広島県保険医新聞 全国保険医団体連合会参加報告

[シンポジウム「六ヶ所村再処理工場の危険性を問う! 放射能たれ流しで大丈夫?」に参加して] 2008年5月10日(第386号)
[講座「改憲を許さないために『九条の会』と医師、歯科医師の役割」に出席して] 2007年8月10日(第377号)
「障害を持った高齢者が住み慣れた場所で暮らす〜開業医の在宅医療・介護の実践と課題〜」2003年11月10日(第331号)
「『構造改革』路線に対抗する福祉国家構想が必要」2001年8月10日(第303号)
「健康に暮らせるまちづくり運動の実践と課題」2000年11月10日(第294号)
「インフルエンザ・ポリオ等様々な問題の解決に向け」19999年7月10日(第278号)
「『心ある介護』を望むなら、医療・福祉に思いきった投資をすべき」1998年11月10日(第270号)
「医療供給体制の再編(機能別再編成)と開業医の将来展望」1998年8月10日(第267号)
「いのちを守るーこれは我々医師の役目ー」1997年12月10日(第259号)
「医療保険制度『改革』」1997年8月10日(第255号)
「グループ診療体制の構築を」1996年12月10日(第247号)
「あまりにも拙速な介護保険」1995年8月10日(第231号)
「地域医療において何が大切か」1995年5月10日(第227号)
「けったいな協会・保団連を創ろう」1995年3月10日(第225号)

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[シンポジウム「六ヶ所村再処理工場の危険性を問う! 放射能たれ流しで大丈夫?」に参加して]
保団連公害環境対策部主催 2008年4月13日 於:明治大学(東京)
広島県保険医新聞 2008年5月10日(第386号)

京都大学原子炉実験所の小出裕章氏は、「再処理は核軍事の中心技術」と題して、米国の原爆製造(マンハッタン計画)で広島原爆を製造した濃縮ウラン製造技術、長崎原発を製造した原子炉によるプルトニウム精製とプルトニウムを分離する再処理技術からスタートした核開発、放射線被爆の危険性などを解説し、被爆に安全性はない、自然は放射能の浄化作用を持たない、希釈・拡散とは被爆を広げることだと講演した。

弁護士の海渡雄一氏は、「下北半島海底断層の活動性」と題して、国は否定しているが六ヶ所村再処理工場付近に活断層活動の可能性があり、地震の危険性と再処理工場の不十分な耐震性を指摘した。続いてシンポジスト3人が発言した。原子力資料情報室の澤井正子氏は、「六ヶ所再処理工場、ガラス固化体製造に重大な欠陥、本格操業開始は12回目の延期」と題して、再処理工場でのガラス固化体製造(高レベル廃液を固化すること)の失敗を明らかにし、最終処分場がないまま、高レベルの廃液が溜まっていく現状を示した。日本消費者連盟の富山洋子氏は、「すこやかな未来を次の世代に手渡していくために、再処理工場・原子力発電はいらない!」と訴えた。青森県保険医協会の山本若子理事は、「止めなくてはならない!六ヶ所再処理工場本格稼動、差別と排除の構図、あらかじめ用意された核のゴミ捨て場・青森、日本はドイツ政府に学べ、国民の守り方」と題して、地域社会を崩壊させる放射性廃棄物処理場の受け入れを批判し、核依存のエネルギー政策を止めさせなければならないと訴えた。また山本氏は、再処理工場が本格稼働することで原発がー年かけて放出する放射能量をたった1日で放出してしまうこと、その放射能はわずかーカ月で東京湾にたどり着くなどの問題点を強調。膨大な放射能は大気や海洋の汚染を招き、放射能で汚染された食物で体内被曝し、胎児の奇形や小児白血病の多発を引き起こすといった被害が懸念されると指摘し、「これは青森県だけの問題ではない」「遅すぎることなどない。共に考え、行動しよう」と強く訴えた。

原子力発電所は「トイレのないマンション」という例えのとおりで、最終処理の方法がない危険な放射性廃棄物を蓄積するだけであり、政府のエネルギー政策を転換させ、国民の命、健康、暮らしが踏みにじられるこの計画を阻止しなくてはならないと強く感じた。

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講座「改憲を許さないために『九条の会』と医師、歯科医師の役割」に出席して
広島県保険医協会副理事長 数野 博
広島県保険医新聞 2007年8月10日(第377号)

セミナー第2日(7月8日)の講座2「改憲を許さないためにー『九条の会』と医師、歯科医師の役割」に出席した。この講座は、九条改憲のねらいがどこにあるのかを改めて学ぶと共に、九条の会の運動をはじめ、憲法九条・二十五条を守れの運動を医師・歯科医師の立場でどう取り組むかを学ぶことを目的としており、まず担当役員の挨拶があり久間防衛相の「原爆しょうがない」発言をとりあげ、その背景に過去の侵略戦争を肯定するタカ派の安倍首相たちの思想があることを指摘した。

