。その究極が原子力発電ではないでしょうか。電力はすでに余っているにもかかわらず、人間の力では解決できない問題をかかえたままの原子力発電をおしすすめようとしています。原子力発電所がすべて止まっても、電力の供給には何の支障もないことは、東京電力の原子力発電所事故で証明されましたし、電力の消費量は今後減少することが予想されます。電力会社は電力消費を拡大しようとして、住宅のオール電化を強引に売込もうとしています。原子力発電では、電力の消費量に合わせて発電量を細かく調節することができないために、夜間の電力が余ってしまうのです。オール電化の住宅では、電気が止まればすべてが止まってしまいますし、電磁誘導加熱調理器具(IHクッキングヒーター)から出る電磁波は人体に有害ですし、心臓ペースメーカーを植え込んでいるひとは近づけません。原子力発電での一番の問題は、放射能汚染です。燃料のウランの採掘から運搬・精製、発電のすべての過程で、それにかかわる人たちは被曝の危険にさらされ、被曝者となります。原子力発電所や放射性廃棄物による放射能汚染は、世界中のひとを被曝者にし、体内に蓄積されて発癌の原因となります。使用済み核燃料は処理の方法がなく、再利用しても最も有害な物質で原子爆弾の原料であるプルトニウムが蓄積され続けます。原子力発電所は、すべて過疎地の自然を破壊して建設され、原子炉から発生する熱の三分の二を温排水として大量に海に捨てているにもかかわらず、発電時にCO2を出さないので地球温暖化防止に貢献すると主張しています。現在、山口県の上関町では、中国電力と山口県が、新たな原子力発電所を瀬戸内海国立公園に造ろうとしています。是非みなさんに、広島から反対の声をあげていただきたいのです。国はエネルギー政策や原子力政策を見直して、自然を破壊し人類を破壊しかねない原子力発電からすみやかに撤退しなければいけません。そのためには私たち一人ひとりが毎日の生活を見直して、地球の時間にあった生き方を思い出す必要があります。

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[国の基本方針は日本国憲法にある]
広島県保険医新聞 新春メッセージ 2009年1月10日 第394号

この国は今、ドロ舟に例えられるような状況にあり、多くの国民が国や企業によって困窮生活に追いやられようとしている。政治の誤りのつけは常に国民に押し付けられることを決して忘れてはならない。私たちはもう一度敗戦直後のこの国の再出発の原点に返り、わが国のみならず全世界の人たちの望みを託した日本国憲法をもう一度読み返し、憲法を生活に生かす努力をしなければならない。そこには理想と希望に満ちた人類の決意ともいうべき文章がある。『日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないようにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。われらは、いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従うことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立とうとする各国の責務であると信ずる。日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓う。』(日本国憲法 前文)

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[政治家も国民もスウェーデンに学ぼう]
広島県保険医新聞 新春メッセージ 2008年1月10日 第382号

約200年前に世界で最初にオンブズマン制度をつくり、約200年間戦争をしていない国、国民に豊かさと安心を保障する分かりやすい政治、国民は納得・安心・満足して、高い負担を自ら選択しているスウェーデンの福祉経済システムは、生産過程は競争原理を基礎にした資本主義的色彩が濃密で、分配過程は徹底的な所得再配分を基礎にした社会主義的性格が強い。
純資本主義でもなく純社会主義でもないという意味で、〈第三の道〉〈中間の道〉と表現される。
人生のさまざまな段階、状況の中で市民が必要とするときに、必要な援助を社会の集合的努力で提供することが、スウェーデン型福祉社会の理念であり、強調される八つの基幹価値は、自由、平等、機会均等、平和、安全、安心感、連帯感・協同、公正である。
特に強調されるのは安心感であり、人生の各段階で市民を恐怖に追い込む不安は、生むことへの不安、職を失うことへの不安、病気になることへの不安、社会的孤立・孤独の不安、不本意に死を迎える不安、老後生活への不安、教育機会喪失の不安の七つである。生活大国の政治は、具体的政策でこうした不安から市民を自由にする必要がある。
スウェーデンは税によって財政運用される包括的福祉を生命線にしている。税負担への意欲を維持するためには、公正度の高い政治制度と倫理感の高い政治家の行動が要請される。見える政治・開かれた政治だけでは高い税負担を市民に受け入れさせることはできない。公正な政治制度が大前提となり、各種オンブズマン制度は、公正原理で人権を保護する砦である。また、少数意見の噴出を可能にする一票格差を極小化した公平度の高い選挙制度、新聞や青年運動への公庫補助制度なども、同じ公正原理を基礎にしている。いまこそ我々はスウェーデンに学ぼうではないか。