続いて九条の会事務局長の東大教授・小森陽一氏の「憲法と教育基本法をめぐる情勢と私たちの課題」と題した講演を聴き、歴史の流れの中での憲法の存在意義を改めて学んだ。小森氏の講演のレジメは、安倍新政権の危険な性格と教育基本法改悪、自民党「新憲法草案」のねらいと本質、9条2項改悪はアメリカの押し付け、国連憲章第51条に基づく「自衛」、20世紀の戦争と21世紀の戦争、21世紀の世界と日本国憲法第9条、の6項目からなる。

小森氏は、日本の再軍備から日米安保条約への経緯、今だに終わっていない朝鮮戦争(アメリカが終わらせない)、自衛隊と憲法解釈、国連憲章で認められた個別的自衛権と集団的自衛権のアメリカによる拡大解釈によるアフガニスタン攻撃やイラク戦争、などの歴史的経緯の検討をもとに、国連憲章と日本国憲法と自民党新憲法草案とを比較検討した。自民党新憲法草案では、自衛軍を保持し他国に対して軍事行動ができ、公共の秩序を維持するためには国民の権利も制限するということが明記されており、これは現在も行われている戦争の民営化を視野に入れた内容となっている。憲法は国民を守るために国をしばるものだが、自民党新憲法草案は、国のために国民をしばる内容になっていて、これは明らかに憲法クーデターだ。最後に小森氏は、これからも憲法を守る、改憲を許さないための積極的な活動がますます必要となってくると熱く呼びかけた。

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障害を持った高齢者が住み慣れた場所で暮らす
〜開業医の在宅医療・介護の実践と課題〜
広島県保険医新聞 2003年11月10日(第331号)

10月26日(日曜日)東京で開催された保団連・地域医療活動交流会に参加した。来年も予想される診療報酬のマイナス改定や2005年の介護保険制度の全般的見直しに向けて、在宅医療・介護における患者・家族及び住民の主治医としての開業医の役割をどう高めていくかということを焦点として、医科・歯科一体の活動報告と熱心な討議が行われた。

医師・歯科医師・ケアマネージャーの活動報告では、継続的医療の必要性や医療と介護の密接な連携の必要性や、自立支援のためのケアやケアプランの作成のための的確な医療情報の必要性が提起されたが、他分野についての知識不足と相互のコミュニケーション不足のために、在宅医療・介護の主役である在宅患者・利用者が必要とするサービスが必ずしも提供されているとは言えない。その原因のひとつとして本人・家族の状況を把握し、医療と介護の知識があって、本人・家族と医療と介護の三者をコーディネイトする役割を担うことができる人がいないことがあげられる。今後、主治医やケアマネージャーだけではなく、医療ソーシャルワーカーなどをこのコーディネーター役の専門職として位置付けることも考えるべきである。さらに本人にとって必要な医療・介護サービスを提供するために必要とされる適切なアセスメントと正確な情報伝達のシステム、及び必要な医療・介護サービスが適正に提供されているかどうかということを評価するためのシステム、さらに医療・介護サービスの結果を評価するシステムの確立も必要である。

2005年の介護保険制度の全般的見直しに向けて老人保健局長の私的勉強会として立ち上げられた高齢者介護研究会が本年6月に出した報告書の中では、身体ケアのみでなく痴呆性高齢者に対応したケアを高齢者介護の標準として位置付け、小規模・多機能サービスの拠点整備を打ち出している。さらに報告書は在宅高齢者の重症化への対応として、医療保険・介護保険によるサ−ビスを組み合わせることによって、ターミナルの状態に至るまで在宅での365日24時間の切れ目のないサービスで安心が提供できる医療を含めた多職種連携による地域包括ケアシステムの確立という方向を示している。このような流れの中で、かかりつけ医としての開業医の役割が模索されており、保団連地域医療対策部としては在宅医療を保団連活動の根幹となるものと位置付けて、すべての地域で「在宅医療・介護研究会」「在宅ケア経験懇談会」等の取り組みをすすめるなど、在宅分野での活動強化の方針を検討していきたいと考えている。

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「『構造改革』路線に対抗する福祉国家構想が必要」
保団連第31回夏期学習会報告
広島県保険医新聞 2001年8月10日(第303号)

7月7日(土)と8日(日)、東京都千代田区のダイヤモンドホテルで開催された夏期学習会に参加した。初日の夜は全体会議が行われ、まず津田光夫保団連理事の『政府の医療「改革」に対する保団連の改革提言と運動』と題した基調提案があった。間違った高齢者への攻撃や強調される自律自助への要求、弱者を社会的無駄とみなす誤った健康論などを理由に、政府は改革と称して医療費の抑制や医療福祉への市場原理の導入などで社会保障を犠牲にしようとしている。

これに対して保団連は世界に誇れる憲法9条、25条を基本理念とした「医療改革提言」で、「人間の生命と健康を重点とする政策」への転換を主張した。その中で、WHOも認めた我が国の医療に対する高い評価を支えて来た国民皆保険制度を堅持し、さらなる保険給付の拡充と患者負担の軽減をすすめて、国民が安心して暮らせる社会への原動力にしなければならないことが強調された。この点については二日目の午後に参加した第3分科会「診療報酬制度(医科)」でも確認された。国家財政の危機があたかも自分達の医療費のせいであるかのようにマインドコントロールされつつある国民、高齢者の目を覚まし、社会的共通資本である社会保障の充実こそ安心して暮らせる真に豊かな国造りの原点であることを粘り強く啓蒙することも開業保険医の使命である。

基調提案に続いて都留文化大学の後藤道夫教授の『小泉政権と「構造改革」第二幕』と題する記念講演が行われた。理路整然とした現状分析から今後の方向性を示す、分かりやすい講演で大変好評であったので内容を紹介する。

すでに猛烈な勢いで進んでいる構造改革にもかかわらず、国民も財界も改革が進んでいないかのように錯覚し、さらに進もうとしている構造改革(第二幕)を推進する原動力は何か?何故激しい変動が社会のすべての領域で起きようとしているのか?構造改革が進めば生活の水準は低下し、社会の安全性は低下し、不況は拡大するのに、国民は逆立ちした期待を小泉内閣に抱いている。
貿易摩擦問題後、日本の企業の多国籍企業化と日本経済へのグローバリズムの浸透による激しい不況圧力が長期的に中小企業を中心として働き続けている。これらにさらに拍車をかけるように社会のすべての領域での重大な法律や法改正が、小渕首相が倒れた第145国会で異常とも思えるほど大量に、多くの問題を含んだままほとんどフリーパスで通った。
所得税・法人税の負担軽減措置法など税制改正関連法、産業競争力再生特別措置法・租税特別措置法・商法改正、労働者派遣法改正、職業安定法改正、航空法・鉄道事業法・道路運送法改正、食料・農業・農村基本法、新ガイドライン関連法、国旗・国歌法、憲法調査会設置法、通信傍受法、中央省庁改革関連法、地方分権一括法、国立学校設置法改正などである。
こうして猛烈に進んだ構造改革によって、不況はさらに進行しつつある。日本の構造改革は特殊な構造をもっていて、福祉国家を壊すと云う新自由主義改革は進んでいるが、開発主義(経済成長を長期的に維持するために国家が市場に系統的に介入し続けるという資本主義経済)という国家体質を前提にした経済の体質は変っていない。つまり公共工事に50兆、社会保障に20兆といいう世界に例を見ない日本の財政構造に基づく開発主義を壊す改革が進んでいないという点で財界も国民の目も一致している。
しかし財界は多国籍企業にとって有利な大都市再開発のような公共工事だけに金を注ぎ込む改革を目論んでいる。国民には「開発主義解体、低効率部門保護と地域間均衡のための国家介入維持、福祉国家型の国家介入拡大」という選択肢が見えない状況になっている。
「構造改革」全体が引き起こす矛盾としては、社会保障需要の質的・量的拡大と社会保障リストラの衝突、階層間格差の拡大=「国民の分裂」、地域間格差の拡大と放置される地域の拡大、大企業と階層政治による国家の私物化などが予想される。企業を介在させて国民の生活を安定させるのか、直接国民のために税金を使うのか(福祉国家)、新たな福祉国家型の対抗構想が必要とされ、勝ったり負けたりしながら、地域的、ナショナル、グローバルに、力を蓄積して行く時代である。

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「健康に暮らせるまちづくり運動の実践と課題」
2000年度第2回 保団連地域医療対策合同部会に参加して
2000年11月10日(第294号)