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誰のためか?何のためか?騙されてはいけない!
広島県保険医新聞 年頭所感 2007年1月10日 第370号

今、現実にそぐわないとか、国を守るためとか、公共のためとか、時代に逆行するような理論を振りかざし、社会的責任を個人や家庭に押し付けて、なし崩し的に憲法を変えようという動きが強引に進められています。公然と憲法第99条を破り、第25条を無視した政策が提案され強行されています。その結果、社会不安が増大し、人々の心は蝕まれて行きます。憲法は国民を守るために国をしばる法です。これが国を守るために国民をしばる法に変えられようとしているのです。
私たち医療人が「命と健康が大切」と訴えても、平和が脅かされる事態となれば何の意味もありません。二度の世界大戦やベトナム戦争、イラク戦争を引き合いに出すまでもなく、平和は戦争ではもたらされません。日本国憲法はもっとも現実に即した憲法です。現実にそぐわないのは憲法違反の行為であり、その現実を変えて理想に近付けなければいけません。日本国憲法今まさに旬、日本国憲法は、世界平和宣言であり、世界人権宣言なのです。現行憲法のもとでできないことは、徴兵制と戦争です。教育基本法は日本国憲法に基づいて制定されたもので、国民を国家の犠牲にしない新しい日本を目指したものです。教育基本法だけを変えることは、また新たな憲法違反を犯すことになります。
私たち国民は、日本国憲法の三大原則(1)国民主権(2)平和主義 (戦争の放棄)(3)基本的人権の尊重を守りぬかなければいけません。

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[世界に冠たる国民皆保険制度を守るために互いに協力を、寺岡日副会長と面談を行って]
広島県保険医協会理事 数野 博
広島保険医新聞2004年11月10日(第344号)

9月21日突然内閣府から電話があり、規制改革・民間開放推進会議の委員で日本郵船会長の草刈隆郎氏が、ジャミックジャーナル7月号のコミュニケーション特集「患者医師関係を支えるコミュニケーションをもっとよくしていくために」の中の私の「社会へのひとつの入り口としての医療」という記事を見て、医療に関する規制緩和についての現場の意見として私の話を聴きたいと言ってきた。

おそらく「患者中心の医療」と言う私の主張を見て、現場での患者さんの多様なニードを聞き出して、現在の医療制度に対する不満を聞き出したいのだと思った。しかし現実には今の医療制度で対応できいようなことはほとんどなく、今の制度をさらに発展させることができればさらに良い制度になるだろうということくらいしか頭に浮かばず、突然のことなので問題点が何なのかわからなかったが、委員会としては「安全性を担保した上での規制緩和」という結論をすでに持っていて、最終答申を12月に出すと言っていた。

その時私にはそれ以上の知識がなく、できれば意見陳述の前に日本医師会の副会長をしておられる府中市の寺岡記念病院院長の寺岡暉先生にご教示頂きたいと思い、面談を申し込んだところ大変お忙しいにもかかわらず快く受けて下さった。面談までのわずかな時間にインターネットで本年6月23日に行われた第2回官製市場民間開放委員会議事録などを読んで、府中市の寺岡記念病院の院長室を訪れ私の考えを述べさせて頂いた。

混合診療解禁の理由付けをしたい委員会側は、希望する人が質の高い先進的な医療を受けられないのは不平等だと主張して、医療過誤とか、医者の倫理観とか、質の低い医療機関の淘汰だとか、自己決定権の抑制だとか、パターナリズムとか初めて聞く「医師天動説」などまで持ち出して、混合診療の禁止を理由に医師同士がかばいあって医師の平等をはかっているとたくみに医者の弱点をついてきている。

市場開放による自分たちの利益の拡大だけを目的として主張を繰り返すだけの委員会に対して、医師会は国民の利益のために、WHOが健康達成度の総合評価で世界一と認めた世界に冠たるわが国の国民皆保険制度の堅持を主張している。時間が限られているがお互いに協力して国民を味方につけて戦わなければいけないことを確認し、新しい日本医師会執行部の真摯な活動ぶりを聴かせて頂いた。