2000年度第2回の保団連地域医療部会が10月22日に東京・三省堂分化会館で開催された。医科・歯科の合同部会での討議の後、各部会に分かれての各地域での活動報告が行われた。合同部会における主な議題と討議の内容を紹介すると、議題1の「『地域における保険活動必携』の内容検討」では、保団連の「健康に暮らせるまちづくり運動」の実践目標である「地域医療の担当者として、健康に暮らすために必要な生活習慣の見直し、公害・環境問題の改善、自治体の乳幼児、高齢者、障害者等に対する医療費無料化や各種検診事業の拡充、健康づくり運動など、『地域住民の主治医』としての役割を強める」ことと、国が第3次健康増進運動として打ち出した「健康日本21」や4月から老人保健事業に新設した「個別健康教育」、公衆衛生対策の主軸と位置づけた「生活習慣病」対策などの一次予防の強化策にみられる疾病の自己責任論や保険者機能の強化策に対応して、保健・予防活動分野での開業医の活動強化を図るために発行する予定の「手引き」の内容について検討した。ここでは「生活習慣病」という呼称の適否や「健康」の定義や、会員にとっての具体的な活動指針の必要性などの問題が提起された。議題2の「健康日本21に対する評価案の検討」では、国が今年4月にスタートさせた「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)の問題点(健康を取り巻く社会的環境整備を極めて狭く限定している、生活習慣病の呼称の危険性、国の責任が情報提供と評価に限定されている、保険者機能の強化をうたっている)を指摘し、一次予防に係わる医師及び医療機関の報酬上の手当ての保障や、公衆衛生活動における医師及び医療機関の役割・位置づけについての検討の必要性も指摘された。

引き続いて開催された医科部会では各協会の活動報告が順次行われた。当協会における在総診における併算定問題、国の監査に基づく特定の医療機関への県の自主返還要請問題、乳幼児医療費助成の強化運動、ポリオワクチンの追加接種の要求、広島市における保健所統廃合計画見直しの要求などへの取り組や、理事会としての電子カルテや法律に関する勉強会の開催などを紹介した。また委員として昨今の医療事故や医療訴訟などの問題に関連して、患者と医師の信頼関係を深めるために保団連の「開業医宣言」を高く掲げての患者中心の医療と、患者の権利を守る運動への取り組みの必要性を訴えた。これに対して福岡協会の委員から、日本におけるこの分野でのパイオニア的な活動である「患者の権利オンブズマン」への取り組みが紹介された。

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「インフルエンザ・ポリオ等様々な問題の解決に向け」
保団連地域医療部会 19999年7月10日(第278号)

5月30日東京の新宿ニューシティホテルで保団連の地域医療部会が開かれた。医科歯科の合同部会では、前回部会以降の活動の状況の確認、自治体独自医療費助成事業促進対策、こどもの「心の問題」対策、介護保険対策、「産業医のしおり」改訂について、の各議題についての討議が行われた。

このうち自治体独自医療費助成事業促進対策では、乳幼児医療費助成制度の拡充を求める運動を推進するために、「運動の手引き」の発行やパンフの改訂も検討し、老人医療費助成制度の現状についても報告があった。乳幼児医療については、東京ではほぼ就学前まで助成があり、兵庫県では入院だけではあるが6歳まで無料となった。乳幼児医療も老人医療もかなりの地域差があるものの、全国的にはきわめて不十分なことが確認され、引き続き制度の拡充を求める運動を推進することになった。

秋に行われる全国地域医療活動交流集会の企画として、こどもの「心の問題」を取り上げることになり基調講演の講師の選考が検討された。問題の解決には全人的な対応が必要であり、大人の社会の問題や家庭での躾け、それに人間として最低限必要な宗教教育などについても検討すべきであるとの意見も出たが、今回は医療者としての立場で学識経験者に依頼することとなった。

引き続いて医科と歯科に分かれて部会がもたれ、医科部会に出席した。医科部会では、がん検診対策、予防接種法「改正」(5年後の見直し)対策、感染症予防新法(99年4月実施)対策の各議題についての討議が行われた。このうちインフルエンザ関連では、毎年繰り返される施設での老人の集団発生と多数の死亡例などを防ぐために、高齢者をはじめとするハイリスク者に対する予防と治療に関する研究の推進とワクチン接種の公費負担を国に対して要望することになった。また昭和50年から昭和52年生まれの人にポリオの抗体保有率が低いことが指摘され、厚生省から追加接種に関する通知が出てはいるが、現実には追加接種を受ける施設が限られていて、費用もほとんど公費の補助がないのが実情である。抗体保有率が低いことについては、ワクチンの質の管理が適正に行われていなかったことが原因として考えれ、国の責任において充分な対処を要望していくことを確認した。

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「『心ある介護』を望むなら、医療・福祉に思いきった投資をすべき」
保団連介護保険改善対策役員学習会 1998年11月10日(第270号)

10月10日東京西新宿の三省堂会館での学習会に参加した。まず、各協会からの出席者による検討会が1時間行われ、9月12日の保団連介護保険改善対策事務局学習会での、厚生省介護保険制度施行準備室・三浦室長補佐の回答に対する補足と、各協会からの問題点が出された。

引き続き三浦室長補佐を招いて、質疑応答が行われた。新たに保団連から提出された質問と出席者からの質問に対しての回答がなされた。なぜ現金給付をしないのか、なぜ保険制度なのかと云うような根本的な質問に対しては、すでに論議された結果であるとの返答であり、実施にあたっての細かい事項になると、まだ考えていないとか、まだ決めていないという回答が多かった。このような質疑応答からは、厚生省はまだ細部については情報収集の段階であるという印象だった。

主な質疑内容は、三つに分類される。まず、かかりつけ医の書く意見書の文書料はいくらか、おむつ代やエアマットの料金などは介護保険で給付されるか、かかりつけ医の書く意見書に介護区分の項目がないのはなぜか、歯科医はかかりつけ医になれないか、特定疾病に心筋梗塞がなぜ含まれないのか、身障者は介護申請をしないほうが良い場合があるか、など制度の細部についてのもの。次に、施設介護の報酬はどのようにして決めるか、差額は取れるか、特養内の診療所の守備範囲は、介護報酬が決まる前に施設申請をさせるのはおかしい、など施設介護についてのもの。もう一つは、医療保険と介護保険の使い分けについてのもので、在宅で医療と介護のオーバーラップする部分をどうするか、介護施設での医療サービスをどうするか、などであった。

安からぬ保険料と自己負担を課せられた問題だらけの制度の中で、理想的な介護を追及しようとする医療者と最低限のサービスを提供しようとする行政側の姿勢からは、だれもが「長生きをして良かった」といえる国の将来の姿は見えてこなかった。このままでは、複雑・難解で「医は算術」と言われる医療保険制度の考え方に貧困な経済的枠組みを付け加えるようなもので、心ある介護はとても望めない。医療・介護・福祉の分野にこそ思い切った「公的資金の注入」が必要であり、そのことが安心して暮らせる日本の国作りの第一歩である。

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「医療供給体制の再編(機能別再編成)と開業医の将来展望」
第二十八回夏期学習に参加して
1998年8月10日(第267号)

「医療供給体制の再編(機能別再編成)と開業医の将来展望」をテーマに行われた第四分科会に参加した。、討論項目は、一、政府・厚生省の医療供給体制再編の狙い、二、政府・厚生省の施策をどう見るか、三、運動の展望と医療機関の対応、の三点で、まず室生保団連副会長から問題提起が行われた。

室生副会長は、患者や国民の声に応える対策として、必要な医療がその地域で十分に提供できることと、医療機関の経営が保障できることを踏まえたうえで、患者にとって最適な医療が提供できることが、あるべき医療供給体制についての要件であり、改善すべき点として、人員基準、施設基準を診療報酬で保障し、引き上げること、営利企業の参入阻止、必要人員の確保政策(職員の養成や診療報酬上の措置)を上げている。

医療供給体制の機能別再編における問題点としては、医療費が抑制され続けていること、医学・医療の進歩に単一の医療機関では対応できなくなてきたこと、大病院指向と開業医離れの進行などの流れの中で、開業医の生き残る道を探ることにある。

参加者からの討論は、医療供給体制の再編という厳しい状況下で我々が生き残るためには、地域における医療ニーズにどう取り組むかという点に集中した。そのためには、医療関係者同志の交流を深めて、より多くの情報を収集し、医療の客観性を高めることが必要であり、在宅医療が重要な交流の場に成ることを確認した。また、各職種による統一運動組織としての「医団連」の提案、看護婦の地位の問題、マスコミ対策(マスコミ教育)、入院できない患者を開業医が受け入れる運動などについての提案があり、悪法には徹底して反対することも確認した。

さらに、根強い医療不信を克服するための努力を惜しんではならない。貧しい日本の医療の中で高額納税者リストに名を連ねる医師、摘発される不正請求、患者からの不満などに対して、情報公開と対話の努力と、それらの根源である制度やシステムを改善する運動を展開しなければならない。主体性をもって地域でのあり方を考え、地域の人と共に生きることが我々の使命である。

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いのちを守る
ーこれは我々医師の役目ー
第12回保団連医療研究集会シンポジウム
「いのちを守るー人権・医療・震災」に参加して
1997年12月10日(第259号)

パネリストの講演はいずれも「経済大国・福祉後進国日本」の医療と人権の問題をするどくついたものであった。仏教大学社会学教授・浜岡政好氏の「阪神・淡路大震災と人権・医療」、東京HIV訴訟弁護団事務局次長・安原幸彦氏の「薬害エイズと人権侵害」、COML代表・辻本好子氏の「患者と人権」、京都造形芸術大学教授(精神科医)・野田正章氏の「精神科医と人権」を聴いて、医師の社会的責任を改めて痛感した。