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医療・社会保障制度改革の背景と対抗の構想
一橋大学教授 渡辺 治
保団連夏期学習会記念講演(1997年7月12日・東京)

96年体制の形成
橋本6大改革は、80年代の第二臨調の延長線上に打ち出されたものであるが、日本の競争力の相対的な低下の中で、これまでの保守政権を維持するための利益政治への財政支出すら許さないような改革を迫っているという点で歴史的性格が異なる。96年の総選挙結果は、かつてない保守の議席独占−憲法改正の発議も可能−と自民党の利益政治の党から新自由主義政党への転換が特徴であった。

日本の多国籍企業化
日本の70年代末から80年代のはじめの高い競争力は、過酷な企業支配と下請け支配による低コストがその要因であった。これは国内だからできたことで、実際85年までは日本の多国籍企業化はほとんど進まなかった。しかし85年のG5による円高と輸出台数規制により、こうした背景による競争力ではもはや通用しなくなり、急激に海外進出が進んだ。ただ、アメリカやEU諸国への進出は成功しておらず、採算はとれていない。市場確保のため撤退もできない。そこで、一方で、日本国内での生産を維持し、他方で、環境規制などがなく、労働者の権利も保護されていない独裁政権下のアジアに進出して不採算を埋めている。そのため国内のリストラ要求も過酷になり、政治的に不安定なアジアの独裁政権を維持するためにODAや自衛隊の派兵要求がでてくる。こうした中で医療についても、スリム化と徹底した競争体制の導入が進められようとしている。これは企業の負担を減らすとともに、多国籍企業の新たな市場化への期待がある。

変革の展望
こうした方向と国民多数との矛盾は深まらざるを得ない。事実、今国会でのさまざまな悪法にたいし、医療、教育、憲法、女子保護規定などを守るそれぞれの運動が広がった。これからは、各分野でそれぞれ頑張るだけでは、財界の戦略には対峙できない。財界の描く「市民社会」に対抗する、「企業の多国籍展開の規制による新しい福祉社会」の構想を、各分野の人々が協力して示すことが必要であろう。

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「健保連の意見広告についていいたいこと」
ー患者負担は低くすべきー
広島県保険医新聞 1997年2月10日(249号)

昨年12月20日付け全国紙「読売」「朝日」「毎日」の各紙に掲載された健康保険組合連合会の意見広告を見て驚いた人は少なくないと思う。「サラリーマンは納得できない。保険料アップでは解決しない。将来を見すえた医療保険制度改革を!」との見出しで、健保本人二割負担、薬剤三割負担、老人定率負担の実施を訴えていた。

広告の主旨は、医療費の無駄遣いを理由に、患者負担の引き上げは認めるが、保険料アップは許さないというものである。医療費無駄遣いの例としては、欧米に比べ突出する薬剤比率と二倍以上の入院日数、保険医療費の不正請求返還額46億円などをあげ、医療機関の収入増を指摘している。

大阪府保険医協会が行った薬価の国際比較を見ても、我が国の薬価は欧米に比して確かに著しく高い。しかし、欧米の極端に短い入院日数は、高額な入院費に対する厳しい医療費抑制の結果であり、決して医学的とは言えず、退院後の患者ケアのシステムも異なる。

また、不正請求とされているものは、複雑難解な保険点数制度に起因する過誤請求や、保険者の被保険者に対する資格チェックの怠慢による資格喪失後の過誤請求、規則に従って請求したにもかかわらず認められず医療機関の持ち出しになったものなどが大部分である。また確かに、医療機関の総収入は経年的に増加しているが、高騰する人件費をはじめとする諸経費を差し引いた収益は決して増えてはいない。

意見広告の内容は、薬剤費に関する指摘以外は、的外れと言わざるを得ず、高騰したと言われる日本の医療費は、国民総生産に占める割合では世界的に見てもまだまだ低水準である。憲法の理念に基づく社会保障の観点からも、まず国と大企業の責任において経済大国に相応しい医療を、世界に誇るべき国民皆保険制度のもとに築きあげることを考えなければならない。

公的負担を増やし、企業の保険料はアップしても、サラリーマンの保険料や患者負担は低くすべきである。そして、医療は医師の責任において適正に行われなければならない。

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