常により良い医療を求めて日々努力する我々であるが、社会の間違った流れやシステムに埋没してしまってはいないだろうか。我が国の医療システムや医師を、国民はどのように評価し、どのように対応しているのであろうか。医師に対する信頼は一方的な情報提供だけでは生み出せない。批判されるような不正と言われる行為や悪徳医師などの問題を放置したまま、いくら正義をうたっても空々しい。最大の欠陥は自己チェック・システムの欠如であろう。日本では医師免許を取得してしまえば、医師は直接第三者の評価を受ける機会はまずない。医師は医師と医療に対するチェック機構を自らの手で作らなければならない。我々は人の命と健康と心を守ることを職業として選択したのであり、決して地位や名誉や富を得るために働いているのではない。医師として毅然とした態度を示し、実行しないかぎり、国民の信頼は得られない。

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医療保険制度『改革』
第二十七回夏期学習会に参加して
1997年8月10日広島県保険医新聞第255号

「医療保険制度『改革』、老人保険制度、財源問題を含む」をテーマに行われた第五分科会に参加した。討論項目は、一、今回の健保闘争をどう評価するか、二、なぜ、医療の「抜本改革」なのか、三、今後の医療改革とは、の三点であった。これらの項目について、健保闘争の総括、医療保険制度の「抜本改革」の背景にある情勢問題、「抜本改革」として計画されている内容と他団体の主張にたいする保団連としての対案、を中心に討論が行われた。

いち早く運動に取り組み、千八百万人の署名を集めたにもかかわらず、今回の健保改悪を阻止できなかったことは、保団連の発言力の弱さを露呈したものであるが、患者負担増反対を貫かなかった日本医師会に対する批判も相次ぎ、医師会脱退や自由民主党への半強制的な政治献金反対の意見も出された。日医の態度は、国民からは利益養護団体のように映り、「医者が自分たちの利益に固執するので、医療費が増えすぎて患者負担を増やさざるを得なくなる」という印象を与えたようだ。我々は「保険で良い医療を!」という基本を忘れず、医療専門団体としての役割を発揮し、「市民の立場」で、地道な運動を展開しなければならない。

「大競争時代」とは、多国籍企業の生き残りをかけた利潤追及を最優先させることであり、そのためには、企業の法人税や保険料負担を軽減し、国の責任としての社会保障を切り捨てて、医療・福祉をも市場化しようという考え方であり、すでにアメリカでは著しい貧富の差が生じ、弱者は切り捨てられている。国の財政難を理由に社会保障切り捨てを行ったイギリスやフランスでの総選挙の結果を見れば、国民の意見は明かである。日本でも昨今見られるような、国民大多数の意見に反する政治がそう永く続くとは思えない。

医療保険の「抜本改革」として挙げられているものは、すべて医療費抑制のための手段に過ぎず、掘り下げた議論のないままに、来春の見切り発車に向けて準備が進んでおり、医療関係業者にはすでに改革の内容が伝えられているようである。我々が知り得る範囲では、薬価制度は「薬価基準の廃止か参照価格制か」、診療報酬は「包括制か出来高払いか」、老人保険制度は「別建て方式か継続加入方式か」の二者択一の議論しかなく、患者負担は「負担増と給付率の削減」、医療の供給体制は「受診・入院の抑制、医師数・病床数の削減、保険医の定年制、民間企業の参入」など、極めて単純な議論である。現行制度の良いところを生かし、悪の根源を是正しようという努力は感じられず、国の責任を放棄しようとするものである。今こそ医療専門集団としての対案を出すべきときである。

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「グループ診療体制の構築を」
96年度保団連地域医療対策拡大部会 1996年12月10日(第247号)

10月27日、96年度保団連地域医療対策拡大部会が、全国から30名が参加して東京西新宿の三省堂文化会館で開催された。今回の部会の協議事項は、(一)在宅ケア推進のための新・提言(案)についての検討、(二)各地の実態からみた在宅ケア・マネジメントの検討、(三)その他であった。議事は、保団連野村副会長の開会の挨拶に始まり、短い昼休憩をはさんで夕方まで熱心な討論が続いた。

「在宅ケア推進のための新・提言(案)」の骨子は、(一)今、在宅ケア推進のための提案をする意義について、一、在宅ケア推進にあたり、保健・医療・福祉の最近の特徴、二、少子・高齢社会を迎える地域の中で、三、若手開業医の積極的参加を促す、四、保団連の組織強化・拡大の新五か年計画の目標と位置づけて(二)現在の在宅医療・在宅ケアに関する問題点、(三)シルバー産業の利用は住民負担の増、(四)在宅医療への提言、である。順次検討し、これからの在宅医療の問題点と開業医の役割について、公的介護保険法案の問題も含めて、活発な意見交換が行われた。

引き続き、積極的に地域医療に参加し、在宅医療に取り組んでいる先生方の活動報告が行なわれた。京都の野々下女氏が長岡京市における介護支援体制の概要を、香川の三木氏が引田町における高齢者サービス調整チーム会議の現状を報告した。両氏とも、地域の保健・医療・福祉の在宅ケア担当者とネットワークを形成し種々の困難を克服して先進的な活動を実践している。

一方、我が国の社会保障は財政難を理由に大きく後退し、医療は内容的にも経済的にも厳しく抑制されようとしている。世界に誇るべき(公的)医療保険制度は、公的介護保険制度を利用して解体されようとしており、多くの制限付きの公的介護保険と施設の不足のため、施設福祉中心から地域福祉中心へと移行することが予想される。

今後主体となるであろう在宅ケア・在宅医療をはじめとする地域医療において、地域住民のニードと期待と信頼に答えるために、保険・福祉とのネットワークの構築のなかで、かかりつけ医としての開業医の役割は益々大きいものとなる。しかし、開業医も多様な理念に基づく機能分化を示しており、24時間対応を含む多様なニードに答えるためには、やはりグループ診療体制の構築が必要であることを痛感させられた。

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「護憲の必要性を再確認」(記念講演)
「あまりにも拙速な介護保険」(分科会)
第25回保団連夏期学習会(東京)
広島県保険医新聞 1995年8月1日(第231号)

7月8日と9日の両日、第25回保団連夏期学習会が東京千代田区のダイヤモンドホテルで開催された。初日は、室井保団連副会長の「二十一世紀に向けて第一線医療・医学の継承と発展をめざそう」と題する基調提案に始まり、浅井明治学院大学教授の「戦後五十年、憲法の果たした役割と今日の課題」と題する記念講演が行なわれた。

浅井先生の講演では、戦争責任者が戦後も政治の中枢に居座るという他の敗戦国では見られない現象や、ほどほどに批判はするが急激な変革を好まず忍耐と諦めを特長とする国民性、急激な経済成長に伴って蔓延した個人主義などのために、崇高な平和主義の憲法の理念が蔑にされつつある現状や、戦後日本の海外派兵などに対する一定の抑止力として、また、世界平和のための理想的憲法としての国際的評価などから、護憲の必要性を再確認した。

二日目は、七つの分科会に別れて熱心な討議が行なわれた。そのうち第6分科会では、「あるべき介護保障と公的介護保険」と題して、政府が2年後に導入を予定している公的介護保険制度についての学習が行なわれた。

まず始めに、我が国における公的介護保険のモデルとされているドイツの介護保険の概要が紹介され、続いて厚生省の高齢者介護自支援システム研究会の「新たな高齢者介護システムの構築をめざして」という報告書(平成6年12月)、厚生省の高齢者介護問題省内検討プロジェクトチームの「高齢者自立支援保険制度(仮称)」試案骨格(平成6年8月)、日本医師会の「高齢社会を迎えるに当たって(中間まとめ)、介護保険を中心に」(平成6年12月)などを検討し、日本の医療・福祉の現状の分析と北欧の福祉先進国やドイツとの比較検討を行なった。

そこでは日本の極めて貧しい社会保障の現状が改めて浮き彫りにされた。政府が考えている公的介護保険は、施設やマンパワーなどの提供すべきサービスがないまま制度だけを作り、しかも強制加入の社会保険方式で高齢者からも保険料を取り、給付は抑制し利用者負担や付加サービスへの自己負担、営利企業の参入などを積極的に導入するというものである。勿論保険料を払えない人は給付を受けることは出来ない。また、給付は「自立支援士」なる資格の者が取り仕切る。自立支援士は必ずしも医師とは限らず、一定の資格さえあれば誰でもよい。

日本が手本にしようとしている福祉後進国と言われるドイツでさえ25年に及ぶ論議と準備の末、昨年やっと「介護保険法」が成立した。政府の公的介護保険制度はあまりにも拙速である。多くの問題を残したまま、医療制度から年金制度までの大変革と増税を意図した政府の公的介護保険に対して保団連は、「公的介護保障制度確立に向けた保団連の提言」を行なう。

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「地域医療において何が大切か」
95年度保団連全国地域医療活動交流集会(東京)
広島県保険医新聞 1995年5月1日(第227号)

4月23日、95年度保団連全国地域医療活動交流集会が東京西新宿の三省堂文化会館で開催された。今回の交流集会のメインテーマは「地域の保健・医療・福祉のネットワークを考える」であった。

議事は、保団連池尻副会長の開会の挨拶に始まり、三塚同志社大学教授の「最近の地域保険行政をめぐる政府の施策動向等について」と題する基調講演に続いて、「在宅医療をすすめるためにー施設ケアとの連携をさぐる」、「老人保健福祉計画と地域の保健・医療・福祉のあるべき姿を考える」、「震災と地域の医療活動」という三つのテーマについて合計11の発表と討論が行なわれ、最後に三塚教授からまとめとして「開業医・保険医協会への提言」という発言があった。

三塚教授は、政府の医療・福祉政策の動向を「社会保障と健康・医療・福祉の連携」の観点から分析して、その矛盾と問題点を指摘した。「民活型の在宅ケア」という言葉に集約されるように、本来、国の責任と保障によってなされるべきものを、個人や地域の相互扶助や自助と、民間企業の市場拡大に肩代わりさせようという一貫した政策の流れが歴然としている。

それらは現場の実情を無視した、根拠のない数字に基づいたものが多く、絶対的なマンパワーの不足を無資格職種の導入などでしのごうとしたが、質の低下と各職種間の連携の困難さを助長しただけで、改めてマンパワーの不足を露呈する結果となった。満足な在宅医療を行なう環境からは程遠いにもかかわらず、開業医は「在宅をやれば金がつく」、だから「やらざるを得ない」状況に追いやられている。そのような状況にもかかわらず、積極的に地域医療に参加し、在宅医療に取り組んでいる先生方の活動報告が行なわれた。

在宅医療の形態は、二つの方式に大別される。一つは、「自己完結型」であり、もう一つは「チーム医療型」である。「自己完結型」は、一つの医療機関で在宅、デイケア、ショートステイ、入院の全てを行なうものであり、郡部型である。「チーム医療型」は、既存の医療機関や施設、システムなどの連携で対応しようというものであり、都市型である。いずれにしても、中心となる医師は、コンダクターとして、またコオディネーターとしてあらゆる面で大きな負担を背負うことになるが、それは常に前向きに、より良い医療を追及し、「ノー」と言えない医師の宿命である。

在宅医療をはじめとする地域医療において、地域住民のニードと期待と信頼に答えるためには、保健や福祉との連携は勿論のこと行政や地域の社会活動にも積極的にかかわり、政策などの決定に際しては、現場の意見が反映されるように努力しなければならないことを痛感させられた。震災被災地における地域医療は、まさにそれらの集約されたものであると言える。

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「けったいな協会・保団連を創ろう」
第33回定期総会(東京)に出席して
広島県保険医新聞 1995年3月1日(第225号)

1月28・29日の両日、保団連95年度定期総会が東京晴海のホテル浦島で開催された。阪神大震災の直後でもあり、緊急特別議題として兵庫協会の被災状況や被災地での医療・救援活動の報告と、「保団連・協会の総力をあげ阪神大震災の緊急支援を訴える特別決議」が議決された。

総会の主な議事内容は、本年度の活動方針、予算、総会宣言などに関する8議案(原案通り可決)と、各協会の総会代表発言による討論であた。このうち討論は、事前の発言通告に基づいて七つに分類され、合計72の意見と質問が発表された。発言の内容は二つに大別される。第一に、保団連の性格と活動内容、組織の構成と運営、運動方針案、運動の展開方法など、保団連の活動・運動に関する基本的な問題についての発言と、第二に、日常の医療・協会活動における具体的な諸問題についての発言である。

その主なテーマは、大規模災害対策、入院給食費助成、診療報酬引き上げ、医薬品(薬価)問題、行政手続法、税金(消費税・事業税)問題、看護制度(付添看護・看護類別)、医療活動、医歯格差、介護保険制度などである。いずれも多岐にわたり数も多いため、議事進行に追われるような総会であった。

広島県代表の上田喜清氏は、「消費税引き上げ反対の国民的運動を」と題して、消費税率引き上げを緊急の問題として取り上げ、国民的反対運動を展開して行くために、税率引き上げ反対に意見を統一して、他団体と足並みをそろえることを提案したが、執行部の答弁は、医療の完全非課税(ゼロ税率)の実現と消費税廃止への運動というメイン・スローガン通りのものであった。

印象に残った発言としては、京都府代表の「単価引き上げ要求運動を推進せよ」と題して、診療行為の難易度の指数である点数と経済指数である単価を車の両輪として、従来の不合理点数の是正とともに「単価引き上げ運動」に取り組むことを提案したものと最終発言者の愛知県代表の「けったいな協会、けったいな保団連を創ろう」と題して、より良い医療を求めて情熱を燃すけったいな医師の団体としての協会と保団連への、いつまでもその原点を忘れずに、けったいな存在であることに誇りを持とうという励ましの言葉であった。

しかし、折角の熱意と労力と時間が有効に使われたとは言いがたい。議案の議決は形式的であり、討論は全体集会という物理的・時間的制約から総花的な発言とその場しのぎの答弁に終止した。各協会での検討を踏まえた、系統的で深い討論の場が必要である。因みにピア・レビューという重要な問題についての発言はなかった。もっともっと「けったいな協会・保団連」にしたいものである。

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